サプライチェーンの最適化によるビジネスの差別化

筆者:ケルビン・ウォン (Kelvin Wong)
サプライチェーンの最適化によるビジネスの差別化
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低迷するグローバル経済におけるアジアの台頭

ヨーロッパの債務危機とアメリカの景気低迷に際して、先進経済国の多くは低成長の1年になると予想しています。 これに対し、国際通貨基金は、好機の波は西から東へと徐々にシフトしつつあり、新興市場の成長が刺激になると予想しています1

新興のアジア地域は、富と内需の増大によって成長が推進され、企業に多大な事業機会を提供しています。 アジア全体で世界の経済活動の4分の1に貢献しています2。 今後10年間にアジアの中間層の支出額は5兆米ドルから2030年には33兆米ドルへと6倍に増加すると予測されているため、この数値はさらに増大することが予想されます。 中国とインドに加え、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどの諸国も成長を支える役割を果たすでしょう3


2007~2010年の間にアジア域内貿易は3倍の速度で成長し、2007年の1兆9,000億米ドルから2010年の2兆5,000億米ドルへと30.4パーセント増加しました4。 アジア地域が世界の製造拠点から世界最大の消費者市場へと成長するに伴って、アジア域内の貿易フローは劇的に増加すると予想されます。 世界的消費者製品貿易商社、利豊社 (Li & Fung) のハブ・貨物ソリューション担当上級副社長トミー・ルイ(Tommy Lui)氏は、アジアの主要経済国の経済成長は、より安価な製造国から先進国への一方向の製品の流れに変化をもたらしたと指摘しています

過去数十年間に、グローバル企業はアジア各地に事業およびサプライヤーの複合的な足場を築いています。 主要な消費者市場としてのアジアの発展に伴い、企業はアジア全域のサプライチェーンを見直して効率化する必要性に直面しています。
サプライチェーンの最適化によるビジネスの差別化

複雑さを増すサプライチェーン

欧米の共通貿易圏と異なり、アジアの貿易の実情はきわめて断片的で異質です。 アジア地域の貿易に関する法規や障壁も絶えず進展しています。 また、世界のサプライチェーン担当幹部を対象に行った調査の結果、製造業者は経済の混乱や不確実性に伴うグローバルサプライチェーンの複雑さを強く認識していることがわかりました5。 その複雑性の要因としては、燃料価格の変動、自然災害、経済危機、サプライチェーンの持続可能性・セキュリティ要件の増大などが挙げられます。

こうした複雑性によってグローバルサプライチェーン戦略の変更が必要になる可能性があります。 ロジスティクス・プロバイダーは、サプライチェーンの堅牢性と柔軟性の向上に対する製造業者の期待の高まりに応えるため、その能力を強化する必要性がますます高まるでしょう。

アジア全域のサプライチェーンの管理

アップル社(Apple)、デル社(Dell)、P&G社などの大手製造業者は、サプライチェーン管理をグローバルビジネスの差別化能力として利用しています6。 アジアなどの新興市場が企業の収益と成長に占める割合も大きくなっています。 たとえば、P&G社の発展途上国における市場規模は2011年の第4四半期には9パーセント増加しましたが、北米では2パーセント、西ヨーロッパでは0.5パーセントの増加に止まりました7

アジアでの成長は、中国とインドの巨大経済と共に東南アジア、北東アジア、南アジアの諸国によってもたらされています。 このように、企業が捉えようとしている機会はアジア全域にわたり、特定の国に限定されていません。

過去数十年間に、グローバル企業はアジア各地に事業およびサプライヤーの複合的な足場を築いています。 主要な消費者市場としてのアジアの発展に伴い、企業はアジア全域のサプライチェーンを見直して効率化する必要性に直面しています。

シンガポール: 企業のバリュー・チェーンの変革を実現する環境

サプライチェーンの見直しを図る企業が増えると共に、サプライチェーン事業を支援する世界的サービス・プロバイダーが多く存在するシンガポールは主要サプライチェーンハブとして注目を集めるようになりました8。今日、シンガポールには多数の多国籍、アジア、およびシンガポール国内のロジスティクス企業が拠点を置いています。 世界最大規模のサードパーティ・ロジスティクス企業(3PL)25社のうち20社がシンガポールで事業を展開しています。 たとえば、2004年以降、DHLエクスプレス社はアジア太平洋地域の基幹品質管理センターをシンガポールに置き、全世界の速達便の複雑なネットワークの管理を行っています。シンガポールに拠点を置くことで、アジア全域を見据えた戦略的な視点を持ち、アジア全体を対象として事業の将来のソリューションを開発することができます。 たとえば、最近、インフィニオン社 (Infineon) はアジアのサプライチェーン全体を最適化する目的でシンガポールにサプライチェーン科学センターを設立しました。同センターは複数の製造パートナーが関与し、サプライチェーン・プロセスの革新的な向上を目指しています。   

シンガポールに拠点を置くことで、アジア全域を見据えた戦略的な視点を持ち、アジア全体を対象とした事業の将来のソリューションを開発することができます。 たとえば、最近、インフィニオン社 (Infineon) はアジアのサプライチェーン全体を最適化する目的でシンガポールにサプライチェーン科学センターを設立しました。同センターは複数の製造パートナーが関与し、サプライチェーン・プロセスの革新的な向上を目指しています。

シンガポールの製造拠点を活用

シンガポールは、エネルギー、化学、航空宇宙、バイオメディカル・サイエンスといったさまざまな産業にわたる世界水準の製造業の拠点となっています。 医薬品の分野では、シンガポールは2000~2010年の医薬品輸出において世界第3位の成長率を達成しました9。 こうした主要製造業者は、シンガポールに拠点を置くロジスティクス企業にとって高度な先導市場となります。また、ロジスティクス企業は近接性を活かして顧客と緊密に接触し、その要望に応じてサプライチェーン・ソリューションをカスタマイズできます。たとえば、UPS社は、2011年にアジアでは同社初となる医療用地域物流施設をシンガポールに開設し、成長を続けるアジア地域の医療・医薬品市場への対応を図っています。  また同社は産業や政府の規制機関との緊密な連携を開始し、医療用コールド・チェーン輸送向けの専用航空貨物コンテナを含めた新しい専用サービスを導入しました。

全アジアに通用する専門知識を持った人材の育成

アジアの主要新興市場間の多国間貿易の新規誕生・増大に伴い、ロジスティクス企業および製造業者はアジアに対する知識を深める必要が生じています。この目的のため、EDBはシンガポールに拠点を置くDHL社やYCH社などのロジスティクス・サプライチェーン企業が中国やインドといった新興経済国での実務を中間管理職に体験させる取り組みを支援しています。知識と専門技術をシンガポールに一元化することにより、ロジスティクス企業および製造業者はアジア市場向けのサプライチェーン・ソリューションを構築しやすくなります。 

今後の展開

5年後には、アジアの製造業とサプライチェーンの模様は大きく変動する可能性があります。 アジア域内貿易の交差点にあたり、多くの大手グローバル企業がアジア拠点を置いているシンガポールは、アジア地域における企業のサプライチェーンの変革・最適化を支援する体制が整っています。 アジアに今後登場する新しい事業機会に際して、企業はシンガポールを拠点とすることで新しいサプライチェーンのニーズに即応できます。アジアの規制・貿易の実務に通じたサプライチェーンの強固な人材ベースに支えられて、シンガポールはサプライチェーン事業の最適化とアジア全域の事業の管理を目指す企業にとって最適な立地条件が整っています。   

出典:

1 国際通貨基金『世界経済見通し-均衡のとれた経済成長』(World Economic Outlook (WEO), World Economic and Financial Surveys)2012年4月

2 米国農務省経済局『International Macroeconomic Data Set』2012年1月27日(www.ers.usda.gov/data/macroeconomics/

3 経済協力開発機構(OECD)『The Emerging Class in Developing Countries 2010』

4 WTO『国際貿易統計』2007 – 2011年

5 IBM Institute of Business Value、2010年12月

6 2011 AMR’s Top 25 SCM Leaders 

7 http://business.inquirer.net/42663/as-us-slows-pg-turns-to-developing-markets

8 世界銀行が最近発表した世界155カ国の物流効率性指数において、シンガポールは世界最高の物流拠点として評価されました。

9 データモニター: 『Global Pharmaceuticals誌』2011年12月号。2011年12月号と2012年1月号の各国レポートから。

ケルビン・ウォン (Kelvin Wong) 2012年8月
筆者紹介

ケルビン・ウォン (Kelvin Wong)は、2011年4月にプロフェッショナル・サービスおよび物流担当局長に就任しました。 2012年4月からは国際団体プログラム・オフィス局長も務めています。 同局長は、シンガポールにおけるロジスティクス産業とプロフェッショナル・サービス産業の発展を推進する主要政府機関としてシンガポール経済開発庁(EDB)の取り組みを先導しています。 また、国際 / 地域非営利団体の拠点としてのシンガポールの発展を目指す「政府全体の取り組み(Whole of Government)」構想を支援するEDBの取り組みも指導しています。

ウォン局長はシニアオフィサーとしてEDBに入庁後、1997~1999年に半導体・精密工学クラスターを担当したほか、庁内のさまざまな部門で職責を果たしました。 1999年4月には、米国のEDBニューヨーク事務所ディレクターに就任しました。 2002年4月には、シンガポールに帰国しEDB物流担当局長に着任しました。 現職に就く前は、2007年4月からEDBのシカゴ事務所に地域責任者として就任し、米国の中部22州にわたるEDBの投資促進事業を監督していました。 2008年10月にシンガポールに帰国し、物流・都市ソリューション担当局長に就任しました。

ウォン局長はロンドン大学インペリアル・カレッジに入学し、 1996年に通信・信号処理修士号および電気・電子工学の一級優等学位(メダル受賞)を取得して卒業しました。