昨年9月に同社広報担当者は、この競争の激しい分野への参入と成功を見込んだ理由について、同社は1990年代にディーゼル微粒子フィルターシステムを考案していたとストレーツ・タイムズ紙に語っています。しかし市場の準備が整わず、プロジェクトは中断しました。同担当者は、「ダイソンのすべての技術をバッテリー電気自動車に結集させる機会がついに巡ってきました。今では排出ガスを排出管でろ過するのではなく、原材料レベルで解決することができます」と述べています。
同社はシンガポールを選んだ決め手として、高成長市場に隣接しアクセスに優れていることや先進的な材料や部品のサプライチェーンへのアクセスが良好であること、さらには熟練した信頼できる人材が豊富で高い製造能力を活用できることを挙げました。
同工場は12月に建設を開始し、2020年に完成予定です。
リー・シェンロン(Lee Hsien Loong)首相は、先進製造業の専門知識、世界および地域への接続性、科学研究者や技術者の高い質を理由にシンガポールで最初の電気自動車を作ることを決めたという、同社設立者でその名字を社名に冠している発明家のジェームズ・ダイソン(James Dyson)氏の談話をFacebookの投稿にて紹介しています。電気自動車は2021年に発売される予定です。
業界関係者もこのニュースに大きく驚かされています。
ドイツのトップ製造メーカーの上級エグゼクティブは「中国には100社以上の電気自動車メーカーがありますが、いずれも伝統的な自動車メーカーではありません。さまざまなサプライヤーから部品を購入して組み立てているだけです」と語り、「巨額のコストリスクがあり、アフターサービスや安全リコールに対処する専門知識もない。存続可能なモデルとは言えません。けれども必ずしも成功しないという意味ではありません。自動車製造企業のジーリー(吉利汽車)も元は冷蔵庫メーカーでした。しかし、このように成功できるのは一体どれほどの確率でしょうか」と述べています。
シンガポールで上場している別の大手自動車会社の上級幹部は「ダイソンは自動車製造において最も費用のかかる場所を選んだ」と言い、「自動車メーカー以外の企業でもテスラのような経済規模を達成することはできません。また大手自動車メーカーが電気自動車モデルを大規模に展開し始めたら太刀打ちできないでしょう」と語りました。
しかし、シンガポール国立大学戦略・政策学部のアンドリュー・デリオス(Andrew Delios)教授は「シンガポールでの製造は高コストではありません。高度な自動化を伴う高付加価値製品の場合、熟練技術者と安定したビジネス環境が時間当たりの賃金よりも重要です」と述べています。
同学部のニティン・パンガルカル(Nitin Pangarkar)准教授は「通常のダイソン製品と比べて自動車製造ははるかに複雑であり、ダイソンの自動車生産は珍しい事例です。自動車製造における知名度や技術的な専門知識に欠ける中、大きなチャレンジとなるでしょう」と述べました。
シンガポールには1960年代に自動車組立産業がありましたが、域内に低コストの地域が出現した1980年代にそのすべてが閉鎖されました。しかし約15年前、シンガポール政府は同産業の復活について検討し始めました。
シンガポール経済開発庁(EDB)は、メルセデス・ベンツ、BMW、日産、ゼネラル・モーターズなど大手自動車メーカーがシンガポールで製造・組立を行えないかという可能性を探りました。
シンガポールでのダイソンの歴史は、11年前、高速電気モーターの開発を行う小さなエンジニアリングチームから始まりました。現在シンガポールに約1,100人の従業員を擁し、これまでに5,000万個以上のモーターを製造しています。
出典: シンガポールプレスホールディングス(SPH)
1英ポンド(GBP)=145円(2018年11月9日現在)