アジアへの玄関口
アジア市場への対応を強化するため、複数の企業がシンガポールに地域統括本部を置いています。アジアでの情報技術サービスへの需要の増加とシンガポールのビジネス上の利便性を考慮すると、これは理にかなった選択です。
IBMなどの多国籍企業はシンガポールにイノベーションセンターを設立し、アジア地域の課題に対処し解決するためのツールや洞察の研究開発を行っています。
フィンテックと物流分野におけるセキュリティ問題に注力しているIBMのブロックチェーンイノベーションセンターは、その種としては同社初のイノベーションセンターです。IBMリサーチ、グローバルラボ副社長のロバート・モリス(Robert Morris)氏は、世界最大の拠点港であり世界第3位の金融センターであるシンガポールは、同施設の立地条件に最適だと述べています。
同氏は、「複数分野でのビジネス取引を向上させるためにブロックチェーンとコグニティブ技術の活用を研究する今回の事業は、IBMにとって同国内で民間部門と複数の政府機関と連携する初めての事例となります」と語り、さらに同事業は「財務、銀行取引、IoT、ヘルスケア、サプライチェーン、製造業、テクノロジー、政府、法制度などにおいて、広範囲にわたる革新的な影響を及ぼすだろう」と語りました。
デジタルトレーニングへのフォーカス
先見性のある人材計画が行われていなければ、デジタル国家への前進はありません。リン氏は「デジタル人材の確保が最優先」と言います。
政府が支援するソフトウェア設計・開発のセンター・オブ・エクセレンスである GovTech Hiveは、政府機関に技術サービスを提供するだけでなく、デジタル人材の育成にも取り組んでいます。
IDAデジタル設計開発担当ディレクターのイーユン・リム(Eyung Lim)氏は、同施設は敏捷性を最大限に高めるために様々な分野のデジタル実践者を雇用・訓練しているとし、「多分野にわたる総合チームが、政府のデジタルサービスや政策の開発において俊敏な対応を実現しています。ここでは様々な専門能力を活用して、あらゆるサービスやソリューションを徹底して開発することができます」と語っています。
また新設されたスキルズフューチャー・プログラムでは、シンガポール人が継続的に専門スキルを向上させることができるよう、クレジットと補助金により訓練費を相殺しています。スキルズフューチャー・シンガポール最高経営責任者のウン・チェルポン(Ng Cher Pong)氏は、2015年のプログラム開始以来、政府が支援する訓練施設は年々増加し、重要な役割を果たしているとし、「スキルズフューチャーは、生涯学習とスキル熟練についての考え方を変えるもので、実際に企業や個人の考え方にも変化が見られている」と語りました。
スキルズフューチャーへの予算に加え、情報通信省(MCI)は国内人材の情報通信技術を向上させるために3年間で1億2,000万SGD(96億円)を投じる予定で、これにより2020年までに情報通信分野にて3万人の新規雇用の創出を見込んでいます。
しかしトレーニングは計画の一面に過ぎません。国内に才能を維持することも必要不可欠で、若年層のシンガポール人に意欲をかき立てるようなキャリアパスを提示することが重要です。リン氏は、政府技術庁(GovTech)や情報通信メディア開発庁(IMDA)などのデジタル推進部門が、人材育成とデジタルリーダーの任命という2つのプロセスによる人材採用のアプローチを他の機関と共有することを推奨しています。
このような国全体が一丸となった取り組みを行うことで、将来の社員や補助サービスが必要かどうかにかかわらず、企業はシンガポールにてデジタル即戦力のある人材を確保できるようになります。
アジアでの足場を得ようとしているテクノロジー企業にとっては、シンガポール政府の洞察力、ビジョン、リーダーシップにより、ビジネス基盤の強化を促進できます。シンガポールで得られる支援、人材プール、地域的なアクセスも、シンガポールが事業拡大の拠点としてトップ候補地とされる要素です。
シンガポールは、バックエンドプロセスをデジタル化・合理化する広範囲にわたる大規模な戦略を既に実行し、効率性とコスト削減を実現しています。過去の経験をベースとして、「シンガポールは今後もデジタル政府の水準を高めるため取り組みを続けていくだろう」とリン氏は述べました。
出典:シンガポール経済開発庁(EDB)フューチャー・レディ・シンガポール
1シンガポールドル(SGD)=80円、1米ドル(USD)=110円(8月22日現在)