なぜドイツの中小企業がシンガポールを選ぶのか

試験・測定機器を専門とするローデ・シュワルツの社長兼COOのペーター・リーデル（Peter Riedel）氏は、この地域がもたらす絶好のチャンスを最大限に生かすためには完全なコミットメントが必要であることを認識しているとし、「シンガポールのオフィスを単なる作業場の拡張と捉えるのではなく、包括的な会社の一部として考えています」と語っています。

欧州にとって魅力的な新興アジア

今まさに機は熟しています。ユーロ圏経済の2017〜2020年の年間成長率予測は2%と低迷する一方、中国、東南アジア、インドといった新興アジアは、2017〜2021年に平均6.2%の成長が見込まれています。消費者主義へ傾き始めたばかりの東南アジアだけでも6億人以上が居住しており、ミッテルシュタントにとって非常に有望な地域となっているのです。

これまでに多数のミッテルシュタントがシンガポールの加速化するインダストリー4.0によってもたらされた技術の可能性を活かし、先進製造業における革新的ソリューションによって強力な地位を確立しています。シンガポールには約1,690社のドイツ企業があり、その多くはGMCです。

地域のニーズに対応するローカルソリューション

アジアは自動化、統合、eコマースといった世界的トレンドに乗る一方、文化の多様性による独自のニーズが豊富に見られるという市場の特質もあります。企業は、近代化する顧客の要望と伝統を尊重しながら、時代の流れについていく方法を見つけなければなりません。時にこれは、将来的な持続的成長を確保するために地域に投資することを意味します。

同氏は「ドイツの標準的な製品群を市場に提供するだけ」では（アジアでは）成功できないと語ります。

このローカリゼーションのプロセスの中心にあるのがR&Dの取り組みです。現地の研究者は大気汚染などアジアでの問題を取り上げて、ドイツの研究者と共同で革新的ソリューションの開発を行っています。

イントラロジスティクスを専門とするSSIシェーファーは、製品開発はドイツで行っていますが、マレーシアの製造工場とシンガポール本社にて現地顧客向けにソリューションをカスタマイズし、プロセス改善のための詳細な調査を行い、アカウント管理を行うという独自の方式をとっています。その結果、伝統と革新がダイナミックに組み合わさり、それぞれの市場に特化したソリューションを実現しています。

現地人材への投資が長期的な成功の鍵

ただし、ローカリゼーションでは単なる製品のカスタマイズ以上のものが求められ、現地人材への投資も必要です。SSIシェーファーが認識しているように、地域内の顧客へのサービス提供には現地で活動することが不可欠です。

シェーファーシステムズインターナショナルのマネージングディレクターであるブライアン・マイルス（Brian Miles）氏は「顧客指向の会社指針に沿って、ここシンガポールに、アジア市場向けに特化して製品を適応させるデザイナー、プロジェクトマネージャ、ITスペシャリストの専門チームを設けています。自動化ソリューションの需要がますます高まる中、アジアのお客様は、現地の統合チームから最短時間で迅速な対応を受けることができるのです」と述べています。

ローデ・シュワルツのリーデル氏はこのアプローチを支持し、「当社のお客様はアジアの方々です。そのため、スタッフが同じ地域出身者であると、すぐに共通の理解を得ることができます」と説明します。

しかし、アジア人の人材活用を推進する上でのハードルは他にもあります。それは、従業員が2〜3年ごとに仕事を変える傾向が強いこの地域で、管理者と労働者の強い結びつき、直接的なコミュニケーション、顧客への徹底したコミットメントを重視する企業文化を守るのに十分な期間にわたって人材を保持するのが困難な場合があるということです。

そこで役立つのが人材育成プログラムです。たとえば、ローデ・シュワルツは地元教育機関とパートナーシップを組んで人材育成とスキル開発を実施し、SSIシェーファーはR&Dセンターを設立して、トレーニングを行ったり学生グループや顧客に最新技術を紹介しています。ローデ・シュワルツを含む多くのGMCは、シンガポール経済開発庁（EDB）および地元の技術系専門学校と提携し、シンガポールからの学生がドイツの応用科学大学で学ぶことを支援するPoly-Goes-UASプログラムの確立に取り組んでいます。このプログラムでは、学生は支援企業でインターンとして働くことによって、現場研修を受けながら学位を目指して働くことができます。これらの学生の多くは、卒業時には支援企業にとって理想的な従業員となっています。

継続的な教育を提供することは、ミッテルシュタント企業が、地域において長期的な成功を実現するためには熟練した技術者を採用し維持することの重要性を理解しているということです。

シンガポール：理想的な環境

価値の高い現地人材と主要市場への地理的な近さを併せ持つシンガポール独自の魅力は、ミッテルシュタントがシンガポールに拠点を置く決定的な要因であり、GMCにとってこれ以上効率的なロケーションを見つけることは困難でしょう。

また、おそらく同様に重要なのが安定したガバナンスです。企業は信頼を持ってシンガポールに投資を行うことができます。シンガポールはイノベーション主導の企業にとって重要な要素である知的財産権の保護においてアジア第1位となっています。

これらの要素により、シンガポールは短期的な利益よりも長期的成長を重視する企業にとって群を抜いて重要な存在となっています。長期的にシンガポールに拠点を置いて活動している企業には、国から成長と拡大のための有利な条件が提供されます。

フィッシャー氏は「アジアに進出したいのであれば、利益を得るまでには時間がかかることを覚悟しておく必要があります。成功は一晩で手に入れることはできません。その代わり、より持続可能性の高い長期的な利益を得ることができるのです」と総括しています。

出典：シンガポール経済開発庁（EDB）

https://www.singaporebusiness.com/2017/why-german-smeschoose-singapore-talent-location-governance.html

1ユーロ（EUR）=132円（2017年12月8日現在）