シンガポールでは、ロジスティクス企業の間に、この次世代技術の採用が増加してきている。今回は、新たな自動倉庫システムの導入によって生産性を向上させ、更には“人”の働き方、スキルにも変化をもたらしている郵船ロジスティクスの取組をご紹介しよう。
自動倉庫システムAutoStore、サプライチェーンを効率化するしくみ
郵船ロジスティクスのシンガポール法人は、東南アジアからオセアニアにおけるサプライチェーンを統括する一大拠点ともいえる存在である。新たに増設された物流施設は、約33,000㎡の敷地に延床面積約20,000㎡の倉庫、更には36のトラック搬入口、100台以上の駐車可能なトラックヤードを完備している。また、この新施設の一番の目玉が、自動倉庫システムSwisslog AutoStoreだ。 AutoStoreは、ロボットが自動で在庫を保管・管理し、自動搬送してくれるシステムで、専用コンテナを使い最大16段まで積み上げることがきる。AutoStoreを使えば、多品種多量さまざまな製品を効率的に管理することが可能で、急増する東南アジアやオセアニアのEC市場に最適なシステムとなる。実際、アパレルや靴、雑貨などの在庫管理に利用される予定で、従来、在庫管理の中心業務であった、伝票や指示書にしたがって商品を取り出していくピッキング作業の効率化に大きな期待が寄せられる。
自動化に適応する人材、作業効率を6分の1に短縮
それでは郵船ロジスティクスで働く社員は、この自動化の流れに、どのように対応しているのだろうか。郵船ロジスティクスに勤めて24年の経験を持つIvy Chew氏にお話しを聞くことができた。Ivy Chew氏は、現在、倉庫管理部門に勤務しており、顧客担当の一員としてロジスティック・オフィサーの役職を務めている。商品の受取、収納、注文発送、返品管理など、日常業務の計画を担当している。「私が郵船ロジスティクスに入社して最初に担当したのは倉庫担当でした。当時は小さなスペアパーツなどの製品を手動でピッキング作業し、集計などを行っていました。この仕事は当初は紙と電卓を使って業務をこなしていました。その後、表計算ソフトのエクセルで行いました」と自動化される前の業務について語ってくれた。そして、AutoStoreについては、以下のように語っている。「AutoStoreで最も印象的な点がピッキング作業の効率化です。例えばシューズのピッキング作業を例にとると、これまで私たちは、250足のシューズを取り出すのに、伝票や指示書にしたがって倉庫から商品を取り出す作業に4時間から、長くて6時間ほどかかっていました。しかし、AutoStoreでは、同じ作業をなんと1時間30分でこなすことができました。この時間は、更に短縮可能で、おそらく1時間まで効率化することができます。この生産性の向上は驚くべきものです。」また、彼女は次のようにも述べている。「私たちは今、これまで以上に、より多くの注文をこなすことができます。そしてこの生産性の増加によって、業績が向上し、より多くの顧客の製品を届けられることが楽しみです」。
その一方で、技術を使いこなし、業務と生産性を最適化するためには、そこで働くチーム全体が、新たなスキルを身につける必要がある。郵船ロジスティクスではスキルアップのためのトレーニングも行っている。Ivy Chew氏によると、在庫管理業務を行うためには、倉庫の場所と番号を把握している必要がある。これまでは、この業務にスキャナーを使用していたが、新たにAutoStoreでは、パソコンとソフトウェアのインターフェースを使いこなすスキルが求められる。「システムの電源を入れたり切ったりする方法や、ログインする方法、ピッキング作業を行うためのインターフェースなど、AutoStoreを操作するシステムに関する理解にはじまり、上司へ報告する問題の種類の把握、緊急ボタンの操作など緊急時の対応策など、自動化のための新たなスキルアップを行っています」。Ivy Chew氏は、自動化と自らの今後の展望について「私の24年間の仕事人生において、コンピューターにタッチしてロボットを操作する仕事を行うとは、思いもしませんでした。これは忘れられない経験です。今、私は更に興味深い挑戦に取り組んでいます。それがロボットのメンテナンスのためのシミュレーションです。将来は、ソフトもハードも更にAutoStoreを熟知し、自動化のためのスキルアップを行い、成長に貢献していきたいと思います」とその意気込みを語ってくれた。AutoStoreのような次世代技術が導入されることで、一般社員の能力も、これまでのような肉体労働から、より習熟した専門的なスキルに進化していく。