政府の後押しが先進製造技術の導入を促進するという考え方も、決して新しいものではない。2011年、ドイツは第4次産業革命として広く知られる「インダストリー4.0」の概念を作り出した。2014年に韓国が創造経済に向けた施策の一環として「製造業イノベーション3.0」戦略を導入し、2016年には台湾が「スマートマシン推進プログラム」でそれに続いた。2015年、中国は「メイド・イン・チャイナ」計画を発表した。その3年前には米オバマ政権が国家科学技術委員会(National Science and Technology Council)の先進製造分科会を設置している。同分科会は先進製造の研究開発に関わる連邦政府プログラムや活動を計画・調整するとともに、先進製造の4ヵ年国家戦略計画の策定および更新を行う。
シンガポールは長年にわたり、中小企業と大規模な地場企業の両方に対して各種制度(Go Digitalなど)や政府機関(シンガポール科学技術研究庁など)を通してデジタル化とイノベーションを推進してきた。これらの制度や公的支援のねらいは、国内企業が抱えるであろう技術格差を埋めること、そして、シンガポールで事業活動中か事業活動予定であり、迅速な先進製造導入を計画している多国籍企業のグローバルサプライチェーンに加わるため、国内企業により価値の高いビジネス機会を提供することである。したがって、シンガポールが製造業の未来に向けて取り組みを強化することは手遅れでも時期尚早でもない。
ただし昨今の状況により切迫感が増し、今が転換の最適な時期になった。中国の人件費が上昇し、貿易・地政学上の米中対立が深刻化し、またコロナ禍でサプライチェーンの多様化が焦点となったため、製造のグローバルハブとしての東南アジアのポテンシャルに注目が集まった。ムーディーズ・アナリティックスの見方では、東南アジアは世界の工場としての中国に取って代わることはないものの、東南アジアの多様な経済は、人件費削減と貿易・地政学上のリスク軽減に向けた動きの恩恵を世界で最も享受しやすい。
シンガポールは国民1人当たりの収入がASEAN地域内で最も高く、低コスト製造の分野で競争するには物価が高すぎる。それでも、同国はよりハイエンドな製造エコシステム(エレクトロニクス分野、精密機器分野など)でいっそう関心を引き、製薬、航空宇宙などの産業が注目している専門分野別サプライチェーンにおける中心拠点として見られている。同国は高度な半導体製造ベースを拡大することで、現在は米国、台湾、韓国が支配している次世代製造ビジネスの一部を獲得できる。
中国がより高価値の製造(半導体、構成部品など)にシフトしたため、特にマイクロプロセッサー、メモリーチップなどのシンガポールで製造している電子部品分野の世界市場シェアが低下した。それでもシンガポールは、メモリーチップと構成部品について世界有数の製造地としての地位を維持し、その恩恵を受け続ける。AI、オートメーション、ロボットによってコスト格差が縮小するのに伴い、数多くのグローバル企業がターゲット市場の近くで生産することの優位性を求めて、実際に生産施設を近隣国に移している。それでもなお多くの多国籍企業は、世界で最も成長著しい消費者ベースであるアジアで活動を継続するだろう。
また、新たなサプライチェーンソリューションの登場によって、それらの企業は大規模な生産施設や在庫をアジアに保持することなくアジアで活動を続けられる。たとえば航空宇宙関連企業は、世界のどこの3Dプリンティング施設でも随時生産できる、特定の航空機部品のデジタルモジュールを使用できる。アジア最高水準のデジタルインフラに支えられ、シンガポールはジャスト・イン・ケース型サプライチェーンの中心拠点として機能できる。
最後に、国内のイノベーションチャンピオンを育てる機会について述べたい。
世界大手企業は、少なくとも新技術と革新的アイデアを試すことに対して以前ほど抵抗を持たなくなった。その点を考えると、シンガポールは国内企業を先進製造のグローバルバリューチェーン内のかけがえのない存在へと押し上げることができる。同国の最も若いユニコーン企業で南洋理工大学からスピオフした先端材料技術を持つNanofilm Technologies Internationalは、イノベーションチャンピオン候補のほんの一例である。
出典:The Straits Times © Singapore Press Holdings Limited. 無断転載を禁ず。
「S'pore's push towards advanced manufacturing a just-in-timemove(2021年3月20日)」の翻訳。
エラーは翻訳者自身のものです。