米エマソン・エレクトロニック社は、アジア地域で初の「パーベイシブ・センシング・センター・オブ・エクセレンス」を開設、1000万米ドルを投資した。工場内のあらゆる場所に設置したワイヤレスセンサーから集めたデータを分析し、従業員の安全確保やコストとリスクの削減など支援する。同社ではシンガポール経済開発庁(EDB)と協力してパーベイシブ・センシングに関する実験的なプロジェクトとトレーニングプログラムも提供している。
ITコンサルティングの世界大手、アクセンチュアも同社初となるIoT研究拠点「Internet of Things Centre of Excellence」をシンガポールに開設した。ビッグデータや人工知能、仮想現実、センサーなどIoTに関連する技術の研究を行う。EDBはここでも新しい技術パートナーを紹介するなどの支援を行っている。この拠点には、オーストラリアの資源大手リオ・ティント(Rio Tinto)のイノベーションハブも入居しており、アクセンチュアでは他の企業とも協業を進める等、当地の利を最大限活用している。
一方、日系企業では、横河電機の子会社であるYokogawa Engineering Asiaが2015年11月、顧客企業やIT企業とともにビッグデータを活用するための技術開発拠点として「Yokogawa Global IIoT Co-Innovation Centre」をシンガポールに設立した。今後3〜5年で1億1200万シンガポールドルを投資する計画で、すでに電力、化学、石油精製業界の企業と協業することで合意している。
化学産業でのIoT活用で、日本企業が主導的役割
シンガポールの製造業のなかでもエレクトロニクスと並ぶ最大セクターであるエネルギー・化学産業は、プロセス技術が非常に複雑な点や安全操業を最優先する立場から、先端技術の導入に対して保守的な面がある。
そうした中にあっても、シンガポールのエネルギー・化学産業では日本企業がIoT活用における主導的役割を果たしている。
例えばデンカは、蒸気トラップのモニタリングによりエネルギー損失と設備故障を特定するためのパイロット・プロジェクトを実施している。
このプロジェクトでは、エマソンのパーベイシブ・センシング技術を活用されており、61台の蒸気トラップのうちの15%が適切に稼働していないという分析結果が得られた。これは蒸気の発散に推定で年間2万9245シンガポールドルのコストがかかり、62トンの二酸化炭素が発生していることを意味する。これをデンカが保有する蒸気トラップ300台に換算すると、このプラントだけでエネルギー損失が年間14万4000シンガポールドル、二酸化炭素追加排出量が300トン超に達する。デンカではこの分析液化を生かして今後、蒸気トラップの適切な稼働や二酸化炭素排出量の削減を進めていく。
また、住友化学は2016年11月、EDBの支援を受けシンガポールでグローバルIoTプロジェクトを開始した。このプロジェクトはアクセンチュアと協力しながら進め、プラント関連業務のデジタル化、グローバルサプライチェーン情報の可視化・高度化など最新テクノロジーの積極活用に取り組む。住友化学ではこのプロジェクトで確立した技術をシンガポールからグローバルに展開していくことで、グループ全体のIoT化を加速させていくことを表明している。
産業用IoTの導入に関してEDBのエネルギー・化学産業担当局長,ダミアン・チェン氏(Damian Chan, Executive Director)は次のように述べている。「私たちは、日本の化学メーカー各社が、シンガポールで産業用IoTを活用していることをうれしく思います。これらのテクノロジーを通して、私たちは、製造分野の競争力を持続的に向上させるための大きな一歩を実現することができます」。
エネルギー効率や生産性、あるいは安全性の向上など、産業用IoTから得られるメリットは計り知れない。シンガポール政府は、新たな事業機会の創出とエネルギー・化学業界の変革を目指して、今後も世界各国の企業との協働を強めていく。