マレーシアは、米国とメキシコに対する最大のIC供給国としての地位を確立したほか、欧州連合(EU)と中国のIC輸入においてそれぞれ9%のシェアを持っている。マレーシアの対メキシコ輸出が米国経由で行われ、その一部がシンガポールを経由することから、これらの大市場で担うマレーシアの大きな役割は、シンガポールの再輸出も増大させている。
しかし、中国からのIC需要の拡大に対応するため、マレーシアはIC輸出をシンガポールの代わりに香港に移する一方で、フィリピンは過去10年間で、シンガポール経由のIC輸出の割合をほぼ半減させている。
域内諸国は概して、EUや日本などからシンガポール経由で調達を行うよりも、北東アジア諸国から直接、または香港を経由して調達することが多くなっている。とはいえ、米国やEUを含め、中国以外の市場へのシンガポールのIC再輸出は、香港からの再輸出を依然として大きく上回り、平均でその約1.3倍に達している。
また、シンガポールが他の電子部品や最終製品を中国からASEAN諸国へと再輸出していることも、特筆に値する。シンガポールからの再輸出が電子製品輸入に最も大きな割合を占めているのはインドネシア(32%)であり、逆にその割合が最も小さいのがベトナム(5%)である。
東南アジアからの輸出に関し、シンガポールの流通センターとしての役割ははるかに小さく、マレーシアからの輸出以外は目ぼしい数量に達していない。マレーシアは携帯電話の約10%と、パソコンの約15%をシンガポールに出荷している。域内のHDD生産国について見ても、マレーシアだけが10%未満というわずかな割合をシンガポール経由で輸出している。
米国が中国製品に対する関税をさらに引き上げてから、電子製品のサプライチェーンがどのように変化したかを見てみると、生産を中国からベトナム、台湾、マレーシアをはじめ、アジアの他の地域に移す再編の動きが出てきているが、アジアの電子製品サプライチェーンの主要なノードは、ほとんど影響を受けていないようだ。
一方、中国は生産を最終製品から中間製品へとシフトさせることで、関税への適応を図っていると見られている。また、一時的な米国の国内調達とメキシコの台頭も見られるが、これは関税が米国とメキシコの電子機器生産ネットワークの成長を促進したことを示唆している。
シンガポールは現在、世界の半導体装置生産の5分の1を占めているが、その大きな理由として、同国がグローバル・サプライチェーンで高付加価値型の活動に注力してきたことが挙げられる。世界でトップを争う半導体メーカーの多くは同国に地域統括本部や研究開発センター、または高度なウエハー製造施設を置いている。このことは、シンガポールがICの重要なグローバル流通拠点としての地位を固めることに役立ち、その結果として、国内に素材、装置および電子機器受託製造サービス(EMS)企業の豊かなエコシステムができ上がったのである。
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