今年で11年目を迎えるグローバルスタートアップ・エコシステムランキングは、世界各国にある約350万社の企業データに基づき、約290の主要都市の起業環境を、業績、資金調達、接続度、市場リーチ、知識、そして人材・経験の6項目で採点し、ランキング形式で発表したもの。シンガポールは今年のランキング中で最も順位が上がった。
世界ランキング上昇を祝して6月15日に開かれたAction Community for Entrepreneurship Singapore (ACE.SG)主催の夕食会において、第二貿易産業大臣兼人材開発大臣のタン・シーレンは、現在シンガポールに本社を置くユニコーンは31あり、その半分以上は過去2年間に設立されている、と述べた。
タン大臣は、世界を揺るがす革新的ビジネスモデルを提供するスタートアップは、経済成長を促進する鍵であると強調。シンガポールの「国家ビジョンと優先事項」にも貢献していると語った。
「水耕栽培や、AIを活用した温度やCO2レベル等の変数監視システムSustenir Groupのようなアグリテック・スタートアップは、シンガポール政府が『30 by 30』(2030年までに栄養需要の30%を持続的に生産するために地元の農業食品部門の能力を成長させる目標)を達成する支援にもなっています。」
Sustenirの最高経営責任者であるJack Moy氏は語る。「シンガポールのスタートアップ環境は際立っています。スタートアップ企業が競合他社から学ぶ“強制的なコラボレーション”文化があり、私たちはお互いに交流し、私たちの問題と解決策を理解することができます。」
遠隔医療サービスWhiteCoatの最高財務責任者Madam Loh Yin Ching氏は「シンガポールのスタートアップ文化は非常に協力的です。私たちには素晴らしい投資家がいます。また、政府は企業に対しても非常に協力的で、同じような業界の仲間をつないでくれたり、潜在的なパートナーシップを開拓してくれた。とても感謝しています」と述べた。
この日、シンガポールのスタートアップを代表する業界団体ACE.SGは、「第1回ACEスタートアップ・アワード賞」を発足。多くの地元スタートアップの業績を称え、イベント中に政府技術庁と覚書への署名を行った。
両者は2年間のパートナーシップの下、ACE.SGのプログラム、および政府のビジネス支援プラットフォーム“GoBusiness”の認知度を高める機会を特定し、活用していく。
“GoBusiness”とは、資金調達支援をはじめ、能力、スキル、知識を構築するための参考文献やプログラムなど、100以上の政府の支援スキームをオールインワンで提供する政府のポータルサイトだ。このコラボレーションでは、”GoBusiness”の業界調査、ユーザーテスト、フィードバックセッションにスタートアップを巻き込むことも計画している。
シンガポールには現在、約4,000のテック系スタートアップと200のインキュベーターがあり、グローバル・イノベーション・インデックス(GII)では常に上位10カ国にランクインしている。また、Startup Genomeによると、資金調達のしやすさでも世界トップ15に入っている。
シンガポールは、政府や公立教育機関が起業家を支えるエコシステムを積極的に形成すると共に、企業とスタートアップとのコイノベーション(協業)も積極的に後押ししている。現在、200社以上のベンチャーキャピタルを有し(2020年、Pitchbook)、GDPあたりのベンチャーキャピタル取引額は世界最高を誇る(GII2020)。
シンガポールのスタートアップエコシステムを活用し、オープンイノベーションを創出しようとする日本企業も増えている。
今年4月には、大企業とスタートアップを、国を超えて連携させる枠組みが日本主導で生まれた。日本及びシンガポールの政府系機関が共催する、第1回「日シンガポール・ファストトラック・ピッチ」だ。日本からはDeNA、パナソニック、伊藤忠商事、竹中工務店の4社がチャレンジオーナーとして参加した。
EDBを初めとする政府機関が起業家育成や海外エコシステムとの接続を担い、政府主導のトップダウン型エコシステムが急速に発展しているシンガポール。社会的安定性、確立した法律・金融制度、革新的な文化、地域接続性、政府による手厚いサポート、英語を公用語とすること、優秀な人材、FTA等の整ったビジネス環境を背景に、スタートアップ拠点としての存在感がますます高まっている。