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SPEEDAを招き遠隔医療産業についてインサイト共有してもらう

SPEEDAを招き遠隔医療産業についてインサイト共有してもらう

近年のCOVID-19の大流行は、十分な医療施設の不足、高齢化、非伝染性疾患(NCD)の増加などの他の要因とともに、遠隔医療産業の成長に拍車をかけている。今回は、アジア最大級のビジネスプラットフォームであるSPEEDAを招き、ASEAN6とミャンマーに焦点を当てて、 発展途上の遠隔医療産業についてインサイト共有してもらう。


ASEAN6における遠隔医療産業の概要

まず遠隔医療とは、医療従事者の遠隔コンサルテーションを指すが、実のところ遠隔医療産業は主に2つのタイプに分かれており、同期型遠隔医療と非同期型遠隔医療で構成されている。同期型とは、リアルタイムを意味し、ライブビデオ会議、テキストメッセージや他の電子媒体を使用して診療等を行う場合が多い。一方、非同期型はストアアンドフォワード(蓄積交換)を指し、非同期型システムでは医療情報を保存し、医療従事者の都合の良い時間に患者へ送信する。

ASEAN6ではここ数年バーチャル診療が活発に行われている。ほとんどの国がまだ経済発展途上にあり、近年医療に費用をかけことができる中産階級が台頭してきていることから、未開拓の市場はまだ大きいといえる。また、ASEANではインターネットの普及に伴い、農村部と都市部の間の医療格差を埋める必要性も大きく、遠隔医療は理想的なソリューションとなっている。

投資の観点でも遠隔医療は、広範なヘルステック業界の中でも主要領域だ。東南アジアでは、2019年に2億6,600万USD(284億2,900万円)相当のヘルステック関連スタートアップ資金総額を記録し、2018年の2.25倍の伸びを記録した。 そのうち、遠隔医療関連サービスが資金調達総額の約70%、1億8,600万USD(198億900万円)を占めている。また、この期間東南アジアで最も人気のあるヘルステック分野で注目を集めているのは、大都市シンガポール、ジャカルタ、ホーチミン、バンコク、クアラルンプールである。
 


グラフ1 シンガポールが優勢
 

※ 2016年~2019年の東南アジアにおけるヘルステック投資の取引量ではシンガポールが優勢。

※ 2016年~2019年の東南アジアにおけるヘルステック投資の取引量ではシンガポールが優勢。

 

ASEANにおける遠隔医療企業の事例

2014年にスタートしたインドネシアのプラットフォームAlodokterは、患者がチャットで医師に相談したり、500の病院の20万人以上の医師との面会予約ができたりするサービスで、病気予防の説明動画などの提供もしている。また、遠隔医療サービスの中には、地域の交通機関と提携してユーザー層を拡大したり、処方箋のラストワンマイル配送を提供したりするサービスもある。例えば、HalodocはインドネシアのスーパーアプリGojekと提携する。他にもシンガポールの先行遠隔医療サービスの一つであるDoctor Anywhereは、独自のオンライン健康・ウェルネスマーケットプレイスを運営するだけでなく、ベトナムの通信グループViettelとも提携して国外に進出している。

2019年シェアの52%を占めるシンガポールは、長年にわたってASEANをリードしている(グラフ1)。近隣諸国の投資額が増え、2018年の66%から下落したにもかかわらず、圧倒的トップシェアであることに変わりない。インドネシアは2位を維持しており、その理由としては市場規模が大きいことに加え、ASEANのスタートアップのハブであることに起因していると考えられる。

 


遠隔医療の推進要因
図1 ASEAN6における遠隔医療の推進要因
 

 

拡大する医療需要に対応するための
十分な施設とインフラの不足

遠隔医療需要の主な要素の一つは、医療需要に対応する人材や医療インフラの不足である。医療への需要が高まっているにもかかわらず、多くの地域では、ASEAN6の人口に対し利用可能な病院のベッド数や医師の数が非常に足りていない。需要を支えるための利用可能な医療インフラのレベルを示す指標として、人口1,000人当たりの病床数があるが、ベトナムを除くほとんどのASEAN6諸国でこの値が世界平均を下回っている(最新のデータは2017より)。一方、世界平均と比較して、人口1,000人当たりの医師数が十分にあるのは、シンガポールとマレーシアのみである。

また、高齢者人口の増加も要因の一つになっている。高齢者の一人暮らしが多く通院が困難な高齢者が多いことから、遠隔医療は理想的なデジタルソリューションといえる。ただし課題は、スマートフォンやコンピューターなどの操作方法の知識量が少ない傾向にあることだ。ホームセンサーやウェアラブル技術などの関連技術の活用が、この問題への解決策になるだろう。
 

コロナ禍:自宅待機によるデジタルサービスへの
需要増加、遠隔医療サービスの利用が加速

近年の遠隔医療の重要な促進要因の一つは、2020年ASEAN6での新型コロナウイルスの猛威だった。新型コロナウイルスの感染力の高さから、病院などの公共の場所に集まることは危険であるため、多くの国でユーザーは遠隔医療プラットフォームを利用して医療ニーズに対応しなければならなかった。その結果、毎月の薬の購入や、不要不急の用事のために病院に行く必要がないことにも気付くようになり、このようなサービスをオンラインで安価で行うことへの需要が高まった。
 

その他の要因

他にも、非感染性疾患の患者増加、定住型のライフスタイル、中間層の増加、インターネット利用の増加、コスト削減、高齢化の進展などが遠隔医療推進の要因として挙げられる。
 

規制・今後の展望

ASEAN6の中でも、遠隔医療に対する規制のレベルは国によって異なる。マレーシアはいち早く遠隔医療規制を導入した国の一つであり、タイはASEAN6の中では遅れている国の一つである。ASEAN6のほとんどの国では、遠隔医療の規制や基準がまだ整備されておらず、多くの地域では産業や環境を定義する初期段階にある。

発展状況は国によるが、新型コロナウイルスにより新しい効率的な治療・診断方法に対する高い需要が維持されている今、ASEAN6を中心とした遠隔医療産業のさらなる発展が期待されている。

SPEEDAは、800万社の世界の企業、560業界、M&A案件などをワンストッププラットフォームで提供する。アジアの遠隔医療産業の詳細情報やインサイト・データをオンラインで閲覧可能。

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