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次世代半導体技術の先駆者HOYA “グローバル・イノベーションの起点”、シンガポールにおける成長と拡大

次世代半導体技術の先駆者HOYA “グローバル・イノベーションの起点”、シンガポールにおける成長と拡大

HOYAは、半導体製造の最も重要な材料の一つであるマスクブランクスの分野で、世界の半導体産業に影響を与える革新的な技術を生み出すことに成功した。その技術開発の拠点となったのが、シンガポールに設立されたR&Dと製造が一体となったHOYA Electronics Singaporeである。この拠点はシンガポールの産業エコシステムを活用しながら成長を遂げ、現在、さらなる拡張に向けて動き始めている。

次世代半導体技術の先駆者HOYA “グローバル・イノベーションの起点”、シンガポールにおける成長と拡大 masthead image
世界初の次世代半導体材料をシンガポールで開発

光学レンズや精密機器の分野で日本有数の技術力を誇るHOYAがシンガポールに拠点を構えるのは、単なる事業拡大のためではない。半導体産業の未来を切り拓く革新的な技術を自ら創出し、業界を牽引する存在を目指しているからだ。

実際、HOYAは2024年、シンガポールにおいて、次世代の半導体製造を支える新材料ー第2世代EUVマスクブランクスの開発に、世界に先駆けて成功した。

従来の技術を大きく進化させたこの新材料の登場により、半導体の製造はこれまで以上に高精度かつ高効率で行えるようになる。つまり、HOYAはシンガポールにおいて、半導体業界に新たな革新をもたらすという目標を現実のものとしたのである。

 

R&Dと製造の一体型拠点としての発展

HOYAが、半導体製造に不可欠なマスクブランクスに特化した拠点HOYA Electronics Singaporeを設立したのは2011年。以来この拠点は、研究開発と製造の両機能を担う中核拠点として発展を続け、次世代半導体材料の開発に加え、AIによる欠陥検出やスマート製造などの分野にも積極的に取り組んでいる。

同拠点の従業員数は、設立当初から約3倍に増加、開発・エンジニアリング関連の人材も、2014年時点で全体の23%だったのが、2023年には31%へと拡大した。こうした成長は、シンガポールという地を拠点に選んだことで可能になったと言っても過言ではない。

たとえば、シンガポールは研究施設や製造工場、工業団地などが地理的に近接している。そのため、HOYAにおいても試作品の開発や製品開発のスピードが大幅に向上した。

また、産学官を横断した連携のスムーズさもシンガポールの強みであり、HOYAも有力な研究機関と共同開発を進めている。一例として、2024年からは南洋理工大学(NTU)と連携し、同大学が有する薄膜材料やAIシミュレーションなどの知見を活用した共同研究を推進。半導体業界が直面する複雑かつ高度な技術課題の解決に取り組んでいる。

さらに、シンガポール経済開発庁(EDB)による支援プログラムを活用することで、ディープテックや半導体分野での研究開発を着実に前進させている。

このようにHOYA Electronics Singaporeは、技術や知見、制度といったシンガポールのエコシステムを背景に、着実な成長を遂げている。

 

HOYA Electronics Singaporeの研究開発チーム

HOYA Electronics Singaporeの研究開発チーム

AI、5Gを支える技術革新

半導体業界では、より小型で高性能な回路を実現するための製造技術の開発が加速しており、HOYA Electronics Singaporeはその最前線に立つ。同拠点は、次世代の半導体製造において重要な役割を果たす、先進的な技術の開発を進めているのだ。

代表的な取り組みの一つが、「第2世代EUVマスクブランクス」の開発である。新素材の導入と高機能な表面加工技術により、微細構造でありながら、ナノメートル単位での欠陥低減を実現している。

また、「AI駆動の欠陥検出技術」では、高度なAIの画像認識技術を用いたAIDC(人工知能欠陥分類)システムを開発。従来は検出が難しかった微細な欠陥も特定可能となり、製造の歩留まりの大幅な向上に貢献している。

さらに、「持続可能な製造プロセス」の面では、化学物質の使用削減や省エネルギー型の製造工程を取り入れることにより、シンガポールの環境目標と調和した持続可能な半導体生産を実現している。

そして、これらの先進技術は、AI、高性能コンピューティング、5Gといった次世代のテクノロジーを支える、より小型・高速・省エネルギーなチップの生産を可能にしつつある。

 

HOYAのさらなるシンガポール戦略

HOYAがシンガポールで注力しているのは、研究開発だけではない。第2世代EUVブランクス素材をグローバル市場に供給するため、量産体制の構築が着実に進められており、2025年の本格稼働を視野に入れた準備が進行中だ。

具体的には、まず生産能力の拡張が 計画されている。現在、HOYAのEUVマスクブランクスの生産はシンガポールが多くの割合を占めているが、半導体のさらなる微細化に伴い、今後も需要の増加が見込まれる。そのため、安定した供給体制を整え、グローバルな市場ニーズに柔軟に応えることを目指している。

また、それに伴い、現地の研究機関や大学、中小企業との連携を一層深め、技術革新のスピードアップと新技術の創出を図っている。

このように、研究開発と製 造の機能を一 体化させることで、HOYAはシンガポールを次世代半導体技術の推進拠点としてさらに発展させようとしている。つまり拠点の拡張は、HOYAが半導体材料分野でのリーダーシップを一層強化するための戦略的な一歩なのである。

 

イノベーションを支える人材

HOYAでは、AIやデータサイエンスの専門家、材料科学者、開発エンジニア、プロセスエンジニアなど、多様な専門人材がイノベーションを推進するうえで重要な役割を担っている。そのため、こうした人材の確保・育成は不可欠である。

そこで、HOYAはEDBの支援を受け、現地大学と積極的に連携し、インターンシップや共同研究を通じて強力な人材パイプラインを構築している。

さらに、グローバルな専門家が現地スタッフに対して直接指導を行うことで、スキル向上や知識の移転を図り、現場の能力開発を促進している。

加えて、政府による支援プログラムを活用し、シンガポール半導体産業協会(Singapore Semiconductor Industry Association :SSIA)と連携して、従業員の再教育やスキルアップも行っている。これにより、技術の進化に柔軟に対応できる体制が整えられている。

こうした包括的な取り組みは、シンガポールのイノベーション・エコシステムや人材育成に貢献するとともに、HOYAがグローバル競争で優位性を保ち続けるための重要な基盤となっている。

 

半導体技術の未来におけるシンガポールの役割

これまでHOYAがシンガポールで進めてきた事業拡張は、同国が世界的な半導体ハブとして機能していることの証しでもある。

第2世代EUVブランクス素材の量産開始を目前に控え、シンガポールは今後も、HOYAのイノベーション戦略における中核拠点としての役割を果たし続けるだろう。

シンガポール政府の支援により、先端製造やディープテック分野の研究開発が一層促進されており、同国は次世代半導体技術の革新を牽引するポジションを強固にしている。そうした環境のなか、HOYAの技術革新、人材開発、先進的な製造プロセスに向けた取り組みは、同社の成長を加速させると同時に、シンガポール全体のハイテク製造分野の未来にも大きく寄与していくだろう。

つまり、HOYAにとってシンガポールは単なる製造拠点ではない。次世代半導体技術を世界に向けて発信する“グローバル・イノベーションの起点”なのである。


 

Ishikawa-san Profile

石山 雅史

HOYA LSI 事業部長

「 私は、シンガポールにおける研究開発エコシステムの卓越性に深い感銘を受けています。政府による強力な支援、多様なローカルおよびグローバル人材、世界水準の研究機関、そして協調的な環境が一体となり、非常に価値ある基盤を形成しています。

このようなエコシステムは、製造業におけるイノベーションを加速させ、HOYAのような企業が最先端技術を開発し、グローバル市場での競争力を維持するために不可欠な要素です。これは、私たちの成功を支える重要な要因であり、シンガポールの先見性と戦略的な取り組みの成果であると確信しています。」

 


 

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