食料およそ90%を輸入に頼る現状に危機感
代替タンパク質をはじめ、先端技術の活用によって食料分野で新しい食品やサービスなどを開発するフードテックがグローバルトレンドになりつつあり、シンガポールでも開発に力を注いでいる。その背景をジョン・エン氏はこう語る。
「増加する世界人口は2050年までに100億人に近づくと考えられ、その人口を養うためには、食料生産量をいまより70%増加させなくてはなりません。しかし、農業生産のための用地や水資源には限りがあるうえ、気候変動により不作も発生。畜産は地球温暖化を引き起こす温室効果ガスを大量に排出し続けており、さらに、アジアにおける鳥インフルエンザの危機など、サプライ・ショックのリスクも高まってきていて課題が山積みです。そのため、食料の生産に関して、グローバル全体でよりサステナブルな方法を見出していく必要があるのです。」
そうした状況のなか、農業用地が国土の1%にも満たないシンガポールでは、葉もの野菜は国内需要の14%、卵は26%、魚は10%しか生産できておらず、食料のおよそ90%を輸入に依存。気候変動による生産減少や人口増加による食料需要の増大といった食料事情の変化に対して脆弱であり、そのことに危惧を感じたシンガポール政府は、食料安全保障をより強化し、今後も食料の安定的な供給を確保していくために、「30×30」を掲げたのである。
「30×30」とは、2030年までに栄養ベースでの食料自給率を30%まで引き上げる目標で、「いかにシンガポールの食のサプライチェーンが弱いかということを、コロナ禍でも改めて気づかされました」とジョン・エン氏。新型コロナウイルスのパンデミックでサプライチェーンの遮断を受け、「30×30」の目標達成の必要性を痛感したという。