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リチャード・チュアヤマトアジア株式会社 取締役社長 Richard Chua Khing Seng Managing Director, Yamato Asia PTE. LTD.

リチャード・チュアヤマトアジア株式会社 取締役社長 Richard Chua Khing Seng Managing Director, Yamato Asia PTE. LTD.

ヤマトアジア株式会社(以下ヤマトアジア)は、日本最大の宅配便事業を手がけるヤマトグループ(以下ヤマト)の東南アジア地域統括会社として、2014年にシンガポールに設立されました。


以後ヤマトアジアは、タイ、ベトナム、インド、ミャンマーなどにおいて、そのネットワークを急速に拡大、加えて各国で積極的なM&Aを行い、新たな事業を創出し続けています。このヤマトアジアを率いているのが、同社の取締役社長リチャード・チュア氏です。

 

日本企業にとって有望な人材を抱えるシンガポール

ヤマトは、宅急便事業に加え、IT(情報技術)・LT(物流技術)・FT(金融技術)を組み合わせたソリューションの提供により、顧客ニーズに応える革新的な事業を創出してきました。海外での宅急便事業は、2000年に台湾でスタート、2010年にはシンガポールと上海、そして2011年にマレーシア、香港へと事業を拡大しました。こうした海外事業の成長期である2013年にヤマトに加わったチュア氏は、日本企業で働く外国人経営幹部として活躍するためのポイントを次のように指摘しています。

「日本企業で働くにあたり最も大切なのは経営陣と信頼し合うことです。私は、当時すでに20年以上に渡って日本の方々と共に働いた経験があり、日本のビジネス慣習を理解していたので、最初から経営陣と円滑かつ快適なコミュニケーションをとることができました。また、同僚たちとチームで働くことで、ヤマトの戦略と企業文化を理解し、社内でも良好な人間関係が築けました。企業文化やビジネス慣習を理解することは組織にとけ込む第一歩であり、同時に互いの信頼と尊敬を強化してくれます。加えて日常会話も重要です。日本語スキルは同僚たちとのスムーズなコミュニケーションに大変役立ちました。」

日本企業のローカリゼーションとその課題

海外展開が加速する一方、多くの日本企業が人材不足に陥っています。そこで近年は、海外に日本人従業員を送るよりも、現地の人材を登用する傾向が見られます。この傾向は、有望な人材を多く抱えるシンガポールにおいてさらに進んでいくだろうとチュア氏は分析します。その上で、現地化を進める日本企業にはいくつかの課題があるとし、「海外に赴任する日本人の多くは、現地の文化とビジネス慣習に適応することの困難さを痛感しています。日本人の人件費と言語という2つの高い壁が、シンガポールや他の地域でさらに現地化を推し進める理由となり、従業員レベルにとどまらず経営層にまで広がっていくでしょう。しかし、現地化にあたっては、日本企業の経営そのものが変わるべきです。深く根付くためには、経営のプロセス・スタイル、人材活用方針なども、現地に即したものでなくてはなりません。例えば、権限委譲、グローバルな人材活用、社内公用語の変更、現地の文化を受け入れるといった変化が求められます。また、経営トップによる現地従業員へのコミットメントがあってこそ、現地化が成功するのです」と述べています。

一方で、これから日本企業で働こうとする現地スタッフに関して、チュア氏は「日本の組織で働く外国人は異なる社風を理解し、業務や意思決定のスピードとプロセスに慣れて欲しいと思います。すべての組織は、異なるスキルとマネジメントスタイルを持っています。それらに適応し、学び、ついていくことで、組織にとけ込むことができるのです。日本企業は、現地従業員の積極性、自主性、仕事へのモチベーション、リーダーシップなどを重視します。しかし、その評価と報酬体系は現地企業と異なる点が多く、それが理解出来ずに自信を失うケースも多くあります。忍耐、尊敬、信用、そしてコミュニケーションが、親密な関係を築く上での欠かせない要素であることを忘れないでください」と語り、いくつかの心構えが必要であるとアドバイスしています。

多様性への深い理解、そして信頼を築くための努力を企業・従業員の双方が行うことで、よりスムーズに、より高度な現地化が可能なことをチュア氏の経験が証明しています。

例えば、2003年に約77000人にすぎなかった訪日シンガポール人は、2013年には約19万人、2015年には30万人を突破*。人口約550万人のシンガポールの20人に1人以上が日本を訪れていることになります。この数字はアジアの国々でトップクラスであり、日本の文化や伝統に大きな興味を持ち、日本人のメンタリティを理解しようとする人々が急増していることを示しています。シンガポールは、日本企業が現地化を進めるにあたり、日本の文化、慣習を理解している人材が豊富であるといえるのではないでしょうか。

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