工場を変えるデジタル技術
新しい技術革新の波に乗っている製造業企業が急増しているが、Feinmetall Singaporeはそのうちの一社だ。未来の工場では、人工知能やリアルタイムデータ収集、協働ロボットが最大限活用され、同じ組立ラインで幅広い製品が作られることになる。インダストリー4.0とも呼ばれるこの「第四次産業革命」は、シンガポールの製造業を変革し、成長とイノベーションのための新たなチャンスを広げようとしている。
インダストリー4.0とは、データ分析や人工知能などのデジタル技術と機械を組み合わせ、いわゆる「スマートファクトリー」を創造するための次世代製造技術のことだ。これらの製造システムは、相互に繋がっているだけではなく、意思決定を促進するための情報の伝達と分析、使用も可能である。企業は生産ラインに関するリアルタイムの情報を受け取ることができ、機械の保守サービスの必要な時期を事前に予測することもできる。
新たな次世代製造技術に加えて、Feinmetallには、5月にe-ポータルを立ち上げる計画がある。このe-ポータルとは、顧客がインストラクションビデオを使用して、リモートでトラブルシューティングや製品のメンテナンスを行うことを支援するものだ。これにより、サービスエンジニアが一般的な問題を解決するために、顧客のオフィスへ海外出張する必要が軽減される。
同社は、現在、2007年の設立時には5人のチームであったスタッフが、約60名を抱えるまでになっている。過去10年間で150万シンガポールドル(112万ドル)以上を研究開発に投資し、その収益は10年で6倍となった。
Sam氏によると、同社の収益は2017年に14%増加し2020年までに売上が倍増する見通しだ。「我々にはいくつかの拡張計画があり、段階的に雇用を開始しています」と彼は付け加えた。
明らかに、第四次産業革命により、工場に変革が起ころうとしている。ボストン・コンサルティング・グループの調査では、次世代製造技術によって、2024年までに労働生産性が約30%向上し、22,000人の新規雇用を創出する可能性があると言われている。また、これにより平均賃金を50%引き上げ、シンガポールの製造業の総生産額と収益が360億シンガポールドル(269億ドル)増加する可能性も示している。
生産性を向上させるインダストリー4.0
製造業はシンガポール経済の約5分の1を占め、全労働力の約14%にあたる40万人以上の従業員を雇用している。製造業は、経済成長における重要な柱であるとはいえ、工場は地域における競争の激化や、ビジネスコストの上昇、労働者の売手市場によって圧迫されている。
こうした課題にも関わらず、シンガポールにおける製造業の生産性向上は、堅調に推移している。製造業における生産性は、労働時間当たりの付加価値の観点から見ると、2017年に14.4%急上昇し、その年の業績は最も高くなった。
更に、製造業は、全体的な生産性向上の主要なけん引役となっている。2017年には4.5%という7年ぶりの高水準にまで上昇し、2016年の1.8%から大幅に改善している。この改善の大部分は、世界経済の回復とシンガポールの製造業向け輸出に対する需要の高まりによるものと思われるが、次世代製造技術を導入し、労働への依存を減らすといった企業努力も重要な役割を果たしたと言えるだろう。
シンガポール―アジアの次世代製造技術のハブ
シンガポールにおける次世代製造技術の採用は、大小さまざまな企業で急速に拡大している。スイスのロボティクス企業ABB、ドイツのエレクトロニクス大手シーメンスのような、業界で世界的に有名な企業が次世代製造技術の工場を設立している。
また、多くの多国籍企業がシンガポールの工場に次世代製造技術を配備している。ドイツに本社を置く自動化とセンサー技術のメーカーPepperl+Fuchsは2016年に6500万シンガポールドル(4,870万ドル)のディストリビューションセンターを開設した。このセンターの特徴は、インテリジェントな倉庫管理ソフトウェアシステムと自動化されたストレージ、更にはIoTによって実現された検索システムを備えている。一方、ドイツの半導体大手インフィニオン・テクノロジーズは、2017年に、シンガポール工場に今後5年間で1億500万シンガポールドル(7,870万ドル)を投じ「スマートファクトリー」に変貌させると発表した。その工場では、世界の他の地域の生産工場とリアルタイムでリンクされ、組立ラインも更に自動化される。
シンガポールでインダストリー4.0の機能を強化しているもう一社が、精密加工機械メーカーの牧野フライス製作所シンガポールMakino Asiaだ。同社は2017年に、Gul Avenueの既存工場の隣に、新たな「スマートファクトリー」を立ち上げた。
牧野フライス製作所の取締役社長井上真一氏は「新工場は新たに労働力を雇用することなく、品質を向上させ、生産能力を拡大し、企業全体の生産性を増加させる」と語った。
「ロボットや自動搬送機を使用することで、工作機械の製造工程が自動化されます。私たちは工作機械の稼働状況の管理からリモートでの予知保全まであらゆることを実施しています。たとえ、そこに誰もいなくても1日24時間生産可能な工場を実現しています」と、井上氏は、シンガポール経済開発庁(EDB)主催のセッションで語っている。
同社はまた、事前予知メンテナンスのようなサポートサービスを提供することを目指している。それはセンサー技術を使うことで顧客の機械の状態をモニタリングし可能となる。さらに、データ分析を使用して顧客の生産性向上と欠陥率の減少を支援する予定だ。
「ニーズの多様化によって、一つの製品を大量に供給する時代は過去のことです。今の時代、成長の鍵は、ニーズにすばやく対応できるかどうかです」井上氏はそう指摘している。