楽天やユニクロ、ASOSといった大手eコマース企業など500社以上が、ViSenzeの画像解析サービスを導入し、既に1億以上の商品画像がインデックスされている。今回はシンガポール国立大学の研究機関NExTのスピンオフで生まれたAIスタートアップの共同創業者 Li GuangDa 博士に、スタートアップを生み出すシンガポール国立大学とNExT研究センターについてうかがった。
ユーザーに合わせてカスタマイズできるAIの高度な画像解析サービス
ViSenzeの画像解析サービスは、コンピュータビジョンにAIのディープラーニングを組み合わせることで、AIによる高度な画像認識と、画像検索を可能にしたものだ。このテクノロジーにより、オンラインショッピングを利用する消費者は、写真をアップロードするだけで画像で商品を検索、類似商品を数秒で見つけることができるようになる。このサービスの他社と決定的に違う点は、企業が自社のeコマースサイトなど、さまざまな分野のサイトにカスタマイズして簡単に導入できる点だ。Li GuangDa博士は「私たちの画像解析サービスは、オープンプラットフォームのソリューションとして、ユーザーの要件に合わせてカスタマイズ可能で、高精度なビジュアル検索をサイトに実装することができます」と語る。
シンガポール国立大学での研究時代に生まれたアイデア
この画期的なサービスはどのようにして生まれたのだろうか。ファウンダーのLi GuangDa 博士は2007年に中国の天津大学を卒業後、シンガポール国立大学大学院統合科学研究科(NGS)において博士課程に進んだ。専攻は機械学習や情報検索、コンピュータビジョンなどを含むマルチメディア情報検索だ。この時既にLi GuangDa 博士はViSenzeのサービスのプロトタイプともいえる開発を行っている。「2010年の博士課程研究の終わりに向けて、私は研究から意味のあるものを構築することを考え始めました。約4年前にインターネット上のマルチメディアコンテンツの量が大幅に増加したことによって、メディアコンテンツの管理や検索、発見が難しい状況が起きていると感じていました」。その時開発されたのが、'Snaptrade'というモバイルショッピングアプリだ。ユーザーが携帯端末で写真を撮って中古商品を投稿できる仕組みのアプリだが、画期的な点は、画像認識エンジンが商品の内容を画像から認識して、手動で商品説明を入力する必要がないようにするという機能だ。「私たちの試みはさまざまな理由でうまくいきませんでしたが、NExTでのViSenze開発の足掛かりになりました」と語っている。
NExT研究センター。テクノロジーからスピンオフを育てる仕組み
NExT研究センターは、2010年にシンガポール国立大学と中国清華大学の共同研究機関として、Chua Tat-Seng教授により設立された。NExT研究センターの学術的な目的が、ライブ、ビッグデータ、マルチソース、マルチリンガル、マルチメディア、データ分析のパイオニア研究を成し遂げることだ。そして、そのゴールの一つが、テクノロジーからスピンオフを育てあげ、どのようにViSenzeを立ち上げるかということだ。「NExTの目標の1つが、テクノロジーからスピンオフを育てることです。 NExTで博士研究員をやっていた時、私のチームは、フィードバックの収集や、アイデアの微調整のため、企業と携わる多くの研究用プロトタイプを構築しました。その過程において、この技術をサービスとして販売することが有効で、多くの人々がそれにお金を支払うことに気付きました。また、当社の技術が収益を上げていたことを検証し、結果としてビジネスに組み込むことができました」とLi GuangDa 博士はその経緯を語っている。そしてその立ち上げについて「最初は、4つの机と限られた歩行スペースしかない小さい部屋からスタートしました。その後2013年に台湾の楽天市場にAPIが公開された後、私たちは最初の投資家との会話を始めました」と語っている。
研究からビジネスを生み出す“人材”と“ネットワーク”
ViSenzeが成長を加速し、よりスピーディにビジネスを立ち上げられた背景には、シンガポール国立大学と中国清華大学という二つの世界トップクラスの大学から設立された強力な研究開発基盤というメリットが存在する。そのメリットの第一が優れた人材である。Li GuangDa博士は、「NExTに参加している大学はいずれも世界でトップ20に入っているため、優れたエンジニアと研究者が集まりました。これはスタートアップの立ち上げ時には非常に重要です」と語っている。「NExTで共に研究したスタッフの多くが、ViSenzeの立ち上げに参加しました。更に、シンガポール国立大学と南洋理工大学の博士号を取得したR&Dチームが加わりました。新たなシステム開発をサポートする非常に優れたエンジニアが集まり、R&Dチームが非常に迅速に成長することができました」とLi GuangDa 博士は語っている。また、強力な研究開発基盤の持つもう一つのメリットが、大小さまざまな企業やベンチャーキャピタルとのネットワークだ。「人工知能とデータサイエンスの世界では、R&Dリソースが限られています。そのため、お互いの核となる強みを活かすことができるパートナーとの協力関係を重要視しています。ViSenzeでは、こうしたネットワークを活かして、CtoCやオムニチャネル向けの開発など、小売に新たな革新をもたらす技術開発に取り組んでいきます」とLi GuangDa 博士は将来の展望を語ってくれた。