今日、世界銀行の定義によると、ハイテク製品の輸出において我々は中国、ドイツ、米国に次ぐ4番目の輸出国です。同時に我が国の港は世界で一番船の出入りが多い港のひとつであり、輸送と貿易に関連したサービス業も同時に増加しています。1980年代よりシンガポールは、観光業や航空産業、地域統括本部(Regional Headquarter)や専門サービス、金融業などを発展させることにより、上記の成功を国際的に取引可能なサービス分野の拡大に繋げてきました。
世界有数の経済国家として競争する
しかし、1990年代後半には、中国が製造業の勢力として台頭し、米国主導のインターネットブームが起こりました。政策立案者は、シンガポールを第三世界の国から世界有数の経済国家へと押し上げたこれまでの経済戦略が、シンガポールが今後も世界有数の経済国家として繁栄するための一助として充分かどうか再検討することになりました。
「シンガポールの物語は、我々がどのように制約を克服し、植民地時代の僻地を、繁栄する都市へと革新し変化させたのかという流れです。我々は今、より良いシンガポール、より良い世界の実現可能性を現実に変えようとしています。」
2000年代初め、政府は2つの先見性のあるイニシアチブを主導しました。
1つ目は、大学及びシンガポール科学技術研究庁(A*STAR)傘下の調査機関の調査能力を向上させることでした。
2つ目は「技術革新による起業家精神」(technopreneurship)を鼓舞し、活気あるスタートアップエコシステムを繁栄させることでした。全体的な目的は、製品、プロセス、用途の開発を行う経済とビジネスのイノベーション能力の強化でした。
これら2つの活動は今日実を結んでいます。A*STARによると、研究科学者と技術者の数は2000年から2015年にかけて2倍以上増加し、34,988人となりました。それと同時期に、研究開発費は18億6,000万ドルから58億2,500万ドルに増加しました。
シンガポール国立大学と南洋理工大学は現在アジアの大学のトップ5にランクインしています。
ダイソン、P&G、アプライド・マテリアルズ、インフィニオンといった主要企業も、研究開発センターをシンガポールに設立しています。
そしてイノベーションを測定する世界的調査において、シンガポールは韓国、スウェーデン、フィンランドといった国々と共に世界の革新的経済国のトップ10に常時入っています。
たとえば2017年のブルームバーグ・イノベーション指数と2016年のコーネル大学、インシアード、世界知的所有権機関(WIPO)が共同で公表したグローバル・イノベーション・インデックスの両方が、シンガポールを世界で6番目に革新的な経済国であると位置付けました。
近年シンガポールのスタートアップエコシステムも、ドットコム不況、SARS、世界的金融危機などにより出足は遅かったにもかかわらず、開花し始めています。
エコノミスト誌は、シンガポールのBlock71という、かつて平屋建であった倉庫区域で、現在は200以上のスタートアップ企業の故郷となっているスペースを、「世界で一番密度の高い起業家向けエコシステム」と称しています。
更に、Sea(旧称Garena)、Razer、Lazada、Grabなど、10億ドル(13億6,000万シンガポールドル)超の価値があるスタートアップ企業、いわゆる「ユニコーン企業」のシェアを大事に育てており、世界各地で急成長中のベンチャー企業がシンガポールに所在地を置くように呼び込みを行っています。
シフト転換
これまでのイニシアチブもあり、シンガポールは今、イノベーション主導型経済へシフト転換する準備が整っています。
未来経済委員会の報告書に記載されているように、シンガポールにとっては、より生産的な資源の使用と新規事業、新製品の創造という両方の革新は重要な優先事項です。そして政府は大規模な地方企業や多国籍企業を含む企業の活動状況のあらゆる局面において、このイノベーションの推進に協力しています。
シンガポールがこのシフト転換に成功すると信じる理由を3つ挙げさせてください。
1つ目はアジアの台頭です。過去10年にわたるこの地域の成長の加速により、アジアは多くの市場セグメントにおいて成長エンジンとなりました。
ブルッキングス研究所は、アジアが2030年までに世界の中間層消費の40%を占めると予測し、新製品、新サービスの需要が激増すると予測しています。
都市化は、シンガポールからイノベーターが新事業を創り出す空前の機会をもたらすもうひとつのメガトレンドです。アナリストは2013年から2030年の間に11兆5,000億ドルのインフラ投資がアジアで行われると見込んでいます。
事業手腕の集中
第2に、フォーチュン500の企業が集中している、シンガポールのその特異性です。
Apple、Google、Facebookなどのテクノロジー企業、コカ・コーラ、クラフト、ユニリーバといった消費財の大手企業、ブロードコム、マイクロン、クアルコムなどの半導体企業、エクソンモービル、シェル、トタルといった石油メジャー、いずれにとっても、シンガポールは米国と欧州の企業がアジア地域に本部を設置する際に好ましい場所となりました。
同じく、日本、韓国、そして最近では中国、インドといった国々の企業が、シンガポールが東南アジア本部として理想的な場所であると考えています。そのため、新製品をテストし、ローンチカスタマーを確保するBtoBビジネスにとって魅力ある市場が創り出されています。
更に興味深いことに、コンパクトな都市内に多様な業界の企業が存在することで、分野や業界の境界を越えて新規事業を開始するための協業を促進することができます。
民間資本
3つ目は、ベンチャーキャピタルとプライベートエクイティの存在です。
シンガポールベンチャーキャピタル&プライベートエクイティ協会(Singapore Venture Capital and Private Equity Association)によると、シンガポールに本拠を置く企業へのベンチャーキャピタルによる資金調達の年レベルは、近年10億ドルを常に上回っており、シンガポールに本拠を置くベンチャーキャピタルは、過去5年間で運用資産を倍増させ、昨年は36億ドルでした。
アジアの経済的豊かさにより、この地域の富裕者家族と高額純資産家族や政府系ファンドが、新規事業の創出によって多くの資本を割り当てる能力が絶えず拡大するでしょう。
これら3つの要因が、我々の強力な科学的基盤、スタートアップエコシステムの活力の高まり、信頼できる事業所としてのシンガポールの伝統的な強み、才能への魅力と世界への繋がりといった事柄と合わさり、私の楽観的な見方の根拠となっています。 それに、若いシンガポール人の間では、世界の舞台で活躍したいという野心があります。そして私は現状を変えようという彼らの欲望は、シンガポールを価値創造経済、イノベーション主導型経済へ転換してゆくために差異を生み出すことができると考えています。
RazerのTan Min-Liang、HOPE TechnikのPeter Ho、Carousell のQuek Siu Rui、GarenaのForrest Li、GrabのAnthony Tan などの先駆者とその仲間たちは、自分たちが頂上を極められると示唆しており、他者が彼らの足跡を辿るよう促してもいます。
小国であるシンガポールにとっては、外国投資や業界のリーダーたちの呼び込みが引き続き重要です。EDBは、半導体、エネルギーおよび化学薬品、生物医学、航空宇宙、産業機械および情報通信技術といった産業での我々の強みを引き続き活かし、また、環境保全技術、特殊化学品、細胞療法、ロボット工学、デジタル化、電子商取引など、隣接する分野にも拡大してゆきます。
更に、シンガポールから新しい地域的ビジネスおよびグローバルビジネスを創出するための努力を加速させる機は、既に熟していると言えるでしょう。EDBはスタートアップエコシステムの成長の勢いを維持するため、エンタープライズ・シンガポール(Enterprise Singapore)、シンガポール国立研究財団などの他の政府機関と緊密に協力しています。
更に、EDBはシンガポールからの委任と権限に基づき大規模な地場企業や多国籍企業による新規事業の形成を促進することを目指す「Create」という新しいイニシアチブを主導しています。我々はこれらの努力により、シンガポールが新しい世界経済で良い位置を取り、シンガポール人の向上心に応える良い仕事を創出するものと確信しています。
多くの点で、シンガポールは最善な方向に進んでいると言えます。シンガポールの物語は、我々がどのように制約を克服し、植民地時代の僻地を繁栄する都市へと革新し変化させるまでの流れです。我々は今、より良いシンガポール、より良い世界へと可能性を現実に替えようとしているところにいます。
※ベー・スワンジン博士(Dr. Beh Swan Gin)はシンガポール経済開発庁長官です。医師の教育を受けており、公務員にもなりました。以前は法務省の事務次官を務めていました。
出典:【Straits Times】 © Singapore Press Holdings Limited.
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