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シンガポールの多国籍なお茶事情

シンガポールの多国籍なお茶事情

日本の緑茶が今、シンガポールでさまざまな形で受け入れられつつある。飲み物のお茶としてだけではなく、ケーキやパンなどお菓子のフレーバーとしても緑茶が使用されている。このように緑茶が受け入れられる背景には、多国籍国家ならではのシンガポールのお茶文化が存在している。


世界で親しまれるようになった緑茶

シンガポールで人気。緑茶と中国茶

今や、シンガポールはアジア一の緑茶市場だ。シンガポールの緑茶市場は2010年以降、毎年平均8%の成長し続けており、最もポピュラーな飲み物の一つになりつつある。それではシンガポールにおいて、緑茶はどのように飲まれているのだろうか。レストランでは、日本と同様、抹茶や緑茶をはじめ、パンケーキやアイスクリームなどのフレーバーとしても人気を集めている。一方で、ペットボトルなどの容器入り飲料だと日本と違う飲まれ方をされているようだ。2016年度のユーロモニターの容器入りお茶飲料の市場調査によると、緑茶は第一位で42.6%を占めている。しかし、その内訳をみてみると、ジャスミン茶が主流で、日本で飲まれている無糖のお茶タイプは全体の7.4%に過ぎない。緑茶と一言で言っても、ジャスミンや甘いタイプのフレーバーがついたものなどシンガポールならではの飲まれ方をされているようだ。また、シンガポールのお茶としてもう一つ挙げられる存在が、中国茶だ。というのもシンガポールでは国民の7割以上が中華系であることから、中国茶は最も広く飲まれているお茶の一つである。先の容器用飲料市場では、中国茶は緑茶、紅茶に次ぐ市場シェアを誇っているが、多様な楽しみ方が広がっている。中国茶の楽しみ方は、お茶を飲みながら点心を味わう飲茶(ヤムチャ)などが有名だが、最近ではシンガポールでも健康志向の高まりと共に、若者にも親しみがあるモダンな中国茶サロンが登場している。因みに、日本の緑茶も、もともと鎌倉時代に臨済宗の開祖である栄西が宋から喫茶の習慣と共に持ち帰ったのが始まりであり、それが安土桃山時代に社交の場へと発展し現在へと続いている。このように緑茶がシンガポールで人気なのも、シンガポールの中国茶も日本の緑茶もルーツがもともと同じということが大きいのだろう。

シンガポールの中国茶の茶器 photo by Michael Camilleri

ローカルな紅茶「テー」からラグジュアリー紅茶ブランドまで

一方、シンガポールのお茶のもう一つ代表的な存在が紅茶だ。シンガポールは、かつてイギリスの植民地であったことから、紅茶を飲む文化が浸透しており、そこにローカルなテイストが加わった独自の喫茶文化が根付いている。イングリッシュティーに加え、紅茶に練乳であるコンデンスミルクを加えたTeh(テー)や、それに生姜を加えたジンジャーティーであるTeh Halia(テー・ハリア)、コンデンスミルクを入れないTeh O(テ・オ)など、シンガポールならではのお茶文化が存在する。こちらのローカルテイストな紅茶たちは、シンガポール名物の「カヤトースト」と共に、朝食などで楽しまれている。またシンガポールには、Teh(テー)のようなポピュラーなお茶のほかに、高級な英国式紅茶も存在する。例えばTWGは、シンガポール発の世界有数のラグジュアリー紅茶ブランドとして世界中で人気だ。期間限定で緑茶が登場したり、抹茶がマカロンに使用されるなど、日本とのコラボレーションも行われている。因みにシンガポールと日本とのコラボレーションで代表的な例が、飲料メーカーPokkaの緑茶だ。日本だと缶コーヒーメーカーとしてお馴染みのPokkaだが、シンガポールでは、現地にあわせた甘い緑茶として圧倒的な人気を誇っている。その市場シェアは緑茶市場のなんと70%を占めている。

左:シンガポールでも人気の イングリッシュティー photo by lumei 右:アジアで人気の広がる ミルクティー photo by Alpha

多国籍な味が楽しめるお茶文化

いま世界の和食ブームと共に、緑茶の輸出量が毎年伸びてきている。現在、緑茶は世界76カ国に輸出されているが、財務省の2016年の統計によると、アメリカ、ドイツに次いでシンガポールが3番目に大きい。その背景には、これまでご紹介してきたシンガポール独自のお茶文化があり、日本茶が親しみやすい土壌が作られているからに他ならない。中国茶から紅茶、ローカルティー、そして日本茶まで、まさに多国籍な味が楽しめるお茶文化だ。

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