多彩な業界でロボットの労働生産性向上が進む
シンガポールにおけるロボットへの取り組みは労働生産性の向上に向けたシンガポールの国民的な後押しが原動力となって、製造業以外にも広まりつつある。例えばその代表的な一例が清掃ロボットの導入である。すでに2019年末からチャンギ国際空港とナショナル・ギャラリー・シンガポールの清掃には全自動のサービスロボットが導入されている。これはシンガポールのメーカーライオンズボット・インターナショナルが開発したものだ。ライオンズボット・インターナショナルの清掃ロボットは発表後まもなく、受注が100件を超えた。シンガポールの出生率の低下で、労働力への新規参入者が以前に比べて減少していることが挙げられる。また、新たな働き手は高学歴の傾向にあり、掃除の職業を選択する傾向が低いことも理由の一つだ。したがって、これらのサービスロボットは、この業界の労働力不足のギャップを埋めるのに重要な役割を果たすことが期待されている。またシンガポールでは介護の分野においてもロボットの活用が進んでいる。高齢化のサポートの一つにリハビリテーションがあるが、高齢者の脳卒中患者のリハビリプロセスにウェアラブルロボットシステムが提供されている。このロボットはグローブとソックス形状のロボットで、収縮、伸長、屈曲ができる機能を持ち、患者のハンドセラピーの練習に利用される。さらに介護現場では食事を運ぶ無人搬送車も導入が開始されている。福祉団体であるサルベーションアーミーが運営する介護施設、ピースヘブン・ナーシング・ホームでは、これにより配膳時間の短縮とキッチン作業のコスト削減に結びつけている。
新型コロナウィルスでシンガポールのロボット導入が加速
新型コロナウィルスのパンデミックはロボット導入をさらに加速させている。他者との社会的距離を取るために、感染防止を防ぐさまざまな局面で、ロボットがすでに活躍し始めている。シンガポールでは「サーキットブレーカー」の外出規制中でも、安全な距離を保つための適切な処置がとられていれば公園や野外での運動は許されている。しかし、人との適切な距離を取ることすべての人に周知することは難しい。そこで用いられたのがBoston Dynamicsの犬型四足歩行ロボット「SPOT®」だ。これはシンガポール国立公園局とSmart Nation and Digital Government Groupで行われた試験的な取り組みで、公園の混雑状況を把握し、安全な距離を注意喚起する。また、シンガポール水道局も同じくロボットを開発している。さらに、ロボットによる自動消毒も開始されつつある。先にご紹介したシンガポールのロボット開発企業PBA Groupは、UV光でウィルスを殺菌する自律走行型ロボットを開発し、多くのショッピングモールなどに配備することを計画している。同じく、新型コロナウィルス感染防止対策として、筑波大学発のスタートアップ企業Doogが消毒液を噴霧する自動走行ロボットを導入する予定だ。これにより屋内や屋外など多様な環境で作業する人の感染防止を支援する。新型コロナウィルスが終息した後は、これまでとは違う社会の在り方が求められる。シンガポールはロボットという先端のテクノロジーを最大限使いこなすことによって、新たな時代にいち早く適応しようとしている。
*出典:
EDB「次世代製造技術のシンガポール最新状況技術開発と試験的導入へ乗り出す企業たち」
https://www.edb.gov.sg/ja/newsroom/news-library/2018jan-jp-article-01.html