1.ジュロン・イノベーション地区にはどのようなビジョンがありますか?
ジュロン・イノベーション地区(JID)は、シンガポール製造業地帯の中心に位置する広さ600ヘクタールの次世代地区です。私たちはJIDの中に研究機関、能力開発会社、テクノロジーとトレーニングの提供会社、そして未来の工場などからなる次世代製造技術のエコシステムを築いています。JIDは、企業がアイデアを生み、革新し、スキルを高め、製造を行うためのワンストップ・ハブです。このエコシステムは急速に拡大中で、JIDはアジアの主導的な次世代製造技術のハブになるための準備を整えています。それに加えシンガポールは、新しい製造技術とソリューションの最も大規模な生きた実験室でもあります。そこではアイデアと技術(3Dプリンティング、5G、自律走行車など)の開発、試作品製作、試験が行われ、イノベーションのすばやい市場投入を可能にしています。
2.なぜシンガポール/JTCはこの施策に着手したのですか?
今、テクノロジーが産業の変革と企業の再構築を引き起こしています。この変革はパンデミックとサプライチェーン破断によって拍車がかかり、世界中の需要に影響を及ぼしています。今やインダストリー4.0は必須となり、シンガポールとアセアン地域で活動している企業は、この変革の歩みを始めるにあたり総合的なサポートを必要としています。私たちがJIDの中に築いているエコシステムは、次世代製造の技術やプロセスの導入を成功させるために多くの企業が必要とする、リソースと専門知識を提供します。
さらに私たちは、メーカーが最も繁栄するのはパートナーとの協働を促す環境の中であると認識しています。研究・試験からロジスティクス、トレーニングプログラムまで、製造バリューチェーンのあらゆる領域を包含するJIDでは、先進的メーカーや業界リーダーがすぐに活動を開始して新製品とイノベーションをすばやく商用化することができます。たとえば日本の産業機械メーカー、ソディック(Sodick)は、3Dプリンティング技術を紹介するテクノロジーセンターをJID内に開設しました。同社は専門技術を提供し、企業における3Dプリンティング導入をサポートしています。また、国際的な次世代製造技術のリーダーであるシーメンス(Siemens)とボッシュ・レックスロス(Bosch Rexroth)は、それぞれアドバンストマニュファクチャリング・トランスフォーメーション・センター(Advance Manufacturing Transformation Center)、リージョナル・トレーニング・センター(Regional Training Centre)を設立しています。これらのコンピテンスセンターとトレーニングセンターは、企業がAMを導入したり変革に必要な人材をスキルアップさせたりするのを支援するでしょう。
3.一般的な工業団地やビジネスパークと異なるJIDの特色は何ですか?
JID内には南洋理工大学(NTU: Nanyang Technological University, Singapore)があります。世界大学ランキング12位、学部生と大学院生が計33,000人を超える同大学は、人工知能研究で世界No.1、エンジニアリングとテクノロジーの分野でアジアNo.1にランクされています。NTUの存在によりJID内の企業は人材と研究ノウハウを即座に利用でき、イノベーションとオペレーションを強化できます。
JIDにはシンガポール科学技術研究庁(A*STAR)の研究機関も設立されています。たとえば、アドバンスト・リマニュファクチャリング&テクノロジー・センター(ARTC: Advanced Remanufacturing and Technology Centre)、シンガポール製造技術研究所(SIMTech:Singapore Institute of Manufacturing Technology)です。それらの研究開発機関が製造技術の研究能力を企業に提供し、商用化プロジェクトの進展を加速します。
典型的な工業団地と異なり、JIDは車の少ないサステナブルなエリアとして設計され、緑豊かで多種多様な生物が生息しています。クリーンでグリーンなアドバンストマニュファクチャリング活動によって職場環境は以前よりもはるかに快適になり、人材を強く引き付けます。またJID内では専用の地区物流ネットワークを地下に整備しており、これはシンガポール初の施策です。これにより、地上スペースをビジネスやコミュニティのために活用しつつ物流効率を高めることができます。
4.日本企業にとってJIDには何がありますか?
日本は次世代製造技術のグローバルリーダーです。トヨタ、ホンダのような未来の自動車工場からマキノ、ヤマザキマザックのような工作機械メーカーのイネーブラーまで、各社のパートナーシップの深化が互いに大きな収穫をもたらしています。
新型コロナウイルス感染症は世界規模のサプライチェーンを破断させ、経済に打撃を与えました。それに世界的な貿易紛争も加わった結果、アジアがより統合的なサプライチェーンと弾力的な生産基盤を確立することへのニーズや機会が増大しました。日本企業は、JIDでの密接な協働とイノベーションを通して競争優位を獲得できます。
JID内のエコシステムはすでに拡大中で、シマノ、現代自動車といった先進的メーカーが未来の工場を、また大手ソリューションプロバイダーのソディック、シーメンス、ボッシュ・レックスロスがイノベーションセンターをこの地区に作っています。日本のイネーブラーとメーカーにもぜひ、このエコシステムに加わり同地域内の豊富なインダストリー4.0導入機会を活用していただきたいと考えます。