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シンガポールのエレクトロニクス産業の未来

シンガポールのエレクトロニクス産業の未来

デジタル化と自動化によって競争力を高め、成長を促進するインダストリー4.0。シンガポールはインダストリー4.0の中心地として、ハイテク製造やテクノロジー企業が注目を集めている。


そんなシンガポールの製造業はGDPのうちのおよそ21%を占めている。中でもエレクトロニクス産業は製造業の中の中核産業だ。本日は2020年8月18日に開催されたシンガポール経済開発庁(以下、EDB)のウェビナーをもとに、シンガポールのエレクトロニクス産業の状況とビジョンをご紹介しよう。
本記事はEDBの半導体アカウントグループ上級副社長兼ヘッドであるテレンス・ガン氏による発表と、株式会社村田製作所取締役上席執行役員南出雅範氏の発表をもとにしています。

インダストリー4.0に投資する製造業

シンガポールの製造業はGDPの約21%を占めると先に述べたが、労働人口のうちの13%を占め、2009年から2018年の間の製造業生産高は64万4千米ドルに上り、労働者一人あたりの年間成長率は5.4%に達する。中でもハイテク製造の輸出額は55%増加し、その中心ともいえるエレクトロニクスマイクロアセンブリの輸出額は世界第5位である。こうした状況の中、多くのメーカーがインダストリー4.0の分野に投資を行っている。例えばマキノは2019年4月に、7千万米ドルを投じてシンガポールにスマートファクトリーを開設した。このスマートファクトリーでは自動化とデータ交換技術の導入で機械生産能力が倍増し、IoTによって顧客の機械を常時モニタリングし保守メンテナンスを効率化している。また、半導体メーカーのマイクロンも半導体ウエハー試験や不良検査を自動化するスマートファクトリーツールを導入し、これにより製造工程におけるインスペクションを効率化し、生産性を10%改善、市場投入スピードを2倍に向上させた。

 

半導体産業の強固なグローバルハブを持つ

それではインダストリー4.0の担い手の一つであるエレクトロニクス産業をより深くご紹介しよう。エレクトロニクス産業はシンガポール全体のGDPのうちのおよそ8%を占めている。総生産高は1,020憶米ドルにもおよび、従業員一人当たりの生産高は150万米ドルにも達する。その80%を占めているのが半導体関連(半導体と半導体製造装置)で、残り20%がディスプレイやリチウムイオン電池、ハードディスクメディア、印刷部品などのパーツ関連だ。特に半導体産業では包括的なエコシステムが確立されており、半導体そのものを製造する施設ではウエハーハブオペレーションが20カ所、組立テスト工場が12カ所も存在する。またシンガポールでは半導体製造装置でもグローバルハブと化しており、半導体製造を担うフロントエンド・バックエンド両分野の装置を作るため、各社の製造ハブが林立している。

 

イノベーション主導のエコシステム構築に動き出す

シンガポールが半導体製造のグローバルハブを構築している背景には、それを支えるための強固なインフラが存在する。エレクトロニクス製造用の370ヘクタールに及ぶ広大な土地と、水と電力の安定供給が確立されているためだ。さらにシンガポールではエレクトロニクス産業をさらに進化させるため、イノベーション主導のエコシステムを構築中だ。シンガポールのビジネス研究開発費の50%はエレクトロニクス産業に充てられており、民間を中心に盛んに研究開発が行われている。また、オープンイノベーションも盛んで、企業間の研究開発コンソーシアムやスタートアップとの協働も行われている。こうしたイノベーション主導型のエコシステムを支えるための人材開発も着実に行われている。シンガポールでは年間大学卒業生の50%が科学・技術・工学・数学を専攻しており、働いている4万7千人に対してAI、データアナリティクスなどのデジタルスキル訓練を実施している。

 

エレクトロニクス産業成長へのビジョン

半導体を中心に、グローバルハブ・イノベーションエコシステムを構築しつつあるシンガポールのエレクトロニクス産業はどのようなビジョンを持っているのだろうか。現在シンガポールにおける多くの製造工場がデジタル化やインダストリー4.0によって世界最高クラスの工場に生まれ変わりつつある。そしてその製造工場がターゲットとしている産業の半分以上が今後成長産業と期待される分野である。自動運転や電気自動車などが期待される自動車産業、通信の中心となる5Gインフラ、AI、クラウドのデータセンター、製造業におけるインダストリー4.0関連、IoTの柱となるウェアラブル端末などだ。こうした成長産業の拡大を見据えシンガポールは5年間の長期研究開発ロードマップに投資している。現在GDPの2%を研究開発に投じているが、その数値を3%に引き上げていく計画だ。またEDBは2021年から2025年におけるシンガポールの研究開発ロードマップを描いており、マイクロエレクトロニクスにおける注力分野を策定している。そして、こうした今後の成長に向けさらなる強固な官民パートナーシップを実現していく計画だ。

 

シンガポールにおける村田製作所

村田製作所は世界トップクラスの電子部品の総合メーカーだ。1944年に創業し現在では売上高1兆5千億円を超える。従業員数は全世界で7万4千人に上り世界各国にグローバルネットワークを持っている。主要製品であるチップ積層セラミックコンデンサの世界シェアは40%を超えており、EMI除去フィルタや表面波フィルタ、多層LCフィルタ、マイクロバッテリ、ショックセンサ、セラミック発振子、高周波インダクタなどでもトップのシェアを誇っている。こうした電子部品はスマートフォンやノートパソコン、タブレット端末、デジタルテレビなどあらゆるエレクトロニクス製品に使用されている。そんな村田製作所が1972年にシンガポールに進出してから半世紀近くたっているが、今やシンガポール支社はバッテリー事業の中核を担う拠点である。現在リチウムイオン電池の半分以上をシンガポール工場で生産しており、2549名を超える現地スタッフが次世代の電池生産に従事している。同社が特に力を入れているのが現地人材の開発だ。

現地人材の開発で持続的成長と価値創造を目指す

村田製作所は価値創造センターへの変革と、グローバルでの持続可能な貢献をミッションに掲げているが、それを現地の人材開発を中心に個人と組織の成長を果たし実現しようとしている。そしてその実現にはシンガポール独特の制度が役立っている。それが“三分割制”と呼ばれるものだ。この三分割制とは、政府、労働組合、従業員の3者の間における雇用促進を目的とした公平なパートナーシップのことをさす。雇用促進のための具体的な施策として村田製作所が取り組んでいるのがSPURプログラム(Skills Programme for Upgrading and Resilience)だ。このプログラムは、リーマンショックのような不況時に派遣された労働者が、シンガポール政府からの高額助成金を活用して研修を受けることができるプログラムである。また労働組合との間において技能フレームワークを活用し、人手と技能のギャップを把握し、従業員の技能向上を促進している。さらに、教育省のマルチインダストリー人材開発によって若い人材の誘致や、シンガポール産業奨学金などの活用を行っている。
今回開催されたセミナーは新型コロナ禍ということもあり、オンラインのウェビナーという形式で行われたが、参加者は300名以上にも上り、各発表の後では多くの質問も寄せられることとなった。これからの時代を担うインダストリー4.0と、シンガポールのエレクトロニクス産業の最先端の取り組みに対して、多くのビジネスマンが関心を寄せていることがうかがえるセミナーとなった。

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