シンガポールでは、政府はGDPのほぼ2割に相当する1,000億SGD(約7兆7,800億円)近くをコロナ禍と闘う国民の支援に費やした。その内容は、雇用を守る制度や事業主が雇用を維持するのを助成する制度、国民が経済停滞を乗り切るための支援策などである。
また、再生強化タスクフォース(Emerging Stronger Task Force)も編成された。これは、国内外で新型コロナウイルスにより大打撃を受けた経済情勢において、産業変革戦略を推進する組織である。
しかし、シンガポールの気候関連コミュニティに属するオブザーバーたちは、17名のメンバーで編成された同タスクフォースには、大量のCO2を排出する産業、具体的には石油化学産業と航空産業から選ばれた代表者も所属していると述べている。
社会的少数集団、社会的弱者、および環境に対する意識が高い経済界の代表者をタスクフォース内で増やすことを求めて45人以上が署名した公開書簡が政府に提出された。
書簡の署名者たちは、シンガポールは気候変動の影響を軽減できる産業の雇用創出に注力すべきであるとも述べた。
同書簡の署名者のひとりで環境関連サイトLepakInSGの共同設立者であるホー・シャン・ティエン(Ho Xiang Tian)氏は、「新型コロナウイルスの打撃から回復する道のりは、シンガポールにとって、そして世界にとって、より平等な社会とより安定した気候に向けて経済を再構築するよい機会」と述べた。
「パンデミック後に気候危機の只中にいたという事態を避けるため、再生強化タスクフォースには循環経済部門、環境保護部門、低炭素部門のリーダーを加えなければならない。」
この問題に対するMTIのコメントを求められた同省のスポークスマンは、シンガポールは高度に都市化した小さな都市国家であり、風が弱く、土地が比較的平坦で、再生可能エネルギーが不足しているため、地熱、風力、潮力といった代替クリーンエネルギーのうち利用可能なものが限られると述べた。
また、シンガポールの電力の大半は、利用可能な化石燃料のうち最もクリーンな天然ガスを使って作られていると説明した。
また、政府はシンガポールのCO2排出量を減らすための計画がほかにもあると話し、過去に発表された複数の計画を挙げた。
たとえば、シンガポールは2020年の太陽光発電設備容量は目標である350メガワットピークを達成済みであり、2030年までに2ギガワットピーク以上という目標に向けて前進していると同スポークスマンは述べた。これは現在のエネルギー需要の約4%に相当する。
さらに、エネルギー効率改善とCO2排出量削減を企業に奨励するためにエネルギー資源効率助成金などのインセンティブも用意されていると説明した。
また、同スポークスマンは次のように付け加えた。「MTIは水素やCO2の捕捉、活用、貯蔵を含む新たな低炭素テクノロジーを産業界や研究コミュニティと共同研究しており、それが長期的に経済の脱炭素化をいっそう進める可能性がある。」
気候変動問題に取り組む組織、Singapore Youth For Climate Actionのスポークスマンは、MTIが挙げた対策は今回のパンデミックが世界中の経済に影響を及ぼす以前に発表されたものであると述べた。
同スポークスマンは次のように続けた。「気候危機の進行がもたらすであろう衝撃はコロナ危機のそれよりもはるかに大きいのに、グリーンエネルギーへの移行に向けて政府が計画を変更することが一切ないというのは非常に気がかりだ。」
気候関連コミュニティは、低炭素エネルギーの代替策について研究者と協力している政府の取り組みを歓迎する。一方、シンガポールがほかの方法で化石燃料への依存から脱却する取り組みを推進する可能性もある。
たとえば、他国のグリーンエネルギー移行計画と同様に、シンガポールでも太陽光発電の導入に関する研究開発を行うほうが大きな前進につながるかもしれない、と同スポークスマンは述べた。
さらに次のように付け加えた。「将来起こりうる世界的危機や迫り来る気候危機からシンガポールを守るうえで、現在の経済状況は、炭素集約型産業の効果的な段階的廃止を始めるよい機会だ。」
「この移行を真に前進させることは、長期的に見て大いに理にかなう。」
出典:The Staits Times© Singapore Press Holdings Limited. 無断転載を禁ず。
1シンガポールドル(SGD)=77.8円(2020年11月27日現在)