3. 日系企業のAI取り組み
a.ソニー:ソニー子会社で、センシング、AI、デジタル仮想空間領域で革新的な研究を推進するソニーリサーチは、シンガポール政府の国家研究基金(National Research Foundation: NRF)傘下のAI関連技術開発支援プログラム、AIシンガポール(AISG)と、東南アジア地域の言語に特化した大規模言語モデル(LLM)「Sea-Lion」研究での提携で覚書(MoU)を交わした。世界のLLMと、東南アジア言語のLLMとの格差を縮め、全ての言語や人々を代表できるものとするために協力する。
ソニーリサーチ傘下のソニーAIとAISGは、「Sea-Lion」で、インドや東南アジアで約6000万~8500万人が使用していると言われているタミル語や、他の東南アジア言語のテストやフィードバック、LLM開発のベストプラクティス(業界標準)や調査方法などの共有を検討する。
b. 三井住友フィナンシャルグループ(SMBC):SMBCは、グループでのAI戦略推進と企業変革加速のため、米専門サービス企業ジェンパクトやマイクロソフト・アジアでの経験を持つアーメッド・ジャミール・マザーリ(Ahmed Jamil Mazhari)氏を「AIトランスフォーメーションアドバイザー」として招聘した。
SMBCとマザーリ氏は、シンガポールにAIソリューション企業を設立予定だ。新会社では、複雑な業務環境の中でAIエージェントが学習、推論し、自律的に稼働する仕組みを開発する。まずSMBCグループへのソリューション提供から開始し、将来的には同グループ法人顧客や取引先へも範囲を広げる計画だ。
マザーリ氏は、米GEや、2005年にGEから独立したジェンパクトなどで20年以上勤めた経歴を持つ。特にジェンパクトでは創業からニューヨーク証券取引所上場を果たした。マイクロソフト・アジアで日本を含めたアジア全域の事業を統括し、AIソリューション提供体制を構築した実績もある。
c. オルツ:AIスタートアップ(新興企業)オルツ(Alts)は、AISGとの提携を発表した。LLM「Sea-Lion」のモデルやデータセットをオルツ製品に組み込み、AI技術を強化、活用する道を模索する。またAISGとの共同開発も検討する。
オルツは、軽量かつ高精度を実現した日本語LLM「LHTM-OPT」、「LHTM-OPT2」を開発している。
4. SAPラボ、国内AI人材開発に注力
独業務用ソフトウェア大手SAPのシンガポール研究所SAPラボは、国内人材開発に重点を置き、AI技術革新機能を強化を図る。
国内大学や研究所と提携し、包括的訓練や研究プロジェクトの提携などの国内人材開発プログラムを強化する。シンガポールの労働力がAI分野で必要な技能や専門知識を習得し、様々な業界での技術革新を進めることを可能にするためのアプローチだ。
5. メタ、大規模言語モデル・インキュベーター・プログラムを開始
メタはシンガポールで、開発中の大規模言語モデル(LLM)「Llama(ラマ)」のインキュベーター・プログラムを開始した。シンガポール国内のオープンAI技術開発を強化し、新しいAIアプリケーションやソリューションを作り出すため、スタートアップや研究者にLlamaへのアクセス、専門知識、資源を提供する。
6. アマゾンとハイネケン、AI研究開発ハブにシンガポールを選定
アマゾンはシンガポールに、アマゾン・ウェブ・サービス・アジアパシフィック・ハブの新オフィスを開設した。同社の域内クラウド・インフラやサービスを支援し、企業に大規模で信頼のおけるクラウドソリューションへのアクセスを提供する。
ハイネケンも「グローバル生成AIラボ」をシンガポールに開設した。企業がAIに関するグローバルな専門知識の中心地をシンガポールに設置した一例となる。ハイネケンによると、コンテンツ作成から財務諸表作成、顧客対応など、重要業務向けに革新的なソリューションを開発するにあたり、シンガポールのエコシステム、人材、政府支援策から恩恵を得るという。
7. セールスフォース、5年で10億米ドルをシンガポールに投資
米セールスフォースは、今後5年でシンガポールに10億米ドルを投資すると発表した。シンガポールを、アジア太平洋地域での同社成長を支援する重要なハブとしてとらえていることの表れだ。
域内で需要が増しているクラウドベースのソリューションやAIによるアプリケーションに対応する機能を強化するため、同社のインフラや人材開発、エコシステムのパートナーシップなどを通じての投資となる。
セールスフォースのシンガポールへの投資は、国内デジタル経済の強化に大きく寄与することが期待される。また、イノベーション(技術革新)をすすめ、AIを導入したソリューションの創出を支援する。これらのソリューションは、多様な業界で刻々と変化する企業の需要に応え、成長機会と技術の進歩を創出する。