シンガポール情報通信メディア開発庁（IMDA）は、人工知能（AI）人材育成プログラムと中小企業のAI導入事業支援策の強化を発表した。約800人にAI人材育成機会を提供することで、現在約6000人の国内AI人材を拡張する。また、企業1000社のAI導入500プロジェクトを支援する。
イベント「AT xエンタープライズ2025」開会式であいさつしたタン・キャットホー（Tan Kiat How）上級国務相（デジタル開発・情報担当）は、「デジタル経済は、シンガポール国内経済の約18％と貢献している」と述べた。
AIは外国からの投資も呼び込んでいるという。イベント開催時までに少なくとも26の企業AI研究所がシンガポールに設立された。
タン上級国務相は「世界が不安定な中、テクノロジー、特にAIが引き続き質の高い経済成長をもたらすと期待している。企業がシンガポールでAI部門を拡張し、機能を強化すれば、AI専門知識を持つ実務担当者をさらに必要とするだろう」と説明した。
計800人を育成
シンガポール政府の国家研究基金（National Research Foundation: NRF）傘下のAI関連技術開発支援プログラム、AIシンガポール（AISG）は、AI初心者の中堅労働者や、すでに経験を積んだ専門職約400人を訓練する。
業界の需要に応じて開発された期間6カ月の国内AI人材育成事業「AI実習プログラム（AI Apprenticeship Programme: AIAP）」は、2年で300人のAI技術者を育成する。同事業は2018年に開始し、すでに16期410人が修了した。AIシンガポールによると、修了者の90％は就職が決まったという。
AISGは「ピナクルAI・インダストリー・プログラム」も新たに開始する。3年で国内AI実務経験者100人が6カ月の専門家育成課程を受講する。企業が社内AI担当者を推薦することも可能だ。受講者は、大規模言語モデル（LLM）開発のデータ管理やモデル訓練、開発などの各段階で実習し、AIシンガポールが開発中の東南アジア地域の言語に特化したLLM「Sea-Lion」プロジェクトにも携わる予定だ。
アマゾン・ウェブ・サービス（AWS）やオラクル、マイクロソフト、シンガポール国内通信大手シンガポール・テレコムなどの企業も、400人に技能訓練を提供する。
IMDAによると、シンガポールのハイテク人材は、ここ数年の学校教育や技能取得プログラムなど様々な事業を通じて25％増加した。政府は2028年までに、ハイテク人材数を現在の３倍となる1万5000人に増やす目標を掲げているが、順調に推移しているという。すでに2万人のハイテク産業就職を支援し、32万人が技能を取得した。
1000社の生成AI導入を支援
企業AI導入支援策として、タン上級国務相は、デジタル化がある程度進んだ企業のAI導入を支援する施策「GenAI x Digital Leaders」を拡大し、今後12カ月で、新たに1000社の生成AI導入プロジェクト500件に助成金や支援を提供すると発表した。同事業は４月時点で、すでに200社のAI導入事業50件を支援している。
タン氏によると、中国のアリババクラウド、シンガポール政府系防衛複合企業STエンジニアリングなども地元企業のAI導入支援に加わる。アリババクラウドは、中小企業やデジタルソリューションプロバイダー約3000社のクラウドテクノロジーやAI導入を支援する。STエンジニアリングは、無料のサイバー脅威検出サービスを中小企業2000社に提供する。
同事業には2024年以降、AWS、国内銀行最大手DBS銀行、グーグル、マイクロソフト、セールスフォース、国内ハイテク業界団体SGTech、企業団体シンガポールビジネス連盟（Singapore Business Federation：SBF）、シンガポール・コンピューター協会など8企業・団体が計1万社の支援を確約している。
域内AI普及も進める
シンガポールは、国内だけではなく、東南アジアでのAI普及にも努めている。AISGは、東南アジアに合わせたAIソリューション構築のため、初の東南アジアAI開発者チャレンジを開始する。
タン上級国務相は「シンガポールの価値は、能力だけではなくその一貫性にある。世界の不確実性が増す中でも、信頼できるパートナーであり続ける」と述べた。
元記事「Singapore doubles down on AI with 800 new training spaces, 500 business projects」（5月28日付ストレーツ・タイムズ紙）から翻訳しました。誤りについては、すべて翻訳側の責任となります。
