数十年にわたり、日本の中堅企業は安定した国内市場を基盤に事業を展開してきた。しかし現在、多くの企業が、人口減少、人手不足、国内の成長鈍化を背景に、野心からではなく、必要に迫られた結果としてますます海外に目を向け始めている。
日本M&Aセンターの尾島悠介執行役員は、こうした日本の「資本輸出」の流れのなかで、東南アジア諸国への関心が高まっていると指摘する。
尾島氏は、2025年に発表された日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査を引用し、アジア・オセアニア地域に進出済の日系企業の43.8%が事業拡大を計画していると説明した。
ジェトロによると、海外展開を計画している企業の割合は2021年以来、40%超を維持している。
尾島氏は「日本の多くの中堅企業にとって、海外進出は今や『あれば望ましい』選択肢ではない。成長を実現し、一極集中リスクを抑え、次段階の競争に備えた戦略の一環としての重要性を増しつつある」と語った。
尾島氏は、東南アジアが依然として高い魅力を持つ理由について、人口の増加、中間所得層の拡大、急速な都市化、デジタル化の進展など、今の日本に足りない成長要因を数多く備えている点を挙げた。
「東南アジアが引き続き注目されるのは、いくつかの極めて明白な理由によるものだと思う」と尾島氏は続けた。「消費者需要の高まり、サプライチェーン多様化の可能性、そして比較的高い域内のつながりが集約されている。これほどの条件がそろう地域は他にはない」という。
「チャイナ・プラス・ワン」という議論を越えて
尾島氏は、東南アジアの魅力は、広く言われている「チャイナ・プラス・ワン」戦略の枠を超えていると述べた。
日本と東南アジアの経済関係は数十年にわたって築かれ、同氏が「一定の親近感と信頼」と表現する土台が形成されている。
そのため、多くの日本企業は東南アジアでゼロから事業を立ち上げるのではなく、すでにネットワークやパートナーシップ、事業経験のある市場で事業を拡大している。
こうした関係の深さは、貿易や投資動向にも反映されている。ASEAN事務局のデータによると、2024年の日本と東南アジア間の貿易総額は約2360億米ドルに達した。日本から同地域への海外直接投資(FDI)は2023年から2024年にかけて20%増加し、175億米ドルとなった。
2025年の公式な貿易統計はまだ確定していないが、尾島氏は、日本企業の同地域への関心の高まりを背景に、投資の勢いは引き続き堅調に推移すると見ている。
OECD(経済協力開発機構)の報告書によると、2025年上半期の世界FDI流出額は、日本が980億米ドルで首位となった。2位は中国で610億米ドル、ルクセンブルクが570億米ドルで3位だった。
マルチマーケット戦略
日本企業にとって大きな魅力の一つは、東南アジアが単一で画一的な市場ではなく、それぞれ異なる強みや役割を持つ、極めて多様な経済圏の集合体である点だ。
そのため企業は、自社の戦略的な優先事項に応じて地域展開を組み立てるすることができる。シンガポールは地域本部や中核拠点として活用されることが多く、一方でベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアなどの市場は、製造・生産拠点としての役割を担っている。
現在、不確実な経済環境の中で、企業はコスト効率とサプライチェーンの安定性のバランスを模索している。尾島氏は、そうした状況でこの構造的な柔軟性の価値が一段と高まっていると指摘した。
「実際、多くの日本企業は東南アジアを国単位でとらえていない。ひとつの地域として見ながら、それぞれが異なる役割を担う複数の市場にまたがって事業基盤を構築している。」シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ、インドネシアでの事業を統括する尾島氏は語った。
例えば、シンガポールに地域拠点を置く日本の化学・バイオ製造企業であるカネカは、多様な事業領域を活用しながら東南アジア全域で事業展開を拡大している。
同社はベトナムで、医療機器、香辛料、PVCコンパウンドの製造・販売を主軸とする3つの製造拠点を運営している。タイでは、2つの製造工場で発泡プラスチックやPVCコンパウンドを生産・販売している。一方、インドネシアの食品製造事業は、加工油脂製品の製造・販売に注力している。
日本の大手エンジニアリング企業クラフティア(旧社名:九電工)は、シンガポールの地域本部から東南アジアでのエネルギー・建設事業を統括している。ベトナム、タイ、インドネシアにも事業拠点を置き、顧客の地域展開を支援するため、施設の設計から建設までを一貫して手掛けている。
注目を集めるシンガポール・ジョホールモデル
尾島氏は、東南アジアでは、事業の多様化を目指す日本企業にとってジョホール・シンガポール経済特区(JS-SEZ)が最も魅力的な連携モデルの一つになっていると述べた。
「シンガポール・ジョホールモデルが興味深いのは、企業にどちらか一方を選ばせることを強いない点にある。むしろ、双方を一体的な事業運営体制の一部として考えることを促している。」と同氏は述べた。
このモデルでは、シンガポールがグローバルな接続性や信頼性、資本調達へのアクセスを、ジョホールは生産能力、用地、コスト効率をそれぞれ提供する。
「こうしたバランスは、過度な負担を招くことなく東南アジアに盤石な拠点を確立したい日本の中堅企業にとって、非常に魅力的だ。」と同氏は加えた。
事業遂行への自信
尾島氏は、東南アジアへの関心が高まる一方で、多くの中堅日本企業にとって最大の障壁となっているのは、価値評価ではなく、事業を実際に遂行できるかという自信の欠如だと指摘する。
市場参入後の事業運営がどのように機能するかについて明確な見通しが立たない場合、実行に踏み切れないことがある。投資リターンの魅力より、現地の経営能力、文化面での適応、ガバナンス基準に関する懸念が上回ることも多い。
日本企業は概して、東南アジアの多様性に対応する準備はできているものの、コンプライアンス対応、財務の透明性確保、法制度への適応が難しいと感じられる場合、その確信は急速に揺らぎかねない。
こうした背景から、ゼロから事業を立ち上げるよりも、M&Aを選択する動きが強まっている。既存の現地企業を買収したり提携することで、日本企業は事業基盤、現地のノウハウ、事業継続性を確保できるためだ。
尾島氏は「リスクがなくなるわけではないが、企業の前進を妨げる不確定要素を大幅に減らすことが可能だ」と述べた。
マレーシアで高まる機運
近年の企業動向は、金融やエネルギーからデジタルインフラに至るまで、日本企業のマレーシアへの投資が勢いを増していることを反映している。
金融サービス分野では、日本のアモーヴァ・アセットマネジメント(旧・日興アセットマネジメント)が、マレーシアの資産運用会社AHAM Asset Managementのほぼ全株を取得する方針だ。
エネルギー分野では、出光興産が近年、サラワク州沖の探鉱区の権益取得を通じて、マレーシアの上流部門事業に参入した。また、三菱商事はペトロナス関連プロジェクトへの出資比率を引き上げ、マレーシアの液化天然ガス(LNG)分野への関与を拡大した。
日本のIT企業も、マレーシアを足がかりに地域展開を積極的に拡大している。その代表例が、近年のNTTデータによるマレーシアの決済ソリューションプロバイダーGHL Systemsの買収だ。
マレーシア投資開発庁(MIDA)のデータによると、2025年末時点で、日本はマレーシアへの主要投資国の一つで、3800件以上のプロジェクトの投資承認額は1429億リンギット(460億シンガポールドル)に上っている。
さらに重要なのは、これらが単なる計画段階にとどまっていないという点だ。これらのプロジェクトのうち2800件以上がすでに稼働しており、現地で50万件近くの雇用を生み出している。
元記事「Japanese firms seek growth in South-east Asia - The Business Times」(5月28日付ビジネス・タイムズ紙)から翻訳しました。誤りについては、すべて翻訳側の責任となります。