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シンガポールの製造業、多国籍企業との提携と政府支援でサプライチェーン変化に対応(Part 2)

シンガポールの製造業、多国籍企業との提携と政府支援でサプライチェーン変化に対応(Part 2)

新型コロナ禍やトランプ政権の相互関税政策などの不安定要因の中でも、シンガポールの製造業は多国籍企業との提携し、グローバルサプライチェーンの中で重要な役割を果たしている。Part 2では、心臓弁製品メーカー米エドワーズライフサイエンスと地場Meiban、そして米医療機器大手ストライカーと地場Fong’s Engineeringとのパートナーシップ事例を紹介する。

シンガポールの製造業、多国籍企業との提携と政府支援でサプライチェーン変化に対応(Part 2)
新型コロナ禍に築かれた協力体制により、関税変動への対応も容易に 

世界有数の心臓弁製品メーカー米エドワーズライフサイエンスは、シンガポールの製造業Meibanとの提携で、物流の時間とコストを削減し、市場投入までのスピードを向上させた。エドワーズのデビッド・ガン・グローバルサプライチェーン担当ダイレクターによると、全体的に20~30%のコストを削減した。 

エドワーズライフサイエンスの2025年第2四半期売上高のうち、41.93%が米国外の市場からだ。うち欧州が24.68%、日本が6.22%を占めた。 

シンガポールはエドワーズ最大の製造拠点で、サプライチェーンの重要な一角を占める。Meibanはエドワーズの重要な製造パートナーで、提携はすでに15年に達する。 

エドワーズは2010年、アジアの製造拠点拡大計画時に、シンガポールでパートナーを探した。すでにクリーンルーム技術を導入していたMeibanがその高い製造基準を評価され、契約を獲得した。 

Meibanのウィルソン・タン・オペレーションダイレクターは「エドワーズの業界での評価に加え、パートナー企業に求める厳格な品質基準も、当社の技術力を大幅に向上させた」と言い、この提携でMeibanは医療機器分野での地位を築くことができたと語る。 

Meibanは現在、エドワーズ向けにカスタマイズされた射出成形部品の供給から自動化ソリューションの開発まで、エドワーズの研究開発チームと協力して製造設計のアップグレードに取り組んでいる。これは、長年にわたり築き上げてきた信頼関係と、エドワーズのサプライチェーンにおけるシンガポールの重要性によるものだ。 

タン氏によると、両社は現在、少なくとも2週間に1回は会合をもっている。新事業に着手する際は、両チームが進捗状況を把握できるよう、会合の頻度を週1回に増やすという。 

関税については不透明な点が多いものの、強固なパートナーシップにより、Meibanもエドワーズも過度な不安は感じていない。Meibanのタン氏は、両社の提携は、新型コロナ禍の危機を乗り越えたことで安心感につながっていると語る。新型コロナ禍の製造業への直接的な打撃と比較すると、関税がコストに与える影響は対応しやすいように見えるという。 

タン氏は「新型コロナ禍は大きな衝撃だったが、私たちは互いの事業が求めるものへの理解と、緊密な連絡によって危機を乗り越えることができた」と述べた。 

エドワーズのガン氏も、新型コロナ禍時に、両社がいかに緊密に連携し、在庫管理戦略の策定、原材料の事前準備、事業継続のための対策などに尽力したかについても言及した。ガン氏は「パートナーシップが重要になるのはこの点だ。開かれたコミュニケーションを通じて共に課題を克服する。関税が私たちのパートナーシップ戦略に影響することはない」と語った。 
 

政府が多国籍企業との提携強化の仲介役に 

シンガポール国立大(NUS)経営学部のシュー・ラー博士は、多国籍企業と地元企業との提携では、政府支援が重要な役割を果たしてきたと述べた。 

外国投資を呼び込み、多国籍企業と地元の中小企業との連携を促進する助成金制度「Partnerships for Capability Transformation (PACT)」がその一例だ。 

企業庁(Enterprise Singapore、ESG)と経済開発庁(EDB)によると、PACTは、多国籍企業と地元企業との提携時に発生するコストの一部を補助し、初期段階のハードルを乗り越える支援をするものだという。 

業界の発展と、変化するビジネス需要に適切かつ迅速に対応できるよう、PACTの適用範囲も拡大されている。当初は受託生産企業(OEM)とそのサプライヤーのみが対象だったが、その後、他の製造業や非製造業にまでも広げられた。2024年には制度がさらに強化され、能力開発訓練、海外展開、共同イノベーションなど、さまざまな業界にまたがる分野も対象となった。 

EDBとESGは、潜在的パートナーを連携させるためにも、企業と積極的に新たな提携可能性を模索している。EDBは多国籍企業が地元企業が対応可能な分野を特定・理解するため緊密な連携を行う。ESGは適切な地元企業選定を促進、機会探索のための会合の機会を設ける。同時に、業界団体やその他のプラットフォームも活用し、企業間のコミュニケーションを支援する。 

2024年から25年2月までに、両庁のイニシアチブにより、多国籍企業と地元企業の間で新たに17件のパートナーシップが実現した。 

多国籍企業と地元企業との提携促進に向けた取り組みは近年始まったものではない。約20年前にEDBの支援を受けて多国籍企業との提携に成功したという企業もある。 

Fong’s Engineering and Manufacturingは、25年前は医療機器には特化しておらず、異なる業界向けにさまざま精密部品を製造していたが、米医療機器大手ストライカーとの提携をきっかけに、医療機器分野に進出した。 

Fong’s Engineeringのクレメント・フォン代表取締役会長は、兄が会社を率いていた当時を振り返り「EDBにストライカーを紹介された。シンガポールで部品を生産するために、精密製造の経験と高い品質管理基準を持つサプライヤーが必要だと言われた」と語った。また、ストライカーの技術部門幹部が広東語を話せたのは嬉しいサプライズで、始めから信頼関係を築くことができたという。 

だが、信頼関係が得られたといって、すぐにスムーズなパートナーシップが築かれたわけではない。2007年頃、ストライカーはFong’s に対し、部品製造に加え、組み立て作業も依頼した。当初は、Fong’s チームの経験不足から、市場投入までのスピード要件を満たすことができず、品質問題も頻繁に発生した。 

フォン氏によると、ストライカーは米国本社の研究開発部門と製造部門の従業員で構成されたチームをシンガポールに派遣し、新規生産ラインの立ち上げを支援した。業務専門家も加えて派遣され、Fong’sの従業員にきめの細かい指導を行った。 

「6~9カ月かけ、徐々にコツをつかんだ。現在、当社の製造基準は市場の平均を上回っている」とフォン氏は語る。 

フォン氏はその時期が特に困難だったと思っていない。一連の研修と問題解決を経て、 Fong’s Engineeringのチームはストライカーの高い基準をすべて満たせるようになり、さらに数多くの優秀なエンジニアも入社した。 

現在、両社は内視鏡関連の医療機器開発に注力する研究開発施設を Fong’sに設立する計画だ。Fong’sの製造・研究開発関連部門で100人以上の新規雇用が創出される。5年後には、ストライカーとの提携による売上高は倍増すると見込まれる。 

フォン氏は、この提携が Fong’s の変革にも貢献し、競争力を高めたと信じている。現在、同社の製造基準はストライカーだけでなく、医療機器業界の他の多国籍企業からも信頼を得ており、他社との協業の機会も拡大した。 

「医療機器業界への参入は容易ではなく、参入障壁は非常に高い。しかし、一度受け入れられ、問題を起こさず信頼できる提携先として認められれば、パートナーシップは永続的なものになるだろう」とフォン氏は語る。 

これはFong’s Engineeringにとり、相互関税の脅威からの安心材料となっている。フォン氏によると、医療機器分野は他の業界と比較して長期的な市場需要に支えられている。患者は手術や治療を必要とし、病院は機器を必要としている。相互関税によって状況が劇的に変化する可能性は低いとみられる。 

フォン氏は、顧客が生産ラインの1つをシンガポールに移転し、Fong’sに管理させることを検討していると明かした。Fong’sはさらに需要の増加を見越し、東部カキブキに製造拠点を新設する予定だという。 

NUSのシュー博士は、多国籍企業との提携を目指す地元企業は、関係に期限があることを理解する必要があると述べる。「地元企業は、学びと成長の機会をとらえつつ、自社のサプライチェーン・システムと販売チャネルの改善にも取り組むことで、複雑で絶えず変化する環境に自主的に対処する能力を強化し、リスク対応能力を構築していく必要がある」 
 

※元記事「悉看大势:全球供应链频遭冲击 外企风暴中寻港湾 抱团本地公司开新局」(8月3日付聯合早報紙)を、許可を得て英語版としてEDBが独自に再編集したものを翻訳したものです。誤りについては、すべて翻訳側の責任となります。   

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