一方、投資が生み出す人件費や賃料などの事業支出総額(Total Business Expenditure)(TBE)は、2016年で83億Sドルと前年比で48.2%増加しました。一時的な大型造船所プロジェクトが発足したことなどから、期初予想の55億〜65億Sドルから大きく上振れしました。投資に伴う雇用創出数は今後5年間で2万100人に達する見込みです。
TBEの増加は国際的企業がシンガポールにヘッドクオーター(本社・地域本社など)やR&D拠点を開設する動きが引き続き活発なことを示しています。例えば、電通の海外本社である電通イージス・ネットワーク(英国ロンドン)は、同社としては初となるR&D施設「グローバル・データ・イノベーション・センター」を開設、IoT(モノのインターネット)やビッグデータなどの技術を活用したマーケティングデータ分析の手法やアプリケーションの開発を目指しています。データサイエンティストなど専門家の育成もこの施設で行う予定です。
このように、ASEAN市場全体をカバーするR&D拠点や先端製造拠点をシンガポールに設置する動きが引き続き増加しています。
先端製造業のエコシステム構築が進む
シンガポール政府ではシンガポールを次のフェーズの発展へと導く施策として、主要23業種産業の国際的競争力を高める「産業変革プログラム(Industry Transformation Progra)(ITP)」を推進しています。そして、ITPの工程表である「産業変革マップ(ITM)」に基づいて、精密(Precision)エンジニアリング、エネルギー・化学(Energy&Chemicals)、エレクトロニクス、航空機などの製造業セクターで先端的な製造技術の導入を支援しています。
政府はまた、先端製造術導入による産業構造の転換にも取り組んでいます。この政策は、製造業がシンガポールに持つ拠点が他国にある工場のモデルケースとして進化することを促進すると同時に、製造業に対して技術やソリューションサービスを提供する企業がシンガポールで事業を始める呼び水ともなるでしょう。
こうした政府の支援を受けてすでにスタートしたプロジェクトの一つが、住友化学のIoTプロジェクトです。同社はアクセンチュアと協力しながらプラント内センサーを活用した予知保全、現場従業員へのスマートデバイス導入などを進めることで、生産性向上やエネルギー効率の最適化を図る計画です。この計画は同社のシンガポールにおける製造設備をすべてデジタル化することによって、IoTのセンター・オブ・エクセレンス(CoE、世界的研究拠点)を構築することにつながるでしょう。
2017〜18年はITMに沿って、サイバーセキュリティやデータサイエンス、デジタル製品のデザインや機能を設計する「UI(ユーザーインターフェイス)/UX(ユーザーエクスペリエンス)」、デジタルマーケティングなどの分野でエコステム構築が進むものと見られています。成長する東南アジア市場での事業拡大を図ろうとする日本企業にとって、こうしたエコシステムが輩出する有能な人材は貴重なリソースになるものと思われます。
なお、2017年のFAIは前年と同水準の80〜100億Sドルになると予想されます。