15カ国で貿易の自由化と経済ルールの整備を行うRCEP
RCEPは、シンガポールをはじめ、インドネシア、カンボジア、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオスのASEAN加盟全10カ国に、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを加えた15カ国が参加するアジア太平洋地域の経済連携の新たな枠組みだ。参加国は、工業製品や農林水産品の関税の撤廃や引き下げに加え、経済ルールの整備など20の分野について合意しており、2022年1月1日に発効。環太平洋経済連携協定(TPP)より貿易自由化の水準は低いとも言われるが、世界のGDP、人口、貿易額のおよそ3割を占める巨大な自由貿易圏が生まれることになる。
関税の優遇でビジネスのグローバル化を促進
協定の内容は具体的にどういったものなのか。まず関税の面では、参加国全体で約9割の品目の関税が撤廃される。米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物の重要5品目の日本への輸入関税は撤廃されないなど対象外はあるものの、工業製品を中心に多くの品目の関税が撤廃、または引き下げられることになる。
一方、既に多くの経済連携協定や自由貿易協定が締結されている日本とシンガポール、東南アジアの間では、RCEPにより品目が追加されることになる。例えば、既存の経済連携で除外されていた、日本からカンボジアやラオスへの完成車の輸出関税が、RCEPの発効後13~20年目に撤廃される。そうなれば、急成長する東南アジア地域への日本からの輸出が促進されるだろう。
さらに、RCEPに関して、日本やシンガポールなど域内で活動する企業にとって特に重要なポイントが、原産地規則についてのルールの制定だ。
一般的に経済連携協定で関税の減免を受けられるのは、協定域内で生産したものに限られるが、原産地規則とは、貿易商品がどこの国で作られたかを判定するルールである。RCEPは、その原産地規則が柔軟で、貿易商品の生産工程が複数国にまたがっていても関税の優遇が受けやすくなっている。
というのも、域内で生産したことの証明として、「付加価値基準」か「関税分類変更基準」のいずれかを選択できるようになっているのだ。つまり、企業は関税の減免をより受けやすい基準を自由に選べるというわけだ。
なお、付加価値基準については、複数国間に生産工程がまたがった場合の付加価値の累積も認められるうえ、他の経済連携協定よりも基準が緩い“付加価値基準40%以上”とするものが多く、グローバルなビジネスにおいても関税の減免を活用しやすくなっている。
付加価値基準とは、産品の生産工程で形成された原産性があると認められる部分を価格換算し、その価格の割合が一定の基準を満たす場合にその産品を原産品であると認める基準。関税分類変更基準とは、最終産品と産品を生産するために使用した非原産材料・部品との間でHSコード(関税分類)が変更されている場合(変更されるような生産・加工が行われた場合)に、当該産品を原産品であると認める基準(経済産業省 原産地証明室「原産性を判断するための基本的考え方と整えるべき保存書類の例示」より)。