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村田製作所:シンガポールから地域成長とイノベーションを牽引

村田製作所:シンガポールから地域成長とイノベーションを牽引

積層セラミックコンデンサ(MLCC)で世界最大の市場シェアを持つ村田製作所は、 1972 年に初の海外量産工場として子会社Murata Singaporeを設立。現在ではその他の製品の製造も含め、マレーシア、フィリピン、ベトナム、タイ、インドに拠点を持つ。 Murata Singaporeではイノベーションを通じた競争力強化やグループ内の知識移転を推進している。村田製作所グループにおけるシンガポール拠点の重要性や人工知能(AI)導入について、ヤオ・シンチエ副所長にインタビューした。


Modern glass office building with the Murata logo on the facade, surrounded by greenery under a partly cloudy sky.

Murata Singaporeトゥアス事務所

製造拠点から役割拡大 
 

Q: Murata Singaporeの役割を教えてください。 

ヤオ(以下A):多くの企業にとって、東南アジア進出は、言語・文化の壁がハードルとなります。そうした中で、Murata Singaporeは既存のネットワークと有能な多文化人材を武器に、自社開発技術をさらに向上させ、迅速に展開しています。 

コンパクトで高付加価値の業務を重視し、スマートファクトリーなどDX施策の価値実証拠点としても重要な役割を担っています。さらに、定期的なグローバル研修やリーダー養成を通じ、地域人材育成ハブとしても貢献しています。 
 

Q:シンガポールの生産拠点について教えてください。 
 

Murata Electronics manufacturing facility in Singapore with a security gate and modern office building under a clear blue sky.

村田製作所シンガポール Yishun工場

A:シンガポール北部イーシュン工場ではスマートフォンなどに欠かせないMLCCを製造しており、村田製作所の世界シェア40%達成に大きく貢献しています。西部トゥアス工場はグループ最大規模のリチウムイオン二次電池工場です。 
 

AIの導入・活用で目視検査量を90%削減 
 

Q:工場へのDXやAI導入の特徴は? 

A:既製ソリューションには頼らず、エンジニアが独自にAIモデルを開発することで、技術力の強化や柔軟なカスタマイズ、コスト効率の向上を実現しています。 

AI導入により不良品検出精度は90%以上向上し、目視検査は4000枚から100枚に減り、検査人員を半分に削減しました。ベテラン作業員は高付加価値業務に集中でき、生産性とコスト面で大きな効果が出ています。Murata Singaporeの成果は、本社でも高く評価され、他拠点への展開も検討中です。 
 

Factory worker monitoring an automated production machine via a computer screen on a manufacturing line.

AIソリューションを活用するエンジニア(トゥアス工場)

Q:社内でのAIモデル開発について教えてください。 

A:社内向けAIモデルの開発は、当社が人材投資に注力してきた成果です。例えば、隣の彼はSgIS1を通じて入社し、仕事を続けながらAI分野の修士号も取得しました。若手エンジニアが積極的にAIプロジェクトに参加できる環境を整えています。 
 

Three Murata employees in light-blue uniforms discussing and reviewing information on a laptop during a meeting.

Murata Singapore エンジニアとヤオ氏

当社は人材を中核とし、育成計画や研修、リーダーシッププログラム、海外赴任などで成長を支援しています。人材の専門性とインテリジェントシステムを組み合わせ、AIによるスマートなオペレーションで工場全体の効率向上を目指しています。 
 

Q:組織としてどのようにAI導入を推進していますか。 

A: 私は「トップを強め、ボトムを支える」という方針を大切にしています。意欲の高い社員には探究の自由を与えます。導入に抵抗のある社員には、実際に使用する機会を提供することで効果を実感し、挑戦する姿勢が生まれると考えています。 

さらに、部門横断チームによる現場発のデジタルソリューション発表会を定期開催し、プロセス改善の知見を共有することで、顧客価値と競争力を高めています。
 

Q:現在進行中のAI関連の取り組みはありますか。 

A: 検査AI、データ管理プラットフォーム、予測AIの三つに注力し、大規模言語モデル(LLM)を使ったナレッジマネジメントも進めています。 

将来はこれらを統合したエージェント型AIを構築し、各種モデルやデータをつなぐ「頭脳」として機能させ、サプライチェーンとエンジニアリングチェーンの地域ハブ化を支えていきます。 
 

シンガポール:日本と世界市場をつなぐハブ 
 

Q:企業は政府やエコシステムとどう連携できますか。 

A: シンガポールが地域ハブとして機能するには、現地人材が海外で経験を積むことが重要です。投資や人材開発でEDBの支援を受け、日本やASEAN拠点での研修を通じてリーダー育成と拠点強化を進めています。 

また、科学技術研究庁(A*STAR)との協業も大きな柱です。AIやデータマイニングの研修に加え、プロセス開発や予知保全モデルの構築など、多様な領域で連携しています。 
 

Q:ご自身の経験から、日本企業は海外展開にシンガポールをどう活用すべき? 

A:Murata Singaporeでの34年間で、シンガポールは東西のビジネス文化をつなぎ、日本をグローバル市場へ橋渡しする、非常に有効な拠点だと実感しました。 

シンガポールは国土などで制約はあるものの、デジタル分野では無限の拡張性があります。Murata Singaporeは、高度なIT・AI人材を活用し、成長してきました。 

日本の中核技術と、シンガポールのアプリケーション技術やAI活用の強みを生かし、スピードと柔軟性を伴うイノベーションを通じて新たな価値を創出できます。 
 

Four Murata employees in blue uniforms posing together indoors beneath the Murata logo, smiling and giving a thumbs-up gesture.

Murata Singaporeチーム

 


 

Managing Director Hiroyuki Niwa

丹羽 啓之

マネージングディレクター

「53年にわたるシンガポールでの事業で、Murata Singaporeの役割は徐々に変わりつつあります。当地で得た強固なモノづくり力をASEAN・インド地域の事業全体に広げながら、営業統括機能としての役割も強化しています。これを可能にしているのは、シンガポールで獲得できる幅広い地域から集まる優秀な人材と、社会・経済・知的財産における安定した環境であると考えています。」


注釈:

1 SgIS(Singapore-Industry Scholarship)は、シンガポールの戦略産業分野での活躍を志すシンガポール人大学生を対象とした奨学金制度。

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