産業の成長を支える人材育成
シンガポールの半導体エコシステムは、IC設計からウェーハ製造、パッケージング、テスト、さらにはそれらを支えるインフラに至るまで、バリューチェーン全体を網羅している。
国内には、アメリカのApplied MaterialsやGlobalFoundries、ドイツのInfineon Technologiesなどの半導体製造装置の世界的大手が拠点を構えるほか、ASE GroupやSTATS ChipPACといった主要なOSAT(組み立てやテストサービスのアウトソース企業)も業務を展開しており、シンガポールは最先端の半導体ソリューションを一括して提供できるハブとなっている。
過去2年間で、半導体の製造および研究開発への投資として、180億SGD(約1兆9,400億円)超がシンガポールに集まっており、アメリカのMicron Technology 、オランダのNXP Semiconductors 、台湾のアウトソース企業Vanguard International Semiconductor Corporation、アメリカのPall Corporation、ドイツのSiltronicといった素材メーカーなど業界大手が新拠点の設立や設備拡張を発表、実施している。
そうした流れを受け、シンガポールではIC設計やマイクロチップ工学といった分野の人材の需要が高まり、これに対応するため、政府機関やグローバル半導体企業、国内の高等教育機関(IHLs)、業界の主要パートナーが連携し、持続可能な人材パイプラインの構築に取り組んでいる。その主な内容は以下の通り。
2023年、Micronはシンガポール国内の5つのポリテクニック(公立技術専門学校)とMoU(覚書)を締結。インターンシップ、奨学金、業界体験の機会を提供し、学生が先端的半導体製造の現場で実践的な経験を積めるよう支援している。
2024年には、実践的な職業教育と技術訓練を提供する公的教育機 関である技 術 教 育研 究 所(ITE)が GlobalFoundries、Micron、スイスの半導体大手STMicroelectronicsおよびシンガポ ール科学技術研究庁(A*STAR)傘下のInstitute of Microelectronics(IME)とMoUを締結。学生のインターンシップや教職員の実地研修、共同プロジェクトを通じて実践的な学びを提供している。また今年初めには、SiltronicおよびVanguardともMoUを締結し、マイクロエレクトロニクス分野での人材育成と訓練体制の強化を図っている。
EDBは奨学金制度である「Singapore Industry Scholarships(SgIS)や 、専門的なスキルを習得するためのプログラム「Industry Postgraduate Programme(IPP)」などを通じて企業と連携し、若者の業界参入を促している。また、中途採用の専門職従事者を対象とした就職前研修やキャリア転換プログラムも、学生支援活動と並行して実施している。
アメリカの半導体企業AMDは、シンガポール半導体産業協会(Singapore Semiconductor Industry Association:SSIA)と協力し、大学生向けにICの設計技術を学ぶための集中トレーニングプログラムであるIC design campを開催。現場で活躍するエンジニアによる指導や実践的な体験を通じて、設計スキルを養う機会を与えている。
南洋理工大学(NTU)とAMDが共同で運営する「NTU-AMD Data Science and AI Lab」では、ウェーハ製造、IC設計、AIの応用に対応できるエンジニアの育成に取り組んでいる。