世界に認められた最新鋭の工場
世界経済フォーラム(WEF)は、最新鋭の製造拠点を「ライトハウス(以下WEFライトハウス)」と認定している。
WEFライトハウスに認定されるには、人工知能(AI)から高度なロボット工学などの第四次産業革命(4IR)と言われる技術を、生産性や持続可能性、人材育成の全般で実証済みの成果をもたらす形で導入拡大しているかを第三者機関が審査する。認定されるとWEFの「グローバル・ライトハウス・ネットワーク(GLN)」のメンバーに選出される。
WEFライトハウスは、2018年の発足当時は16カ所だったが、現在は30カ国の35分野、201カ所にまで増加した1。GLNメンバーの製造業企業は通常、3年以内に2~3倍、5年以内に4~5倍の投資収益率(ROI)を達成している。近年の認定拠点では、変革のスピードをさらに加速し、ROI達成は10~20カ月以内と、初期認定拠点よりも約25~50%早いとの報告がある。
最新のWEFライトハウス認定拠点では、労働生産性は平均40%向上し、リードタイムはほぼ半減している。これらの拠点では、試験的な段階を超えて全社規模で先進技術を実装し、コスト削減・品質向上・環境負荷低減といった指標で顕著な成果を上げている。
シンガポールには、半導体からライフサイエンス機器・消費財まで、東南アジア最多の6カ所のWEFライトハウスがある。業界を牽引するアジレント、コカ・コーラ、HP、インフィニオン、マイクロンにとっての重要な製造拠点であり、2025年9月には新たにグローバルファウンドリーズが加わった。
シンガポールのライトハウス拠点の存在は、製造業が効率性と持続可能性を高めるためにインダストリー4.0技術の導入・活用・スケールアップに必要な支援を受けられることを表している。
アジレント・テクノロジー
化学分析機器の開発・製造・販売・サポート世界大手アジレント・テクノロジーのシンガポール工場は、2022年にWEFのライトハウスに認定された。顧客需要の高まりに対応するため、デジタルツイン、機械学習、人工知能(AI)を導入することで、多品種・高精度な機器製造を簡素化し、分析・臨床検査技術企業として世界初のWEF認定を受けた。
アジレントは、自社設計AIアルゴリズムを搭載した150以上のインダストリアルIoT(IIoT)ステーションを予測検査で使用している。これらのシステムは過去の検査結果を学習し、パターンを識別して自動検査を進める。ロボティクスが非常に複雑なタスクを実行し、サイクルタイム(製造までにかかる時間)を30%短縮し、AIの外観検査で品質管理を最適化した。4IR技術の導入で、工場の生産性は60%、生産量は80%向上した。再生可能エネルギーを通じて持続可能性を推進し、将来を見据え、従業員をAI人材として育成している。
ザ・コカ・コーラ・カンパニー
ザ・コカ・コーラ・カンパニーのコカ・コーラ濃縮液製造工場は、2024年にWEFのGLNに加わった。需要増と製品の多様化に対応するため、スケジュール管理と連携したAI需要予測、包装ロボティクス、複雑な工程のためのデジタルツールを導入した。従業員に対しては、コカ・コーラのグローバルデジタルアカデミーでの5000時間以上の講習受講や、18拠点での社内エクスチェンジプログラムの実施で、あらゆる職位で新しいシステムに対応できるよう支援した。
その結果、スループット(処理能力)は28%、労働生産性は70%向上した。在庫不足は80%減少、納期遵守率は31%向上し、同時に温室効果ガス(GHG)の間接排出量も34%削減された。
グローバルファウンドリーズ
グローバルファウンドリー(GF)の300mm半導体ファブ(製造施設)は、企業全体でのデジタル・AI主導ソリューション導入が評価され、2025年にWEFライトハウスに選出された。同施設では、予知保全、品質管理、ワークフロー最適化のため機械学習を導入し、リモートサポートツールによってダウンタイム(生産停止期間)を削減し、効率性を向上した。
GFは、AIの成長と普及を支える特別で重要な半導体チップの提供能力を加速し、モバイル機器、自動車、IoTといった、急速に進化する市場の需要にも対応している。
デジタルソリューション導入が成功したことで、新たな職種も誕生した。従業員はデータ主導の環境で技能を向上し、スマート生産分野でリーダーシップを担うようになっている。大学やソリューションプロバイダーと提携し、スマート生産ソリューションや、シンガポールのデジタル人材地盤拡大取り組みで、2020年以降大規模展開された変革事例(ユースケース)は60件を超えた。その結果、労働生産性は40%向上し、新製品の試作時間は30%短縮され、シンガポールはGFにとって半導体主要グローバル拠点としての役割を強化した。
HP Inc
「ファルコンライン」は、HPシンガポールの最先端の製造ラインだ。HP Incのシンガポール工場は、従来の労働集約型オペレーションから、完全デジタル化、自動化、データ主導生産環境への変革が評価され、2021年にWEFライトハウスに認定された。
HP Incの取り組みは、「高度な自動化」「VR/AR(仮想現実・拡張現実)とインダストリアルIoT」「積層造形」「機械学習やAIなどのデータ解析」の4つの柱から成る。WEFライトハウス認定は、HP Incが製造工程向け新技術の開発と導入を目的として2017年に設立したSmart Manufacturing Application and Research Centre (SMARC)の集大成と言える。
HPのファルコンラインでは、産業用、商用、3Dプリンター用のプリントヘッドとカートリッジを製造ロボットや自律走行車を導入し、作業員の反復作業や重労働を軽減した。AIを導入した検査システムは、印刷不良をピクセル単位で検出する。
現在、プラント全体のIIoTネットワークが機械とセンサーを接続し、リアルタイム可視化、年中無休の生産ライン監視と管理を可能にしている。3D印刷などの積層造形は必要に応じた部品や治具(補助具)生産で柔軟性を高め、ダウンタイムをこれまでの数日から数時間に短縮した。予測分析と機械学習モデルも品質検査やラインのセットアップを最適化し、無駄を削減し精度が向上した。
その結果、HPシンガポールのファルコンラインは製造コストを20%削減し、生産性と品質が70%向上した。
インフィニオンテクノロジー
インフィニオンのシンガポール半導体後工程製造工場は、半導体バリューチェーン内での先進製造への注力で、2020年にWEFライトハウスに認定された。インダストリー4.0ツールを活用し、大量・多品種生産の変革に成功したことで「インダストリー・ライトハウス」となった。
工場ではAI、ロボティクス、先進分析技術を統合し、生産性と品質を大幅に向上した。変化の激しい市場需要に迅速に対応する柔軟性も強化した。また、生産オーダーのスケジュール管理から資材搬送まで、工場内のすべての生産プロセスは完全に自動化されている。
インフィニオンのシンガポール後工程拠点は現在、自律型生産への移行を進めている。
マイクロンテクノロジー
マイクロンのシンガポール生産施設は、2020年に国内初のWEFライトハウス認定を受けた工場の1つだ。その後、「サステナビリティ(持続可能性)・ライトハウス」にも認定されている。マイクロンのシンガポール・ファブと組み立て・テスト業務は、同社のグローバルNAND型フラッシュメモリ事業の中核だ。この半導体ファブでは、ビッグデータ基盤とIIoTシステムを統合した包括的な先進技術システムを導入し、事業全体でAIやデータサイエンスのソリューション活用を実現している。委託製造先(OEM)とのプロセス最適化のための高度な分析が、新製品立ち上げにかかる期間を50%短縮したほか、ディープラーニング光学検査による不良検出で歩留まりが2%向上した。
2018~2021年の間に生産量は270%増となり、生産量1ギガバイトあたりの資源消費量は45%減少した。堅固なビッグデータインフラ、AI活用による歩留まり向上、水や電力のスマートシステムによって実現した。マイクロンは世界でも数少ないデジタル・サステナビリティライトハウスとして認定された。
シンガポールでのスマートファクトリー設立をお考えですか?EDBにご相談ください。