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キッコーマンのシンガポールにおける40年の軌跡― 製造・研究開発拠点から世界30か国以上へ展開

キッコーマンのシンガポールにおける40年の軌跡― 製造・研究開発拠点から世界30か国以上へ展開

A variety of Kikkoman soy sauce bottles, including gluten-free and less salt options, arranged on a wooden surface against a light wall.

 

キッコーマンは、東南アジア市場への玄関口として1985 年にシンガポールへ進出し、現在ではアジア、オセアニア、太平洋諸国など30カ国以上へ高品質の醤油を供給する、主要生産拠点へと成長した。

事業の拡大に伴い、キッコーマンのシンガポール拠点は、製造機能だけではなく、市場動向の調査や新規事業の開拓機能など、地域統括拠点としての役割を担うようになった。シンガポール拠点では、ハラールしょうゆやグルテンフリー製品、プラントベースのミールキットなど、地域の嗜好に合わせて製品開発も進めている。

キッコーマンの40年間の軌跡と今後の展望について、茂木 修代表取締役専務執行役員と松山 旭取締役常務執行役員に話を聞いた。
 

設立40周年について
 

Q:シンガポールでの40年の歩みを振り返り、特に印象に残っている転換点や、重要な出来事をお聞かせください。

キッコーマン(以下A):キッコーマンは、40年にわたる歩みの中で常に新しい技術への挑戦を続け、グループ内で独自の価値を発揮してきました。具体的にはグルテンフリーしょうゆやハラールしょうゆといった、差別化されたユニークな商品をグループ内で最も早く開発・生産した実績があります。近年では、グループ内で最長身の仕込みタンクを導入するなど、シンガポールが持つ “イノベーションの推進力”とも高い親和性を示しています。

環境への配慮、持続可能社会・地域社会の一員として社会貢献が求められるようになりました。2021年には太陽光発電システムの導入によるエネルギーコストの削減とCO2の削減を実現しています。社会貢献の取り組みとしては、2010年と2021年にシンガポールの自然公園開発事業に寄付しました。
 

KIKKOMAN (S) PTE. LTD.のグランドオープニング

KIKKOMAN (S) PTE. LTD.のグランドオープニング

シンガポール拠点の成長
 

Q: 40年間での組織の規模拡大や、グローバルビジネスにおけるシンガポール拠点の位置づけの変化についてもお教えください。

A:欧州および豪州向けの輸出が順調に伸びていた1980年代、私たちは2つの市場を同時にカバーし、東南アジア市場としてのさらなる成長が期待されるシンガポールを新たな製造拠点として設立しました。「多国籍市場型工場」としての役割は変わることなく継続していますが、現在では30か国以上への輸出を担う拠点として、成長著しい市場への対応を強化しています。
 

本社とシンガポール拠点との連携
 

Q:シンガポール拠点にどのような機能を置いていますか。

A: 生産、商品開発、研究開発、流通、販売機能を置いており、次のような法人を設置しております。

KIKKOMAN (S) PTE. LTD.:キッコーマンしょうゆ、テリヤキソースなどの生産機能

KIKKOMAN TRADING ASIA PTE. LTD.:販売機能

KIKKOMAN MARKETING&PLANNING ASIA PTE. LTD.:商品開発機能

KIKKOMAN SINGAPORE R&D LABORATORY PTE. LTD.:研究開発機能

DEL MONTE ASIA PTE. LTD.:デルモンテ商品販売機能

JFC(S) PTE. LTD.:卸売機能
 

KIKKOMAN (S) PTE. LTD. 現社屋

KIKKOMAN (S) PTE. LTD. 現社屋

Q:日本本社との連携について、特に製品開発やマーケティングの面でどのような協力体制を構築されていますか。

人材交流や日頃からの情報交換を通して、日本国内で培った販売、マーケティング、商品開発の知識を共有しております。シンガポール現地会社でASEAN各国の市場にマッチするようにローカライズし、各国のお客様に求められる商品やサービスを提供しております。

Q:東南アジア向けに開発・改良された製品はありますか。東南アジアと日本の消費者にはどのような違いがありますか?これらの違いを、製品開発にどのように反映させていますか。

A:現地の味覚に合わせたテリヤキソースや鍋つゆ、すき焼きのたれなど、幅広い商品を開発しています。東南アジアでは日本の消費者と比較して、一般的に甘みと濃厚なうま味のある味を好み、強い香りは好みません。しょうゆの風味と香りのバランスを保つことで、お客様の嗜好に応えています。
 

R&D施設の設立と拡張
 

Q:御社はシンガポールのR&D拠点を2005年にシンガポール国立大(NUS)内に設立し、その後バイオポリスに移転されました。この戦略的な判断の背景と、それによってもたらされた具体的なメリットについてお聞かせください。

A: KIKKOMAN SINGAPORE R&D LABORATORY PTE. LTD.(以下KSL)設立当初は、アジアの伝統的な食品や原料に焦点を当てた基礎研究と商品開発を主務としていました。2013年からは、KIKKOMAN MARKETING&PLANNING ASIA PTE.LTD.(以下KMPA)を設立し、東南アジア地区の商品開発を推進する一方、KSLはNUSやA*STARとの協働を積極的に進め、主に基礎研究からの成果創出を目指しています。バイオポリスへの移転により、A*STARとの連携が強化され、様々な研究機関や研究員同士の交流も活発となり、日常的な情報交換や共同研究の機会が自然と生まれることで、研究活動のさらなる深化と拡充が実現しています。
 

ローカル人材とエコシステムパートナー
 

Q:Harumaru Chickpea Noodle Kitの開発で、シンガポールの人材やサプライヤーエコシステムをどのように活用されましたか。 また、現地パートナーとの協業で得られた知見や課題についてお教えください。

A:Harumaru Chickpea Noodle Kitは、弊社が開発したプロトタイプを、シンガポールの製造業者との連携を通じて製品化した成果です。現地製造業者やマーケティングパートナーと連携して、テストマーケティングを実施したことで、お客様の行動や嗜好に対する理解が深まりました。これらの知見は今後の製品改良や戦略立案に活かしてまいります。
 

A*STARと研究開発コラボレーション
 

Q:キッコーマンとA*STARとの提携はどのように行われていますか。

A:A*STARとは、これまで酵素や有用物質の探索から始まり、さまざまな共同研究を実施してきました。近年では、代替タンパク質の開発や、ライフサイクルアセスメントに関する取り組みなど、研究領域を広げながら連携を深めています。

Q:A*STARやEDBとの協働を通じて得られた具体的な成果はどのようなものでしたか。

A:Harumaru Chickpea Noodle Kitのテストマーケティングは、パートナー探索を含め様々な面でEDBの支援を得て実現しました。また、A*STARの研究ネットワークを活用することで、研究活動の幅が広がりました。

Q:今後さらに期待されるコラボレーションや支援についてお聞かせください。A*STARとどのような提携が期待されますか。

松山:今後もA*STARとは、食品加工技術やバイオ関連分野における共同研究を継続的に進めていく予定です。特に、AIやバイオ先端技術へアクセスし、研究開発に応用することで、研究の質の向上や新たな価値創出につなげていきたいと考えています。こうした取り組みは、弊社の研究員にとっても貴重な学びの機会となり、人材育成の面でも大きな意義があると期待しています。
 

「A*STARとの共同研究は、弊社の研究員にとっても貴重な学びの機会となり、
人材育成の面でも大きな意義があると期待しています」

松山 旭

取締役常務執行役員

キッコーマン


今後の展望

Q:アジア太平洋地域における今後の事業展開において、シンガポール拠点にどのような役割を期待されていますか?新規事業分野における戦略についてお教えください。

茂木:グループ内の製造、販売、商品開発、研究の関係会社が揃っているシンガポール拠点には「地域のイノベーションハブ」としての役割を期待しています。特に新規事業分野では、現地市場のニーズを的確に捉え、スピーディーにプロトタイプを開発・検証していく体制を整えることが重要です。

多様な人材の集まる国家であるシンガポールの現地パートナーとの協業を通じて新しい価値を創出した新規事業開発にも力を入れ、引き続きASEANの中で、各地域の食文化と融合した存在感のある事業展開を目指しています。
 

「ASEANの中で、各地域の食文化と融合した
存在感のある事業展開を目指しています」

茂木 修

代表取締役専務執行役員

キッコーマン

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