今回は10月31日に行われたパナソニックR&Dセンター知財戦略オフィスの林珠里氏、シンガポールの高等教育機関テマセクポリテクニック応用科学のLee Chee Wee教授、シンガポール経済開発庁(EDB)日本事務所長Lee Chee How氏によるトークセッション「知的財産を使ったオープンイノベーションの方法」をお届けしよう。
今年で創業100周年を迎えるパナソニック。その100周年を記念し東京国際フォーラムにて「クロスバリューイノベーションフォーラム2018(10月30日~11月3日)」が開催された。このフォーラムでは、「次の100年のくらしをつくる」をテーマに津賀一宏社長による基調講演や、各界有識者によるセッションセミナーが行われた。
2018/12/25
今回は10月31日に行われたパナソニックR&Dセンター知財戦略オフィスの林珠里氏、シンガポールの高等教育機関テマセクポリテクニック応用科学のLee Chee Wee教授、シンガポール経済開発庁(EDB)日本事務所長Lee Chee How氏によるトークセッション「知的財産を使ったオープンイノベーションの方法」をお届けしよう。
シンガポールをオープンイノベーションの場に選んだ理由
パナソニックが次の100年を作る新規事業創出の鍵ととらえている一つがオープンイノベーションだ。中でも新たなビジネスを生み出し得る、自社で保有する知的財産は活用すべきチャンスであり、パナソニックはその地にシンガポールを選んだ。
「地域のスタートアップと協力することがイノベーションを興し、ASEAN地域の課題を解決する最善の方法」とパナソニックの林珠里氏は語る。また、林珠里氏はシンガポールを選んだ理由について次のように語っている。
「シンガポールには3つの魅力的な特長があります。第一が強固な官民パートナーシップです。政府の強力な後押しのもとコラボレーションしやすい環境があります。第二がマルチカルチャーです。いろんな視点、全く違う視点がもてる多様性が強みです。第三がスピードです。シンガポールではコミュニケーションのスピードが速く商品やサービスのプロトタイプを素早く他のASEAN諸国に展開できます」。
更に、EDB日本事務所所長のLee Chee How氏は「シンガポールにはグローバルな企業が研究開発と製造の拠点を設けており、大企業とスタートアップ、中小企業が活発にコラボレーションできる環境、オープンイノベーションのエコシステムが整っています。また、シンガポールの強みの一つが、政府の強い適応力です。ビジネスニーズの進化に対応した柔軟な政策づくりのもとで、新製品やサービスをスピーディに展開できます」と語っている。
オープンイノベーションの拠点テマセクポリテクニックとの協働
しかし、シンガポール進出当初は地元スタートアップへの知的財産の技術転用がうまくいかなかったという。
「2017年4月に進出した際、地元企業の中にも私たちのパートナーになり得るような企業がいることがわかりました。しかし、現地企業の能力に差があったために、パナソニックはパートナー企業を通じてすぐに知的財産を商業化することが出来ませんでした」と林珠里氏は語っている。そこで、日本と現地企業とのギャップを埋め、技術の事業価値を“見える化”してくれるパートナー探しが始まった。転機となったのが2018年3月のテマセクポリテクニックとの出会いだ。
テマセクポリテクニックは、多数の企業との協業実績もある「センター・オブ・イノベーション」を持つ高等教育機関だ。テマセクポリテクニック応用科学のLee Chee Wee教授はテマセクポリテクニックの果たす役割について次のように語っている。
「スタートアップや中小企業の多くは資金的にも技術的にも十分な支援が受けられていないという共通の課題があります。そのためスピードと手軽なコストで開発できる環境が重要です。私たちテマセクポリテクニックは、その環境を提供します。そして、これまで数多くののスタートアップにサービスを提供してきました。そしてパナソニックの技術の活用についても応用展開できる業界を探そうということで開始しました。その結果、ヒューマンヘルスケア技術が、フードセキュリティの課題を解決する潜在的なソリューションとして、水産養殖にも応用展開できることが見えてきました。」
シンガポールで実験。新たなビジネスとソリューションを周辺諸国へ拡大
パナソニックでは、このテマセクポリテクニックとの水産養殖の事例をパイロットモデルとして、更にオープンイノベーションを加速していく計画だ。3人のプレゼンターは今後についてそれぞれ展望を語ってくれた。
「将来はプラットフォーム化し、更なるメンバーを増やしASEANなど周辺諸国が持ついろいろな社会問題の解決につなげていきたい。」(林珠里氏)
「日本もシンガポールも共に品質が高く、私たちのコラボレーションスキルによって、高品質な製品・サービスを生み出し、他国へ展開することができます。」(Lee Chee Wee教授)
最後にEDBのLee Chee How所長は「今回テマセクポリテクニックとの提携によって生まれたフードセキュリティソリューションのプロトタイプに続き、パナソニックの他の部署、そして、社外の大手企業も刺激され、さまざまなプロジェクトが開発、事業化されれば、非常によい循環になると思います。そこで生み出された技術をシンガポールと周辺国に展開することで、このオープンイノベーションプラットフォームの意義は大きいと思います。」と語ってくれた。
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