ハンズオン経営支援を提供するIGPI
IGPIは、日本だけではなくシンガポール、中国などを拠点に、豊富な知識とネットワークを活用して日本企業のアジア市場参入および成長戦略の立案・実行支援を提供しているコンサルティングファームだ。IGPIシンガポールCEOの坂田氏はこれまでにIT、通信、小売、ロジスティクスなどさまざまな業界において経営支援を行ってきた。「日本企業向けには進出・拡大、新規事業立ち上げ、また現地企業との提携や地域統括拠点の体制構築など、多岐にわたる支援を提供しています。さらに現地企業向けには主に日本進出や事業の売却、資金調達のサポートもしています」。
東南アジア進出の課題とは?
坂田氏によると、東南アジア市場に対する日本企業の投資トレンドは数年単位で変化している。「過去にはミャンマーやインドネシア、2-3年前からはベトナムへの投資が増えています。また、投資が増える時期とその失敗を踏まえて投資を控える時期があるように見受けられます。これは東南アジアの国の多さと、情報の非対称性に起因していると考えます」。
情報の非対称性とは、売り手と買い手の間における情報格差のことで、買い手に商品やサービスの知識がないことを指す。一大経済圏を築いている東南アジアだが、細かく見れば国や地域ごとに多種多様な文化を持ち、経済状況もさまざまだ。こうした中でビジネスを展開するには、それぞれの国にあった商品やサービスの設計が欠かせない。坂田氏は日本企業が東南アジア市場に進出する課題を次のように語っている。「進出する上での海図を描くことが難しい。国によって経済の発展度合い、顧客ニーズ、法規制などそれぞれが全く異なるため進出の難易度は決して低くありません。まずは『誰に、何を、どうやって売るのか』を明確にしないと、必ずしも最適ではないトレンドを追いかけることになります」。こうした課題を解決するため、IGPIでは「企業ごとの強みを最大限生かした海図を描く」ためのサポートを提供している。「海図を描くためにはバリューチェーン全体の動向を泥臭く調査し、業界構造を詳細まで把握することが必要不可欠です。そのうえで戦略立案から実行までの支援を包括的に提供できることがIGPIの強みです」。
日本企業がシンガポールを拠点とする強み
ここ最近では、スタートアップとの連携などのイノベーションやガバナンスに関する支援が増えているという。「イノベーション関連ではスタートアップや現地企業と連携したPoC(実証実験)の実施や、シンガポール政府が提供する制度面でのサポートを活用した支援なども行っています」。また、ガバナンス関連では、シンガポールに地域統括拠点を置く強みを最大限活かせるような経営サポートを提供している。「産業の成熟度が国によって異なる東南アジアを攻略するためには、各国での意思決定や戦略実行を監督・支援する地域統括拠点としてのシンガポールの役割は今後も大きくなっていくと考えています」と坂田氏は語る。日本企業がシンガポールに拠点を置くことの意味については、「世界中から集まった高度人材が採用できる点、法規制が整備されている点が強みだと考えています。R&D拠点や労働集約的ではないハイテク企業の製造拠点に向いている国だと思います」と考えを述べた。
日本企業の勝機は東南アジアの課題解決にあり
東南アジアが生産地から巨大な消費市場へと変貌を遂げようとしている今、日本企業が戦い勝ち残っていくには何が必要なのか。坂田氏は、「AI、デジタルトランスフォーメーションといったバズワードをただ闇雲に追うのではなく、日本企業の勝機は東南アジア諸国の課題解決にある」と語る。「例えばDXでもゴジェックのような巨大プラットフォームと連携するだけでなく、小売り・ヘルスケア・物流といった無数のプレイヤーの存在により非効率が発生している領域で、それらを統合してからデジタル化を進める方が差別化できる可能性があります。または社内に分散しているデータを集めて分析し、その結果を基に無駄を省いていくことが収益率向上への近道となることもあります」。デジタルを活用する大前提として、「誰の、どんな課題を、どう解決するか」というマーケットインの発想を持つことが巨大な東南アジアのデジタル経済を攻略するためのカギとなる。