バイオ医薬品製造施設誘致のためのEDBの4つの戦略
EDBの産業開発では、「テクノロジー」「マンパワー」「インフラ」「ビジネス環境」の4つの戦略を柱に、バイオ医薬品企業の製造施設の誘致にとりわけ力が注がれてきた。
テクノロジー開発では、プロセス革新の加速や、新たな製造技術の開発に取り組み、例えば、2017年には官民連携コンソーシアムとして「シンガポール医薬品イノベーションプログラム(PIPS)」を立ち上げた。これには公的研究機関と民間企業が参加し、化学合成で作られる従来の医薬品である低分子医薬品向けの次世代型製造技術を開発してきた。
「次の国家的優先課題は、バイオ医薬品を含む細胞・遺伝子治療のような新しい治療法の製造能力の強化です。PIPSは、生物学的製剤(バイオ医薬品)に向けたプログラム『Biologics PIPS』に拡大されていますし、2019年3月には細胞・遺伝子治療に関する3つの製造技術研究プログラムに8,000万SGD(約65億円)が投入されました。」(タン・コンフイ氏)
マンパワー開発では、企業の雇用と人材育成のニーズを支援するため、研修プログラムに投資。これまでに500人以上の職業従事者に研修を提供してきた。
インフラ整備については、細胞・遺伝子治療の既存の処理施設を、「シンガポール先端細胞治療研究所(ACTRIS)」に集約する計画で、2023年には運用開始予定だ。ACTRISは企業がプラグ・アンド・プレイ方式ですぐに使える施設で、活用により企業の先行設備投資のリスクが軽減されるうえ、開発のスピードを速められるとして期待が集まっている。
また、ビジネス環境の整備では、外国企業の活動に有利な税制や知的財産の保護制度を整えるなど、ビジネスに優しい環境を提供することが意識されてきた。
拡大を続けるバイオ医薬品関連の研究への投資
そうしたバイオ医薬品製造の産業開発に並び、シンガポールはバイオメディカルサイエンスの研究とイノベーションにも注力してきた。公的投資は過去20年間増え続けており、2021年から2025年の間には、250億SGD(約2兆円)を超える予算が投入される見込みである。
その結果、シンガポールには研究開発エコシステムが形成され、いまやシンガポールに拠点を置く外国企業は、自社でゼロから研究開発能力を構築する必要がなくなっている。つまり、コミュニティに参加してパートナーと連携すれば、情報共有を含むインフラが活用でき、薬剤開発が迅速に進められるということだ。
「中外製薬はシンガポールで企業内に研究開発ラボを設けたうえで、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)の免疫学ネットワーク(SIgN)と連携しており、それも一つの例です。シンガポールには、外国企業が参加できるそうした柔軟なパートナーシップモデルが数多くあります。」(タン・コンフイ氏)
そんなシンガポールの研究開発エコシステムは、新型コロナウイルスへの取り組みにも生かされている。例えば、デューク・シンガポール国立大学医科大学院と米国に本拠を置くバイオテクノロジーグループのGenScript、A*STARは、新型コロナウイルスの抗体を1時間で検出する世界初の血清検査を開発した。
一方で、バイオ医薬品製造業の成長と拡大は、コロナ禍でも継続。シンガポールのバイオ医薬品業界の現状について、タン・コンフイ氏は「今年9月、武田薬品工業は画期的なゼロ・エネルギー・ビル建設に着工しました。これはシンガポールのバイオ医薬品業界として初の快挙で、EDBも協力しています」と、武田薬品工業の活動を例に挙げて報告したうえで、「EDBはいつでもあなたのパートナーとして、製造、研究開発、商業活動のすべての計画をサポートします」と力を込めて語りかけた。