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水の安定供給を実現させたシンガポールの「4つの蛇口」とカーボンゼロへの挑戦

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輸入水で一部の供給を賄うなど、水の確保に課題を抱えてきたシンガポール。水資源確保のための政策に懸命に取り組んできた結果、安定供給が実現し、さらに水処理に関するビジネスも発展して、いまや世界の事業者が集積するハブとなっている。まさに弱みを強みに変えることに成功したこの国では、培ってきた技術を土台に、政府機関・シンガポール公益事業庁(PUB)を中心にCO2排出削減を目指すサステナブルな開発にも挑み始めている。

建国以来懸命に取り組んできた「水」の政策

シンガポールは、全人口に清潔な飲用水を供給できている数少ない国の一つだ。水資源が豊富な日本で暮らしている人にとってはごく当たり前のことのように感じられるかもしれないが、じつは世界の多くの国と同じように、シンガポールもまた、水不足に悩まされ続けてきた。

シンガポールは国土が小さく保水・貯水するスペースが十分ではないうえ、人口約560万人を抱える超過密都市であり、水の確保が容易ではない。そのため1965年の建国以来、政府を中心に水資源の開発に尽力。「4つの蛇口」として知られる4つの水の供給源を確保することでようやく、水の安定供給を実現させたのだ。

その4つの蛇口とは、1つ目が「貯水池」に溜めた雨水を浄化処理して飲用水を得る方法。国内各地に貯水池が整備されているにもかかわらず、貯水池による供給量は全体のわずか10%程度となっている。

2つ目は「NEWater(ニューウォーター)」と名づけられた下水再生水だ。これは、下水を一度浄化処理した後、さらに高度な処理を施して再利用する方法。現在稼働する5つのプラントで、シンガポールの水需要の40%を賄うことが可能となっている。なお、水の高度処理には日本企業の技術も貢献している。

3つ目は「海水淡水化」。海水を脱塩して真水を得ることで、技術が進歩してきた2005年、シンガポールで初のプラントが稼働した。2022年には国内5番目となる施設が西部ジュロン島に開所し、全水需要の25%を満たせるようにまでなっている。

最後の4つ目が「輸入水」。マレーシア南部ジョホール州の貯水池から浄化処理前の原水を調達しており、全水需要のおよそ25%が賄われている。2061年が輸入の契約期限となっているため、2060年をめどに、NEWaterのプラントの造水量を3倍、海水淡水化プラントの造水量を10倍にまで高め、国内で完全自給することを目指している。

“水対策”から“気候変動対策”へ

そうしてシンガポール政府が水資源を安定確保するために尽力してきたNEWaterと海水淡水化の2つの技術は、これから先ますます重要度を高めるかもしれない。

というのも、既に影響が出始めている気候変動は、地域によっては降水量を減らして干ばつを引き起こし、シンガポールでも貯水池の水資源と輸入水の両方に大打撃を与える危険性があるのだ。その点、NEWaterと海水淡水化は降雨に依存しないため、今後も造水量を高めていくことが可能だ。

ただし安心はできない。上下水道政策を一元的に所管しているPUBは、シンガポールの水需要は、人口の増加と経済の成長により、2060年までに約2倍になると予測している。つまりNEWaterと海水淡水化による造水で、気候変動の影響で減る可能性がある貯水池と輸入水の供給をカバーするのみならず、人口増加などによる水需要の増加分まで補う必要性が出てくるかもしれないのだ。

しかも、下水の再生や海水の淡水化にはより多くのエネルギーを要するため、NEWaterと海水淡水化の造水が増えれば、CO2排出量も増大する。そこで課題になってくるのが、CO2排出量をいかに削減するかだが、既にその対策のための動きは始まっている。

例えば、PUBは、生物の仕組みからヒントを得て技術を開発する「バイオミミクリ」や、ビッグデータの活用などにより、水処理で排出されるCO2の削減に取り組んでいる。現在はその一環として、水の浄化処理など水資源分野からのCO2排出量(正味排出量)を実質的にゼロにするカーボンゼロを実現できるような革新的なソリューションを募集するプログラム「カーボンゼロ・グランドチャレンジ」を実施。このチャレンジは世界中からソリューションを求め、世界中の企業がこの機会にコラボレーションすることを歓迎し、受賞者には賞金や実証実験の機会などのインセンティブを付与するなどして、開発を強力に後押ししていく計画だ。

このほか、国内4番目の海水淡水化プラントは、海水と淡水の両方から飲用水を作れる大規模デュアルモードプラントとして整備された。2021年に政府系複合企業のケッペル・コーポレーションが本格稼働を始めたそのプラントの名は「ケッペル・マリーナ・イースト」。乾期には海水を、雨期には海水処理よりもエネルギー効率に優れる貯水池水を処理することで、海水のみを処理した場合と比べてエネルギー消費を大幅に抑えることが可能だ。

さらに、政府系複合企業のセムコープ・インダストリーズは2022年5月、ソーラーパネルの冷却や洗浄に雨水を利用する太陽光発電所をシンガポール西部トゥアスに初めて開設。17.6メガワットピーク(MWp)の発電能力を持つこの施設では、年間約9000トンのCO2を削減できるという。

政府系企業ばかりではない。民間企業も続々と気候変動対策に乗り出している。

アメリカのフードテック企業のEat Justは、植物性原料を使い生産過程でのCO2排出を抑え、水使用量も従来の卵より98%削減する「代替卵」の開発で気候変動の緩和に取り組む企業だ。植物性卵市場で99.2%のシェアを占める同社は、アジアでの需要拡大を見込み、2019年にシンガポールに進出。2020年には同社アジア初となる代替卵の製造施設の建設を発表した。

新たな農法「垂直農法」で、従来農法よりエネルギー消費量を抑え、95%もの節水を実現させているのは、シンガポールのアグリテック企業のSustenir Agricultureだ。垂直農法とは高層建築物に栽培ケースを積み上げるなど空間を垂直的に利用して農作物を栽培する方法で、同社は、より効率的で持続可能な農業のあり方を追求している。

弱みを逆手に水ビジネスの拠点として成長

シンガポールは、水不足という国の課題に向き合う一方で、水関連産業の拠点になるべく戦略的に取り組むことも怠らなかった。

例えば、税制の優遇もそうだ。環境・水処理産業の分野で、シンガポールを拠点に海外展開を目指す内外の企業に対して優遇措置を講じるなどして、着実にハブ化を進めている。

また、国際見本市「シンガポール国際水週間(SIWW)」を2008年から開催。この展示会には、水処理に関する事業者や専門家、行政機関が東南アジアや欧米、オセアニアなどから集まり、世界的な商談および情報交換の場となっている。

ほかにも、PUBが中心となり、水ビジネスの育成施設「Water Hub」を2004年に、水関連企業の協業を促すための施設「Singapore Water Exchange」を2008年に整備。そうした取り組みの結果、シンガポールの水関連産業の「国内総生産(GDP)」は2003年から2015年までで約3倍にも増加。いまでは100を超える世界の水関連企業がシンガポールに集積している。

日本からも総合化学メーカー大手の旭化成や高機能材料メーカーの日東電工など、複数の企業が進出。総合化学メーカーの東レもそのうち一社で、2009年には水処理事業拡大に向け「Toray Singapore Water Research Center」をシンガポールに設立。PUBや大学、エンジニアリング会社と連携し、水処理革新技術の研究開発や、アセアン・インド地域の拠点としてマーケット調査などを行っている。

こうして、“水ビジネスの大国”としても成長を遂げてきたシンガポール。気候変動や人口増加、それに伴う水不足は、シンガポールのみならず世界に共通する課題になりつつあり、今後深刻化が予想される。それはつまり、シンガポールが自身の弱みを克服するために築き上げてきた水資源分野の技術が転じて、世界の水不足の解決に役立っていくことを意味しているのではないだろうか。

主力産業一覧

主力産業一覧
  • 「未来の航空宇宙都市」と呼ばれるシンガポールは、130社を超える航空宇宙業界の企業を擁し、アジア最大級で最も多様なエコシステムを誇ります。一流企業や宇宙産業スタートアップ企業をはじめとして成長を続ける企業が拠点を置いています。

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  • シンガポールは、アジア市場への玄関口であり、世界トップクラスの消費者向け企業の多くが、環太平洋の拠点としてシンガポールを活用しています。

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  • シンガポールは、東西のクリエイティブカルチャーが交差する場所であり、拡大を続けるこの地域の消費者基盤へ向けて開かれた扉でもあります。世界的ブランドが、地域統括会社を構えており、トップクラスのクリエイティブな企業がシンガポールを拠点としています。

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  • 今日、主要なガジェットにはシンガポール製の部品が使用されています。エレクトロニクス産業の一流企業は、シンガポールで未来を設計しています。

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  • 精製、オレフィン製造、化学製品製造、ビジネスと革新力が強力に融合するシンガポールは、世界最先端のエネルギーと化学産業のハブに数えられています。100社を超えるグローバル化学企業が主要な事業を当地に構えています。

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  • アジアのデジタルの中心都市として、シンガポールは情報通信技術 (ICT) 企業が選ぶ拠点となっています。世界クラスのインフラ、人材、活気のあるパートナーのエコシステムを提供しています。一流企業と連携して、最先端の技術とソリューションを開発し、シンガポールのビジョンであるスマートネーションと地域および世界の市場を支えています。

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  • アジアの流通のハブとして、当地域内外への世界クラスのコネクティビティを提供します。安全で効率的なロジスティクスと、サプライチェーン管理ハブとしての妥当性を以て、シンガポールは地域の境界を超えた取引と消費に貢献しています。

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  • シンガポールは、医療技術企業がこの地域で成長するための戦略的な拠点です。今日、多くの多国籍医療技術企業がシンガポールを拠点として、地域本社機能や製造、研究開発を行なっています。

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  • 資源豊かなアジアの中心に位置するシンガポールは、農産物、金属、鉱物のグローバルハブです。我が国のビジネス環境は、強力な金融、サプライチェーン管理、技術力を以て、世界をリードする企業を引き付けています。

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  • シンガポールは、アジアでも主要な石油 ・ ガス (O&G) 装置とサービスのハブであり、3,000社を超える海洋・オフショアエンジニアリング (M&OE) の会社があります。世界クラスの機能と優れたコネクティビティは、アジアの強力な成長の可能性に着目する多くの企業をシンガポールに誘引しています。

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  • シンガポールが有する優れた人材、強い生産能力、研究開発のエコシステムは、製薬やバイオテクノロジー企業を誘引しています。企業はシンガポールから世界中の人々に薬を提供し、アジア市場の成長を担っています。

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  • シンガポールの洗練された精密工学(PE)の能力と先進の製造技術で主要分野である高度な製造な地域ハブとしての強みを反映しています。

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  • シンガポールは、プロフェッショナル・サービス企業に最適なハブであり、国際的な労働力と信頼できる規制と枠組みを提供します。

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  • アジアは世界的な都市化のメガトレンドの中心であり、人口集中や公害、環境悪化などの都市問題の軽減を目指して、各国政府はスマートで持続可能なソリューションの開発を推進しています。大企業のいくつかはシンガポールを拠点として、アジアのために持続可能なソリューションを商業化すべく、革新、試行、連携を進めています。

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