1960 年代のシンガポールは、拡大する港湾を軸とした海事産業の発展を目指し、まず造船と船舶修理に力を注いだ。IHI が1963 年にEDBとの合弁で造船所を設立したのもその一環だ。ほどなくして三菱重工業や川崎重工業などの日本の大手重工業企業が続々と参入し、成長初期のシンガポールで、船舶修理、鉄鋼構造物の製造、産業機械分野の能力を高めていった。
海事産業の成長と並行して、都市開発も加速させた。大林組や鹿島建設といった日本の建設会社は公共施設や商業ビルの建設から大規模な沿岸埋め立て事業の着手まで、国家の礎となる数々の事業をけん引した。
1970 年代後半から1980 年代にかけて産業政策が進化する中、プロセス機器、工作機械などの資本財の製造に乗り出し、インフラ発展を支える高度な技術力の構築を目指した。明電舎、横河電機、三菱電機が拠点を設立したのはまさにこの時期で、電力、計測・制御、都市システムの分野で事業を開始した。
日本企業がシンガポールの都市インフラに果たした役割は、数十年を経た今も揺るぎない。鉄道網、公共住宅、廃棄物発電施設など、都市のあらゆる領域におよぶ。その象徴ともいえるチャンギ空港第1 ターミナルは、竹中工務店が建設し、今も空港の中核を担い続けている。
新たな章を築く
「製造業2030」ビジョンの下、シンガポールは先端製造業を中核に据え、製造業の付加価値の50% 引き上げと2050年までのネットゼロ達成を掲げている。目標実現に向け「脱炭素化グランドチャレンジ」や「持続可能なジュロン島」ロードマップといった取り組みを通じ、低炭素研究と実証実験に1000億円以上を充てている。重工業、建設、プラント・エンジニアリングの主要企業にとって、シンガポールは先端的な実証の場であると同時に、2030年までに年間45兆円規模に達すると見込まれる東南アジアのグリーン経済機会を捉える戦略拠点でもある。
- イノベーションの実証拠点:中立的で整った環境と先駆的な規制サンドボックス、強固な知的財産権保護を活かし、シンガポールは企業が次世代技術を商業展開する前にリスクを低減し、実証できる場を提供している。
- 先端建設技術とスマートソリューションの実証拠点:次世代大型自動化港のトゥアス港や、チャンギ空港第5ターミナルといった大規模事業は、建設ロボティクス、デジタルツイン、AI活用の設計、3D 地理情報システム(GIS)の試験・導入の場を企業に提供している。
チャンギ空港リビングラボ・プログラムや海事港湾庁(MPA)の海事ドローン・エステートといった取り組みの支援を受け、企業は運用環境下で新技術ソリューションを検証した後、域内への展開を図ることができる。 - 脱炭素化とエネルギー転換:1 兆2500 億円規模の未来エネルギー基金を背景に、シンガポールは2030年までに2 ギガワットの太陽光発電容量確保、2035年までに6ギガワット分の低炭素電力輸入を目標に掲げている。事業機会に加え、越境海底送電網、水素受入ターミナル、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)に至るまで、クリーンエネルギーシステムの共同開発と実証拠点としての役割も担うことができる。
東南アジアが2030年までに世界第4 位の経済圏に迫る中、シンガポールは陸・海、そして宇宙にまで広がる先端的で持続可能なインフラ開発をけん引する、信頼性の高い安定したローンチパッドとなっている。