シンガポールのフィジカルAI戦略
EDBのプア・シェンタ日本事務所所長は「シンガポールのロボティクス・フィジカルAI戦略」と題した講演の冒頭で、シンガポールのロボティクス分野概況を説明した。シンガポールのロボット密度は1万人あたり818台と世界第2位の自動化先進国で、2015年以降のロボット密度年平均成長率27%は、世界平均の12%を大きく上回る。
その基盤となるのが強固な製造業だ。製造業はGDPの約5分の1を占める主要産業で、政府はManufacturing 2030ビジョンのもと、世界競争力のあるエコシステムと将来対応型の人材に支えられた「先端製造のグローバル中核拠点」を目指している。注力分野はエレクトロニクス産業や、エネルギー・化学、ヘルスケア、航空宇宙、海事・オフショア、そしてロボティクスや積層造形、レーザー・光学を含む3000社超の精密工学企業が集積するハブとなった複合機器・部品分野だ。
ロボティクス分野では、国家研究財団(NRF)が資金を提供し、科学技術研究庁(A*STAR)が運営する国家ロボティクス推進プログラムNational Robotics Programme (NRP)で4億5000万シンガポールドルを超える支援を行い、官民の投資と産業界での導入を後押ししている。シンガポールのエコシステムの特徴は、限られた国土の中でグローバル企業、ローカル企業、スタートアップ、大学、公的研究機関、エンドユーザー、アクセラレーターが近接していることだ。製造、物流、倉庫、空港、港湾など、実証を行える現場も多い。
シンガポールのフィジカルAI戦略としてプア氏が挙げたのは「データエンジン」「フィジカルAI研究拠点」「実証環境の提供」の3点だ。データエンジンとは、ロボットが実際の環境下で動作するためのデータを収集し、共通ライブラリとして活用する取り組みを指す。フィジカルAI研究拠点では、AIとロボティクスの研究者、企業、設備を集約することで技術開発と実装を促進する。製造現場、空港、港湾、航空機客室などを実証環境として活用し、企業が技術をテストする機会も提供する。
プア氏は「シンガポールでは、フィジカルAIを研究テーマとして扱うだけでなく、産業現場での導入と事業化を前提とした制度、研究、実証先を組み合わせている」と解説した。例えば、共有ワークスペースや居住施設を備えたAIパーク『Kampong AI』は、実際の環境で技術的な仮説を検証し、市場拡大における次のステップに関する意思決定に役立てるための実験の場として機能する。