シンガポールが推進する「Business for Good」
温暖化やエネルギー問題など世界が数々の壁に直面する今、シンガポールは人と地球に優しい世界を創造していくために、持続可能な発展を生み出すイノベーションを推進するなど、利益と目的とのバランスが取れたビジネスを支援することに力を注いでいる。
このページでは、シンガポールと連携して、そうした「ビジネスでより良い世界を目指す取り組み」に励む企業をピックアップ。2回目の今回は、情報通信企業のTranscelestialの取り組みを伝える。
シンガポールには、単なる経済活動ではなく、より良い明日への原動力となるビジネスがいくつも存在する。ここでは、そうした“人と地球に優しいビジネス”に取り組む企業をシリーズで紹介する。
温暖化やエネルギー問題など世界が数々の壁に直面する今、シンガポールは人と地球に優しい世界を創造していくために、持続可能な発展を生み出すイノベーションを推進するなど、利益と目的とのバランスが取れたビジネスを支援することに力を注いでいる。
このページでは、シンガポールと連携して、そうした「ビジネスでより良い世界を目指す取り組み」に励む企業をピックアップ。2回目の今回は、情報通信企業のTranscelestialの取り組みを伝える。
シンガポールを拠点に活動する情報通信のディープテック企業。2016年、シンガポールで設立。低コストで高速インターネットを実現する新たなワイヤレスレーザー通信技術の開発に取り組み、アジア10カ国以上で広く事業を展開している。中国のアリババグループ傘下・Alibaba Cloudが東南アジアに有意義な変化をもたらした企業100社を表彰する「AsiaStar 10×10」(2022年度)に選出されるなど、数々の受賞歴を誇る。
インターネットへのアクセスは私たちの生活にとって、食料や水などと同様に不可欠なものとなりました。ところが世界の半数以上、30億を超える人々がいまだに高速で安価なインターネットにアクセスできずにいる状況です。
その原因は、インターネットなどの国際通信の99%以上が、海底に敷設された通信ケーブルを経由している点にあります。というのも、この海底ケーブルによる伝送方法では、各家庭にインターネットを到達させるのにケーブルを蜘蛛の巣のように張り巡らさなくてはなりません。
つまり、インフラの構築に膨大な労力と費用を要し、人口規模の小さい都市などにインフラを構築することがビジネスとして成り立たないためにインフラの整備が進まず、あるいはインフラが普及していても利用者コストが高額になります。そこでは情報格差が起こり、教育や医療、経済安全保障、物理的セキュリティーなどさまざまな面での遅れを生じさせているのです。
そこで私たちは、その格差の解消に取り組んだのです。従来の複雑なインフラを簡素化することを目指して、最新のレーザー光を活用したワイヤレスレーザー通信を構築する装置「CENTAURI」を開発しました。CENTAURIは高速インターネットを提供する靴箱サイズのデバイスで、電子工学、光学、精密工学、AI、高度なアルゴリズムなど、さまざまな分野の技術を駆使して生み出しました。
弊社のその技術は2022年2月、フィリピンに大型台風が上陸した際にも力を発揮しました。通信設備の障害により4G回線がダウンした際にも、CENTAURIデバイスを通じたレーザーはダウンせず、機能し続けたのです。
インドネシアでも私たちの技術が生かされています。同国は1万7000以上の島から成るため膨大な通信インフラを必要としますが、さまざまな通信事業者と協力して、高速インターネット接続サービスを低コストで提供する仕組みを構築。インターネット普及の底上げに貢献しています。
私自身、人口1万人足らずのインドのとても小さな町の出身で、インターネット接続の悪い環境で育ちました。高速インターネットに初めてアクセスできたのは留学生としてシンガポールにきてからのことです。インターネットは、広く知識を深め、可能性を拡大するものだとその時実感しました。実際に、これまでシンガポールや韓国などデジタル化を果たした多くの国が、非常に速いペースで経済的にも文化的にも急成長しているところを目の当たりにしてきました。だからこそ、情報格差の解消は、とても重要なことだと考えているのです。
そんな私たちが今後のさらなる目標としているのは、人工衛星により宇宙空間からインターネット接続サービスを提供する仕組みの構築です。この方法なら、宇宙から都市や街など、人がいるどんな場所にでもレーザービームを使い低コストでインターネットを接続させることが可能です。まさに革命的ともいえるこの技術の開発に向けて日々励んでいます。
The CENTAURI, Transcelestial’s device designed to deliver high-speed internet via laser beam, being developed in Singapore (Photo Credit: Transcelestial)”
弊社にとってシンガポールは、創業以来ホームグラウンドです。アジアは国や地域により情報格差が大きく、インドネシアやマレーシア、フィリピン、タイ、インドなど、まだ高速インターネットサービスが行き届かず、私たちの技術が役立つ国が数多くあります。そういった国々へのアクセスが良好なシンガポールは、ビジネスをするうえで非常に有利です。
さらに、シンガポールには優秀な人材が集積しています。弊社のCENTAURIは複雑な装置で、製造が容易ではありません。それでも、シンガポールに適切な製造ラインを構築し、そこに関わるすべての人材を集めることができました。
さらに、国際的な人材を確保し、チームに多様性を持たせることも実現しています。私自身も南洋理工大学(NTU)の工学部で学んだひとりなのですが、弊社は世界から集まった才能と、地元シンガポールの才能を融合させることで、ワイヤレスレーザー通信技術の開発を成功させたのです。
そして何より、弊社をここまで成長させることができたのは、シンガポール政府の支援のおかげです。あらゆる機関がここ数年、私たちと手を携えて、資金援助などのサポートをしてくれました。
政府は東南アジア各国に幅広いビジネスネットワークを持ち、私たちが進出した先々で、通信事業者などのパートナーや業界のリーダー、専門家などを紹介してくれました。その結果、シンガポールを拠点に私たちが実際に貢献できる場所でビジネスを展開することができたのです。こうした支援がなければ、私たちは今ごろ存続していなかったかもしれないと言っても過言ではなく、みなさんの協力に感謝しています。
Transcelestial、資生堂、Microsoft による、 格差をなくすための取り組み(動画)はこちら
ロヒト・ジャー (Rohit Jha)氏 Transcelestial 共同創業者兼CEO