外国企業を巻き込みながら拡大する人と地球に優しいビジネス
世良さんは今回、日経プラス9の取材のために滞在した4日間のことを、番組で放送されなかった部分も含め語ってくれた。
「まず、シンガポールは街がスマートでした。2020年から21年にかけて集合住宅が完成したプンゴル・ノースショア地区は、冷房の使用を効率化できるよう、地区内の風の通り方や強さ、日射状況などをシミュレーションしたうえで設計されていました。そこに暮らす方たちに話を聞くと、蒸し暑い日でも室内はエアコンなしで涼しく快適だとおっしゃっていました」
世良さんが取材で訪れたプンゴル・ノースショア地区をはじめ、シンガポールではスマートシティの開発が盛んだ。現在は、スマートテクノロジーが活用されたビジネス地区のプンゴル・デジタル地区や、大型スマートシティのテンガータウンのプロジェクトが進行中。いずれも2023年中にオープンする予定となっている。
「プンゴルやテンガーの開発の中心を担うシンガポールの政府機関・住宅開発庁(HDB)のギャラリーも取材で訪れました。最新のニュータウンの模型やパネルを見ながら、シンガポールがこれからつくろうとしている街のことを詳しく教えていただけて、大変おもしろかったです。いまのライフスタイルに合う、住む人のことを大事に考えた街づくりという印象を受けました」
さらに、世良さんが「今回の取材のなかでも、個人的にとても興味深かった」と言うのが、培養肉産業。シンガポールでは食料自給率がおよそ10%と低いことから、政府は2030年までに自給率を30%に引き上げる「30×30」というプランを掲げ、振興に力を入れている。その一連の流れのなか、いま特に注目を集めているのが培養肉産業なのだ。
培養肉とは、動物の細胞を培養して生み出す肉で、土地や水を節約できるなど環境負荷が少ないことが特徴。その培養肉について、シンガポール食品庁は2020年、世界に先駆け、アメリカのフードテックEat Justに対して販売を認可した。
「認可されたというその鶏肉をいただいてみましたが、見た目や食感、味も、いつも食べているお肉とまったく変わらず驚きました。取材に応じてくださったEat Justの培養肉部門の子会社・GOOD Meatのジェフ・ユー(Jeff Yew)さんは30代とお若く、お話は熱心で、事業に対する強い意気込みが感じられました」
そんなGOOD Meatは現在、シンガポールにアジア最大の培養肉工場を建設中。今年の秋にも稼働する予定ということで、期待が高まっている。
Eat Justのような人と地球に優しいビジネスの発展のために、シンガポールではシンガポール経済開発庁(EDB)が中心となり、日本を含む海外から積極的に企業を誘致しているのだ。