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シークス

シークス

シークス株式会社(以下、シークス)は、電子部品商社でありながら同時に、日本最大手のEMS(electronics manufacturing service)事業を手掛ける企業でもある。現在同社はEMS事業をグローバルに展開しており、その拠点はASEAN諸国や欧州、中国などさまざまな地域に及んでいる。


グローバル・ビジネス・オーガナイザーとして進化を遂げる

もともと電子部品の商社であるシークスが、EMS事業を手掛けるようになった背景には、『グローバル・ビジネス・オーガナイザー』という企業理念の存在が大きい。『グローバル・ビジネス・オーガナイザー』とは、世界のあらゆる分野の顧客ニーズをオーガナイズし、ビジネスを創造するという意味が込められている。この理念により、部材調達という商社の枠組みを飛び越え、基板実装から、組立、在庫管理、金型製造、射出成形という“生産”の分野まで幅広く行っているのだ。
シークスが手掛けるEMS事業の分野は多岐に渡っている。多彩な家電製品から、車載照明、メーターなどの車載関連機器、スキャナーやプリンター、プロジェクターといった情報機器、パワーツール用バッテリーや医療機器といった産業用機器など、その範囲はあらゆる電子機器に及んでいる。そして、そのEMS事業が生まれる始まりの地となったのがシンガポールなのである。
 


EMS事業発祥の地となったシンガポール

シークスとシンガポールの関係は古く、その歴史は40年以上に上る。シークスがシンガポール駐在事務所を開設したのが1972年、その2年後には現地法人化し、本格的に電子部品の調達ビジネスを開始した。当初、シンガポールでのビジネスは、現地に進出している日本企業向けに電子部品の調達を行うのが中心であったが、顧客からの要望によって電子部品単品を納入するのではなく、顧客の製品ごとに電子部品を“キット化”した「キッティングビジネス」を開始する。この「キッティングビジネス」が、基板実装へと発展し、現在のEMSビジネスへとつながっているのだ。そしてEMS事業が本格的に拡大したのは1979年だ。
現地企業とのパートナーシップによってEMS合弁会社を設立し、日系大手家電メーカーのキッチン家電の基板実装を手掛けたのが始まりである。その後、シンガポールエリアにおけるEMS事業の拡大に伴い、インドネシアのバタム島に日系大手情報機器メーカーとの合弁でEMS工場を設立し、以来、シークスのEMS事業は、グローバル規模にまで拡大し、ASEANをはじめ中国、米国、ヨーロッパなど世界各地に拡大している。

 

シンガポールはEMSのグローバル拠点から、次世代製造技術の開発拠点

EMS事業の草分けともなったシークスのシンガポール法人だが、現在、そのビジネスの範囲は、従来からの商社的な電子部品調達の枠を超えて多岐に渡っている。例えば、インドネシア/バタム島にあるEMS拠点PT. SIIX Electronics Indonesiaと連携したEMS事業の拠点として、またASEAN地域全体の地域統括拠点として、更には、EMSにとどまらず、スマートテクノロジーの開発や、医療・産業用搬送ロボット開発など、次世代製造技術の開発拠点として。そのいずれもがシンガポールだからこそ高度なレベルで実現できた機能だと言える。ここではシンガポール法人の機能や役割のいくつかをご紹介しよう。

 

シンガポールはEMSのグローバルハブ。3つの役割

現在のシンガポール法人は、電子部品調達とEMS事業においてグローバルハブとしての役割を果たしている。そこでは、物流拠点、開発拠点、地域統括拠点という3つの役割が見て取れる。第一に、24の国と地域とFTA(自由貿易協定)を締結しているシンガポールの持つ優れた物流拠点機能から、電子部品のグローバルサプライチェーンの中枢としての役割を担っている。そして第二に、優秀な技術開発力を持つ豊富なシンガポールの人材によって、他のシークス拠点には無いDFMチームがシンガポール法人には設けられている。DFMとは、Design For Manufacturabilityの略で、製品開発の初期段階から、製造性を考慮した設計を行うことをいう。一般的に、多くのメーカーにおいては、設計と製造の分離が課題とされているが、シークスでは、製造現場とデザイン両方に精通したシンガポール人技術者が開発を担っている。そして第三に、シンガポール法人には、在シンガポールの経営層直轄のASEAN統括室が設置されており、ASEAN地域における「購買力強化」「域内物流機能の統括」「ASEAN域内拠点の管理・監督の強化」についての責任を負う地域統括拠点としての役割を担っている。こうした、グローバルサプライチェーンの重要拠点、開発と製造の中枢拠点、地域統括拠点という役割により、シンガポール法人は、開発から設計・製造の統括、部品調達、基板実装、完成品組み立て、世界各国への出荷という“ターンキービジネス”を世界に先駆け実現しているのだ。

 

シンガポールで公共インフラ用スマート事業を開始

シークスのシンガポール法人では、既存のEMS事業のほかに、地域企業とのコラボレーション事業も行われている。そのうちの一つが、シンガポールのSTEE-InfoComm社との業務提携だ。STEE-InfoComm社は、Singapore Technologies Engineering Ltdの子会社で、通信インフラ、高度交通道路システム、スマートシティ等のシステム設計開発を手がけている企業だ。2012年に締結されたこの業務提携によって、世界的に高まる公共インフラのスマート化のニーズに対応している。シークスは、従来から東南アジアにおいてスマートメーター関連の事業展開を行っており、このパートナーシップは、その一環として行われたものだ。現在、さまざまな分野においてスマート化、いわゆるセンシング技術によるデータ収集やコントロールが行われているが、特にこの業務提携では、インフラ用スマートセンシング通信管理システムの普及を目指していく。具体的には、STEE-InfoComm社がシステムの設計開発を行い、シークスが関連機器の製造を担うというものだ。

 

産業用ロボットの開発企業も立ち上げ。A*STARとの協業も

シークスは上記でご紹介した業務提携の他にも、シンガポールで新たな事業の展開にも乗り出している。それが医療関連ビジネスを行うAGTとの合弁だ。2014年に設立されたSIIX AGT MEDTECH社はシンガポール経済開発庁(EDB)からも出資を受けて設立された企業で、病院向けベッドの搬送ロボットの開発と販売に着手している。産業用ロボット市場は、日本や欧米などの労働力人口の減少や新興国の賃金上昇などを背景に、さまざまな業界で成長が期待される分野だ。SIIX AGT MEDTECH社は、日本の医療、介護ベッドメーカー向けの搬送ロボットを手掛け、シンガポールの病院向けの販路を拡大するなど、グローバル市場で拡販を行っている。また、同社の手掛けるロボット技術は医療用以外にも転用が期待されており、他の産業用の搬送ロボットとその関連部品の開発、製造、販売を行うまで成長している。最近では、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)との協業により、警察車両 (MATAR)や、自動運転搬送ロボット(AIV)、無線急速充電装置の開発も行っている。
 

シンガポールで開発が進められるシークスの多角的な事業(写真提供:シークス)

シンガポールで開発が進められるシークスの多角的な事業(写真提供:シークス)

さらに広がる次世代製造技術の開発

シークスは、EMS事業を中心にグローバルにビジネスを展開するだけではなく、新たな分野に挑戦している。それがスマートセンシング事業や、産業用ロボットの開発だ。そしてこの次世代製造技術に関する新たな試みは、更に幅を広げつつある。例えばシークスは、スマートシティの実現のために、スマートエナジーなどのインフラ系IoT機器やアプリケーションの開発に乗り出している。また新たに、カメラやレンズなどの光学系機器の分野にも進出を果たしている。こうした時代の先端を行く取組の背景には、シークスが長年培ってきたEMS事業の存在が大きいと言えるだろう。
EMSの先駆けとして、冒頭でご紹介したように、その範囲はあらゆる電子機器製品に及んでいる。次の時代の製造業の先駆者として今後も注目していきたい。

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