「サントリーは何よりも品質を第一に考えています。たとえ工場近くの川の水質が良くなくても、工場の地下深い水は、地層によるろ過や遮水作用により水質が安定していることも多々あり、そういった場合にはその地下水を使うなど、厳しい品質レベルに合う水を確保しています。また、工場で使用する水は、日常的に分析や検査を実施し、品質マネジメントを徹底しています。」(河本氏)
これまで、シンガポールでサントリーが販売する商品は、国内ではなく、隣国のマレーシアで生産したものを輸入していた。そのため、シンガポールは生産工場を持たなかったが、ついにサントリー初となるシンガポール工場が新設され、2021年に生産も開始された。
「まだ始めたばかりで、少しずつ展開しています。シンガポールの人口は600万人弱と市場としては大きくなく、同工場から域内への展開を計画しています。」(河本氏)
グローバル展開では文化の違いを互いに理解できるかがポイント
このように、シンガポールをハブとしてアジア太平洋での事業を着々と拡大してきたサントリー。それを支えてきたのは言うまでもなく“人”だ。そのことについて河本氏は「優秀な人材をいかに採用し、社員の質を上げていくか。それこそがグローバルビジネスを成功に導くカギだと捉えています」と語る。そして、シンガポールでの人材の獲得について、こう続ける。
「シンガポールは教育水準が高く、数ヶ国語が話せる優秀な人材があちこちにいます。さらに、留学や、シンガポールに集まる多国籍企業でビジネスの経験を積むなどしてグローバルな視点を持つ若者がたくさんいます。グローバル展開を進めている弊社では、そうしたシンガポールの方に入社してもらうことも多いです。」
多国籍企業として事業を展開するうえで大きな障壁となるのは、文化の違いだろう。シンガポール拠点には、日本人の駐在員に加えて、シンガポール人の従業員たちが多数在籍する。そうした多様性がある職場でビジネスを円滑に進められるかどうかは、文化の違いを互いに理解できるかがポイントになると、河本氏は考える。
「シンガポールの方々は一般的に、サントリーのホームカントリーである日本の良さを理解してくれていると思います。ですから、あとは、企業文化に合いそうな人に働いてもらうようにしています。」
とはいえ、国を超えて企業文化を伝えることはそう容易ではない。「アジア太平洋地域は転職率が高いです。そうした事情もあり、大学を卒業して以降ずっとサントリーで働いているような日本の従業員と比較すると、アジア太平洋諸国で働く従業員へのサントリーの企業文化の浸透は道半ばかもしれません。それでも、長期的視点を持って働いてもらえるよう、企業文化を根づかせていこうと取り組んでいます。」
その甲斐があって、少しずつではあるが着実に、企業文化は浸透してきているという。例えば、「水と生きる」をグループ理念として掲げるサントリーがかねて行っているサステナビリティへの取り組み。東南アジアの小学校では2015年以降、授業や自然体験プログラムを通じて水の大切さや水源保全の重要性を伝える「水育」の活動を展開。シンガポール拠点も活動に協力し、これまでにベトナム、インドネシア、タイ、日本を含め、19万人を超える児童が参加している。
「私たちは、この社会のために成長し続ける=『Growing for Good』を志としています。環境活動も社会のためになることなので、そうした活動を含め、従業員にはやりがいを持って働いてもらいたい。それがひいては、社会、そして企業の成長につながると思っています。」(河本氏) そんなサントリーは健康志向の高まりを受け、アジア太平洋地域では初のカテゴリーとなるノンアルコールビール「オールフリー」のベトナムでの販売を開始。今後も健康にまつわるさまざまな商品開発に力を入れていく計画だ。サントリーが大切にしている「やってみなはれ」の精神は、任された従業員側が必ずやりきってみせるという「みとくんなはれ」という言葉と一対になっており、そうした心意気でシンガポール拠点はアジア太平洋のハブとして、挑戦そして成長を続けていくに違いない。