シンガポールを中心としたグローバルな生産拠点
シンガポールにおけるメニコンの主な活動は、グローバルな生産拠点としての機能だ。また、ここで生産した製品を周辺の東南アジア市場や、ヨーロッパ市場へ展開するといったグローバル戦略が見て取れる。
株式会社メニコンは、日本で初めて角膜コンタクトレンズを開発したコンタクトレンズのパイオニア企業だ。メニコン創業者である田中恭一会長が、独学で開発に取り組み1951年に最初のプロトタイプを開発、1957年に現在のメニコンの前身ともいえる日本コンタクトレンズ株式会社を設立した。そして、今やメニコンは、世界各国に展開するグローバル企業に成長している。「より良い視力の提供を通じて、広く社会に貢献する」という企業スローガンの下、アメリカやヨーロッパ、アジア、アフリカなど世界中に進出している。そんなメニコンがグローバルな拠点として重要視しているのがシンガポールだ。
2018/05/10
シンガポールを中心としたグローバルな生産拠点
シンガポールにおけるメニコンの主な活動は、グローバルな生産拠点としての機能だ。また、ここで生産した製品を周辺の東南アジア市場や、ヨーロッパ市場へ展開するといったグローバル戦略が見て取れる。
24時間体制で生産可能。最大規模の生産能力を誇るシンガポール工場
メニコンが初めてシンガポールに進出したのは2005年だ。販売子会社として進出したのをきっかけに、2006年に生産子会社を設立。2007年には生産ライン開発を開始し、2011年には最先端の設備を持つ工場をオープンし、生産を本格稼働している。この生産工場は、1日使い捨てコンタクトレンズ専用の工場で、24時間体制での生産が可能であり、広さ約6,000平方メートルにも及ぶ一大生産拠点だ。ここで生産されるコンタクトレンズは、シンガポール市場だけではなく、東南アジア諸国、更には日本を含む全世界のグループ会社へ供給されている。このシンガポール工場の最大の特長は、メニコンが独自に開発したユニークなパッケージング技術「フラットパック」を導入した1日使い捨てコンタクトレンズの生産工場であるという点だ。1日使い捨てコンタクトレンズの生産は、極めて高い生産効率(競争的な製造原価)と品質の両立が求められ、シンガポール工場はメニコンの工場の中でも最大規模の生産能力を誇り、インドネシア、タイ、マレーシア等の東南アジア市場の一大生産拠点として機能している。また、工場運営に必要な開発も行っており、生産だけでなく、技術開発の機能も有している。
シンガポールを選択した理由
このようにメニコンにおいてシンガポールはグローバルな生産拠点としての役割を担っているが、なぜメニコンは海外進出において、数ある国の中でシンガポールを選択したのだろうか。工場立地を検討する際のフィージビリティスタディで最高得点という評価を獲得しているが、そこにはシンガポールが最適であるというさまざまな理由が存在する。
豊富なFTAネットワークと優れた国際貿易ハブ
第一に、国際貿易におけるグローバルハブとしての役割が大きい。メニコンのシンガポール工場は、グローバルな生産拠点として機能している。これは、シンガポールが持つ国際貿易拠点としての理想的な環境が大きいと言えるだろう。まず、シンガポールは東南アジア諸国をはじめ、中国、インド、オーストラリア、アメリカなど22の国と地域と豊富なFTAネットワークを構築している。また、それに加えて世界の貿易における物流拠点として最先端で最大の規模の設備を有している。2016年に世界銀行が発表した物流効率性指数では、第5位(日本は12位)に規模ランクインするなど、効率的に海外諸国に展開するには最適な物流インフラを備えている。更に世界のグローバル物流企業25社のうち20社がシンガポールにおいて事業を展開している。こうしたグローバルハブとしての機能により、周辺の東南アジア諸国をはじめ、世界各国にスムーズに市場アクセスできる点が生産拠点を設ける理由の一つである。
高品質な製造を確立する豊富なエンジニア
第二の要素が、シンガポールの持つ優秀な人材だ。メニコンが海外に生産工場を設けるうえで重要視する部分の一つが、高度な生産技術と品質管理である。コンタクトレンズは目に直接触れて視力を矯正する医療機器であることから、その品質と安全性は常に高精度を保っておかなければならない。特にメニコンでは、素材に合わせた独自の生産ラインを開発しており、研究開発部門と製造部門が密接に連携した生産体制をとっている。そのため、生産ラインを担う人材たちにも高い技術力と品質管理能力が求められるわけだ。シンガポールではこうしたハイレベルな製造を任せられるエンジニアが豊富に獲得できるという点も大きな要素である。メニコンのシンガポール工場では47名のエンジニアが活躍している。
日本と変わらないビジネスに最適な住環境
そして第三の要素が、シンガポールの持つ日本と変わらない住環境だ。シンガポールは電気、ガス、水道、IT環境に加え、ビジネスに最適な住環境が整っている。特にメニコンの生産工場が存在するインターナショナル・ビジネスパークは、シンガポールに進出する企業には人気のエリアだ。1992年に設立されたビジネスパークで、シンガポールの製造業が数多く集まるジュロン地区の入り口にあり、アクセスもいい。特に魅力なのが、オフィスの周辺に住居だけではなく、ホテルや小売店、エンターテインメント施設などがひしめく商業中心地に隣接している。また、保育施設やフードコートなどが整い、快適な環境で安心してビジネスを行うことができる。こうしたビジネスに最適な住環境もシンガポールが選ばれた理由の一つだ。
研究開発・商用化を実現するイノベーション・エコシステム
それでは実際にメニコンがシンガポールに進出するうえで、どのような課題があり、どのようなサポートが受けられるのだろうか。メニコンが手掛けるコンタクトレンズは、医療機器に分類されることから、生産や販売にはライセンスを取得し、保健省傘下の健康科学庁の下、規制手引きに定められた規制に準拠しなければならない。特に、海外における医療機器などの許認可は、その国独自の制度や書類の煩雑さ、治験データの取得方法の違いなどから、一般的にハードルが高い。しかし、シンガポールの場合は、シンガポール経済開発庁(EDB)のサポートによって、スムーズな手続きが可能となる。また、シンガポールでは、さまざまな優遇税制プログラムや研究開発の助成制度を充実しており、それぞれの制度の概要や申請適否などについても、EDBがきめ細かく説明し、最適なプログラムのアドバイスを行ってくれる。例えば、シンガポールでは企業がイノベーションを起こす新たな技術や製品開発の後押しを行っており、研究開発・商用化事業のためのイノベーション・エコシステムが整っている。メニコンもシンガポール進出後、このイノベーション・エコシステムにより投資総額1億2,300万シンガポールドルを投じて世界最薄の1日使い捨てコンタクトレンズ「Magic」の開発を行っている。特に、特筆すべき点は、新たな価値を生み出す新技術や新製品開発を行う際、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)などの研究開発機関や、医療機器産業のコンソーシアムなど、パートナーとなる研究機関や民間企業などの紹介が受けられることで、検証や販路開拓など進出企業の状況にカスタマイズした最適な提案を行ってくれる。
更なる成長のために
2011年の最大規模の生産工場の稼働によりメニコンのシンガポールにおけるビジネスの基盤は確立されつつある。また、成長著しい東南アジア市場にも展開を果たしている。例えば、インターネットの急速な普及によって、東南アジア諸国でもパソコンやスマートフォンなどの使用が進み、コンタクトレンズの需要が増えつつある。こうした成長と共に、更なる飛躍のための課題も明確になりつつある。第一が生産品目の拡大に伴う販売領域の拡大だ。メニコンの海外市場のうち、最大のシェアを誇るのがEU市場だ。シンガポールとEUとの間でFTAは既に批准を待つ状態だが、これが批准されれば、シンガポール工場で生産された商品をEUに輸出することもより低コストで実現できる。そして二つ目が、アジアオセアニア地域の物流拠点としてシンガポールをより活用する手段の研究だ。この物流拠点としての再検証の背景には生産拠点の多様化による物流コストの上昇が影響している。特に日本は、物流コストの高さや通関手続きの煩雑さなどの課題があり、地理的にも物流拠点としては適していない。こうした課題を解決する手段として、シンガポールの優れた物流拠点を更に利用できないかという考察である。この新たな二つの挑戦を行うことで、メニコンは海外市場での成長がますます期待できることになる。そして、その要としてシンガポールは機能するとともに、グローバル市場への一大拠点として、その役割はますます重要性を増しそうだ。
Point 1
メニコンはシンガポールの持つグローバルハブとしての特性を最大限活かしている。東南アジア諸国だけではなく、中国、インド、オーストラリア、アメリカなど世界中の国と豊富なFTAネットワーク、更には、世界1位の効率性を持つ物流施設など、シンガポールを生産拠点にすることで、日本から海外市場にアクセスするよりもより効率的で多角的な展開を実現している。
Point 2
高品質で、安全性の高い製品開発と生産体制を実現するため、メニコンはシンガポールの優秀なエンジニアを活かしている。シンガポールの特長の一つが高い教育レベルと技術力だ。メニコンは自社独自の製造技術と生産ラインを担う人材をシンガポール人のエンジニアを活かすことで、高品質を保っている。
Point 3
メニコンがシンガポールを生産の拠点として選んだ理由の一つが、優れた住環境だ。特にメニコンの生産工場があるインターナショナル・ビジネスパークは、交通の便もよく、すぐ近くにホテルや小売店、エンターテインメント施設、保育施設、フードコートなどがあり、日本と変わらない環境で働くことができる。これは現地に駐在する社員たちにとっては、大きなメリットだ。
「未来の航空宇宙都市」と呼ばれるシンガポールは、130社を超える航空宇宙業界の企業を擁し、アジア最大級で最も多様なエコシステムを誇ります。一流企業や宇宙産業スタートアップ企業をはじめとして成長を続ける企業が拠点を置いています。
シンガポールは、アジア市場への玄関口であり、世界トップクラスの消費者向け企業の多くが、環太平洋の拠点としてシンガポールを活用しています。
シンガポールは、東西のクリエイティブカルチャーが交差する場所であり、拡大を続けるこの地域の消費者基盤へ向けて開かれた扉でもあります。世界的ブランドが、地域統括会社を構えており、トップクラスのクリエイティブな企業がシンガポールを拠点としています。
今日、主要なガジェットにはシンガポール製の部品が使用されています。エレクトロニクス産業の一流企業は、シンガポールで未来を設計しています。
精製、オレフィン製造、化学製品製造、ビジネスと革新力が強力に融合するシンガポールは、世界最先端のエネルギーと化学産業のハブに数えられています。100社を超えるグローバル化学企業が主要な事業を当地に構えています。
アジアのデジタルの中心都市として、シンガポールは情報通信技術 (ICT) 企業が選ぶ拠点となっています。世界クラスのインフラ、人材、活気のあるパートナーのエコシステムを提供しています。一流企業と連携して、最先端の技術とソリューションを開発し、シンガポールのビジョンであるスマートネーションと地域および世界の市場を支えています。
アジアの流通のハブとして、当地域内外への世界クラスのコネクティビティを提供します。安全で効率的なロジスティクスと、サプライチェーン管理ハブとしての妥当性を以て、シンガポールは地域の境界を超えた取引と消費に貢献しています。
シンガポールは、医療技術企業がこの地域で成長するための戦略的な拠点です。今日、多くの多国籍医療技術企業がシンガポールを拠点として、地域本社機能や製造、研究開発を行なっています。
資源豊かなアジアの中心に位置するシンガポールは、農産物、金属、鉱物のグローバルハブです。我が国のビジネス環境は、強力な金融、サプライチェーン管理、技術力を以て、世界をリードする企業を引き付けています。
シンガポールは、アジアでも主要な石油 ・ ガス (O&G) 装置とサービスのハブであり、3,000社を超える海洋・オフショアエンジニアリング (M&OE) の会社があります。世界クラスの機能と優れたコネクティビティは、アジアの強力な成長の可能性に着目する多くの企業をシンガポールに誘引しています。
シンガポールが有する優れた人材、強い生産能力、研究開発のエコシステムは、製薬やバイオテクノロジー企業を誘引しています。企業はシンガポールから世界中の人々に薬を提供し、アジア市場の成長を担っています。
シンガポールの洗練された精密工学(PE)の能力と先進の製造技術で主要分野である高度な製造な地域ハブとしての強みを反映しています。
シンガポールは、プロフェッショナル・サービス企業に最適なハブであり、国際的な労働力と信頼できる規制と枠組みを提供します。
アジアは世界的な都市化のメガトレンドの中心であり、人口集中や公害、環境悪化などの都市問題の軽減を目指して、各国政府はスマートで持続可能なソリューションの開発を推進しています。大企業のいくつかはシンガポールを拠点として、アジアのために持続可能なソリューションを商業化すべく、革新、試行、連携を進めています。