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麦の穂

シンガポールは世界市場の中心フランチャイズ統括と世界市場に向けた生産拠点

  • コンシューマービジネス
  • 高度な製造

シュークリーム専門店「ビアードパパの作りたて工房(以下ビアードパパ)」を日本全国で200店舗以上展開する株式会社麦の穂。外はサクサク、中はモチモチの食感が楽しめるできたてシュークリームが人気の商品だ。

2018/05/01

そんな高品質の商品力を活かして、株式会社麦の穂は今や、日本国内だけにとどまらず、アメリカや中国、東南アジアを中心に16の国と地域に展開している。その店舗数は、日本国内に迫る170店舗以上に上っている。そんなワールドワイドに展開する麦の穂がグローバル展開の統括拠点として力を入れているのがシンガポールだ。2014年4月にシンガポール本社を設立して以来、ASEANを中心にしたフランチャイズ展開や直営店の拡大など、海外戦略の拠点としての機能を発揮している。

12の国とエリアを統括する海外戦略の拠点

株式会社麦の穂のシンガポール法人MUGINOHO GLOBAL PTE. LTD.は、ASEANを中心とした12の国と地域(北米、韓国、中国を除く)を統括する役割を担っている。その機能は大きく分けて二つだ。第一が、販売エリアの拡大と既存店舗の管理である。そして第二の役割が製造拠点としての役割だ。

多様な国のフランチャイズ展開をサポート。世界中の新規開拓を目指す

ビアードパパの店舗拡大の中心がフランチャイズ展開だ。シンガポール法人では、統括する12の国と地域における、フランチャイズオーナーのサポートや管理を行っている。主な対象国が、シンガポールをはじめ、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、カンボジア、ラオス、東ティモールなどで、非常に多様な国と地域が含まれている。フランチャイズビジネスにとって最も大切なのが、数ある店舗のブランドや商品のクオリティ、販売や生産のノウハウをどう維持していくかという点が重要になる。特に、ASEANのような多様な国でのフランチャイズ展開では、国ごとの文化や風習、価値観、教育などが異なっており、いかにブランドや商品、サービスの質を保つかがカギとなる。麦の穂のシンガポール法人からは、こうし たフランチャイズオーナーのサポートを行うとともに、北米を除く全世界での新規国の開拓という役目を持っている。また、シンガポールでは、こうしたASEAN地域のフランチャイズ店の旗艦店ともなる直営店を2017年9月にオープンした。この直営店は東南アジア初となる直営店で、シンガポールを代表する繁華街、オーチャードにある商業施設「プラザ・シンガプーラ」の地下2階にオープンしたもので、地域にあった新製品開発や、現地人材の育成なども行っている。いわばASEAN地域の拡大を支える重要拠点としての役割を果たしている。

麦の穂 Managing Diredter 井上慶氏

日本と同じ高品質な生地を全世界に供給

その一方で、シンガポール法人は、拡大するASEAN諸国や、将来の新規国でのフランチャイズ展開に対して、高品質な生地の供給とクリームなどの製品開発をタイムリーに行うという役割も担っている。現在ビアードパパのシンガポール工場では、シンガポールの店舗だけではなく、日本を除く全世界のフランチャイズ店舗に対して生地の製造と供給を行っている。ビアードパパのシュークリームの最大の特長は、独特のサクサクした生地の食感だ。従来は、この生地を保つために、日本国内で製造したものを海外の店舗に供給していたが、物流コストの高さやリードタイムといった課題が存在していた。しかし生産工場をシンガポールに設けることで、より低コストで、日本と同じ高品質な生地を各国のフランチャイズ店舗に届けることが可能となった。また、クリームなどの製品開発では、多様な国の人々が集まるシンガポールでは、各国のニーズを取り入れより現地の人々の味覚や好みにマッチした製品を作ることができる。シンガポール工場は生産拠点であると同時に、こうした開発拠点としての役割も担っていると言えるだろう。

シンガポールを選択した理由

麦の穂はどのような理由で、シンガポールをグローバル展開における戦略拠点として選択したのだろうか。海外拠点を設ける際の候補地として、当初はマレーシア、インドネシア、ベトナム、タイなどの国があがっており、シンガポールは含まれていなかったという。それではなぜシンガポールにこれほどの戦略拠点を設けることになったのだろうか。進出にあたり、課題となったのが、「食の安全」と「商品の品質」をいかに確立するかという点だ。ビアードパパのシュークリームのモットーは「いつもできたて・作りたて」を掲げており、どの国の店舗でも変わらぬ美味しさと安心を提供できなければならない。また同時により低コストでスピーディに各国の店舗に供給しなければならない。

 

生産体制:高品質で安心&低コストを実現する生産拠点

シンガポールが当初候補地から漏れていた最大の理由が、シンガポールはさまざまな面でコストが高いという先入観だったという。しかし、実際には日本よりも低コストで生産を行うことができたという。例えば、シュークリームの主力原材料は小麦と乳製品だが、小麦は、日本で手に入るものと遜色ないクオリティかそれ以上のものが、他のASEAN諸国よりも低価格で調達することができる。また、もう一つの主原料でもあるバターは、関税率がシンガポールの方が低いことから、こちらも低価格で調達可能だ。これにより、グローバル展開で求められていた日本市場と同じ高品質の生地が、日本で生産するよりも低コストで実現できることとなった。また、品質に関しては、シンガポールはASEANの中でも食品衛生管理基準への信頼性が高いことから、「日系会社によるシンガポール産の生地」と認識され各国の店舗に安心感を与えることができている。

人材力:多様な国のニーズをとらえ適材適所の人材登用が可能

シンガポールを拠点に選んだ最大の理由の一つがシンガポールの持つ多様な人材力だ。シンガポールには、シンガポール人をはじめASEAN諸国の優れた人材が集まっている。麦の穂では、定例で行われる商品開発会議に日本人だけでなくシンガポール人、マレーシア人、フィリピン人、ミャンマー人など、多くの国の人々が参加することで、各国の味に最適化された製品開発を行っている。また、シンガポールには、各国に展開している原材料のサプライヤーが多く存在することから、それぞれの国の食のトレンドや好みなど、有益な情報を入手しやすいという。この海外独自のアイデアで、商品の開発と製造ができるようになったことは、シンガポールならではのメリットだといえよう。例えば、一食の量が少ない代わりに、食事の回数が多いベトナムでは生地のサイズを、従来の三分の二に変更し、食べやすくリーズナブルな価格へと変更を行った。まさに多国籍の人種が集まるシンガポールならではの強みといえる。

アクセス力:グローバルなフランチャイズ管理をスピーディに

シンガポールが持つ第三のメリットが、優れたアクセス力だ。各国でフランチャイズ展開を行う麦の穂にとっては、「高品質」と「食の安全」を保つため、賞味期限の徹底順守、原材料の翌日持越し禁止や「いつもできたて・作りたて」のモットーの堅持などを、すべての店舗に対し例外なく徹底的に理解させ、順守させるよう最大限の注意を払わなければならない。また同時に、各国のフランチャイズオーナーはその国を最も理解するパートナーであることから、彼らの要望を聞くなど、緊密な関係構築が必要となる。シンガポールは各国へのLCCの発着本数も多く、移動コストも低いことから、各国のフランチャイズオーナーとのフェイストゥフェイスのミーティングや店舗巡回も頻繁に可能となった。これにより顧客ニーズの汲み取りや、新製品開発への落とし込み、クオリティコントロールなどがより実施しやすくなったのだ。シンガポールの優れたアクセス力はグローバルな統括拠点としてまさに最適な環境を実現してくれる。

行政が周辺諸国への進出まで多角的にサポート

麦の穂は、シンガポールを拠点にグローバル展開するうえで、さまざまな政府のサポートを受けている。麦の穂のシンガポール工場では、世界中に生地を輸出しているが、食品衛生基準など、各国によって求められるレギュレーションはさまざまだ。こうした国によって異なる食品衛生証明や必要書類の提出についても、政府のアドバイスや適切なサポートを受けており、煩雑な通関手続きをスムーズに行っている。また、新製品開発を行う際にもシンガポールならではのサポートや優れたエコシステムを利用することができる。現在、麦の穂はインドへの進出を進めているが、ベジタリアン人口の多いインドならではの「エッグレス(卵不使用)商品」の開発が必須な状況だ。この製品開発ではシンガポール経済開発庁(EDB)からその国や地域の人々に合った新製品開発を行うための最適なR&Dパートナーの紹介や、幅広い企業支援を受けることができる。このようにシンガポールの行政機関のサポートの最大の特長が、シンガポールを中心とした周辺国の進出まで支援するということがあげられる。シンガポール国内だけのレギュレーション以外に、周辺諸国への輸出手続きや、現地にあった製品開発など、多角的な面から支援を受けられるのが大きなメリットだと言える。

更なる新規国開拓で重要性を増すシンガポール法人

ビアードパパの海外店舗数は現在170店舗以上に上り、シンガポールからはそのすべてに生地が供給されている。また、シンガポール法人が直接コントロールしている店舗数は約80店舗あり、麦の穂では、これを2022年には250店舗にまで拡大する計画だ。この市場開拓は既に進出している国の店舗数を増やすだけではなく、インドやミャンマー、更には中東諸国など未開拓のエリアの新規開拓も実施していく。既にご紹介したように、インド進出については現地に多いベジタリアンに向けた製品開発がシンガポール工場で実施されている状況だ。こうした海外展開の拡大には、「ビアードパパ」に続く第二、第三のブランドの立ち上げも含まれるという。このように、これまで未開拓の国でビジネスを展開するためには、よりその国、その地域の文化や風習に最適化された製品開発とオペレーションが必要だ。また同時に、現地のR&Dチームによる新製品の開発を促進するためには、グローバルな人材の獲得と育成が今後の成長には欠かすことができない。シンガポールはまさにグローバル市場へ向けた一大戦略拠点として更に重要性を増しつつある。

Lessons from This Case Study

Point 1

シンガポールの高品質&低コスト生産を活かす

シンガポールは生産コストのみを考えると割高かもしれない。しかし、麦の穂は、シンガポールのビジネス環境を活かしてシュークリームの原材料となる小麦と乳製品を、高品質&低コストで調達することで、日本と同等の生産体制を確立し、高いコストパフォーマンスを実現。シンガポールはグローバル市場に向けた生産拠点として高い競争力を発揮している。

Point 2

シンガポールの多様な人材を活かす

シンガポールに集まる多様な国の人材を製品開発やフランチャイズ店舗の管理運営に活用している。現地の人の味覚や食のトレンドに合わせた製品開発や、国ごとに合わせた得意分野を担当させる適材適所な人材登用を行っている。

Point 3

シンガポールの多角的サポートを活かす

麦の穂はシンガポールの周辺諸国に進出するにあたり、シンガポールの行政機関の多角的なサポートを活かしている。その国ならではの食品衛生証明や必要資料の提出、更には現地向けの製品開発を行うパートナー企業の紹介まで、多角的な面からのトータルサポートを活用している。

主力産業一覧

主力産業一覧
  • 「未来の航空宇宙都市」と呼ばれるシンガポールは、130社を超える航空宇宙業界の企業を擁し、アジア最大級で最も多様なエコシステムを誇ります。一流企業や宇宙産業スタートアップ企業をはじめとして成長を続ける企業が拠点を置いています。

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  • シンガポールは、アジア市場への玄関口であり、世界トップクラスの消費者向け企業の多くが、環太平洋の拠点としてシンガポールを活用しています。

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  • シンガポールは、東西のクリエイティブカルチャーが交差する場所であり、拡大を続けるこの地域の消費者基盤へ向けて開かれた扉でもあります。世界的ブランドが、地域統括会社を構えており、トップクラスのクリエイティブな企業がシンガポールを拠点としています。

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  • 今日、主要なガジェットにはシンガポール製の部品が使用されています。エレクトロニクス産業の一流企業は、シンガポールで未来を設計しています。

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  • 精製、オレフィン製造、化学製品製造、ビジネスと革新力が強力に融合するシンガポールは、世界最先端のエネルギーと化学産業のハブに数えられています。100社を超えるグローバル化学企業が主要な事業を当地に構えています。

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  • アジアのデジタルの中心都市として、シンガポールは情報通信技術 (ICT) 企業が選ぶ拠点となっています。世界クラスのインフラ、人材、活気のあるパートナーのエコシステムを提供しています。一流企業と連携して、最先端の技術とソリューションを開発し、シンガポールのビジョンであるスマートネーションと地域および世界の市場を支えています。

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  • アジアの流通のハブとして、当地域内外への世界クラスのコネクティビティを提供します。安全で効率的なロジスティクスと、サプライチェーン管理ハブとしての妥当性を以て、シンガポールは地域の境界を超えた取引と消費に貢献しています。

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  • シンガポールは、医療技術企業がこの地域で成長するための戦略的な拠点です。今日、多くの多国籍医療技術企業がシンガポールを拠点として、地域本社機能や製造、研究開発を行なっています。

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  • 資源豊かなアジアの中心に位置するシンガポールは、農産物、金属、鉱物のグローバルハブです。我が国のビジネス環境は、強力な金融、サプライチェーン管理、技術力を以て、世界をリードする企業を引き付けています。

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  • シンガポールは、アジアでも主要な石油 ・ ガス (O&G) 装置とサービスのハブであり、3,000社を超える海洋・オフショアエンジニアリング (M&OE) の会社があります。世界クラスの機能と優れたコネクティビティは、アジアの強力な成長の可能性に着目する多くの企業をシンガポールに誘引しています。

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  • シンガポールが有する優れた人材、強い生産能力、研究開発のエコシステムは、製薬やバイオテクノロジー企業を誘引しています。企業はシンガポールから世界中の人々に薬を提供し、アジア市場の成長を担っています。

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  • シンガポールの洗練された精密工学(PE)の能力と先進の製造技術で主要分野である高度な製造な地域ハブとしての強みを反映しています。

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  • シンガポールは、プロフェッショナル・サービス企業に最適なハブであり、国際的な労働力と信頼できる規制と枠組みを提供します。

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  • アジアは世界的な都市化のメガトレンドの中心であり、人口集中や公害、環境悪化などの都市問題の軽減を目指して、各国政府はスマートで持続可能なソリューションの開発を推進しています。大企業のいくつかはシンガポールを拠点として、アジアのために持続可能なソリューションを商業化すべく、革新、試行、連携を進めています。

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