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パナソニック

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グローバルに展開する製造業の動きには、二つの潮流が見て取れる。第一が、IoT、すなわちビッグデータとAI による製造プロセスの変革だ。第二が、シンガポールへの本社機能の移転である。


パナソニックは、この二つの戦略的な動きにいち早く対応している。パナソニックの冷蔵庫用コンプレッサー事業は、既にシンガポールを拠点に半世紀近くにわたって活動しているが、新たにIoT化と本社機能の移転によって成長著しいグローバル市場でナンバーワンを目指そうとしている。

シンガポールに本社機能を集約。スマート工場化とR&D部門を完全移転

 パナソニックの冷蔵庫用コンプレッサー事業はこれまで日本の草津に本社機能を置き、シンガポールやマレーシア、中国に生産工場を設け、展開してきた。しかし、今年2017年4月に、シンガポール工場に本社機能を集約し、“スマート工場化” とR&D 部門の“完全移転” を実現していくことを発表した。工場のスマート化にあたっては、ロボットなどのオートメーション設備を導入し、各製造プロセスのデータを製造実行システムに統合していく。これにより旧来型の工場から、ビッグデータを活用する自動化したスマート工場に進化することとなる。これに伴い、IT や無線通信など専門知識を持つプロセスエンジニアを現地のシンガポールで募集する計画だ。また、これまで日本国内で行ってきた量産開発機能をシンガポールに大幅に移行することも計画している。これによってシンガポール工場は、本社機能としての中心的な役割を担うだけでなく、各国に展開する工場のマザー工場として機能していくこととなる。R&D 部門の人員を今後数年間で倍増し、現地における研究開発の背景を持つエンジニアを募集する。

 

製造プロセスに革新をもたらすIoTとは

 デジタル技術の進化によってもたらされるIoT(Internet of Things)。あらゆる業界での利用が期待されているが、特に今後注目される分野が、製造業のIoT化、すなわちIndustrial Internet of Things(IIoT)である。IIoT と言われるこの仕組みは、工場内におけるあらゆる設備をオートメーション化し、インターネットに接続することで、製造プロセスを劇的に効率化することができる。いわゆる“スマート工場” と呼ばれる次世代型工場では、ビッグデータとAI の活用により、調達から、開発、生産、品質検査、在庫管理に至るまで、ものづくりに関する一連の製造プロセスを、より良いものに進化させてくれる。言うなれば製造現場でお馴染みの“カイゼン” 活動をビッグデータで数値として見える化し、AI によってより効率的に、あるべき姿に進化させてくれるというわけだ。

リードタイム、コスト、品質をビッグデータで“カイゼン”

 パナソニックの工場では、“スマート化”は、大きく二つの段階で実装される。まず初めに、従来の手動から、自動化された製造プロセスに最適化されるように工場を再レイアウトしなければならない。この段階では、手動で行われていた搬送部分を自動搬送車に切り替え、製造プロセスにおける部品の流れ作業を自動化する。その後、第二ステップとして、各工程に高度なロボティクスとモニタリングセンサ、オートメーションシステムを追加しデータ収集を行う体制を構築する。これにより、冷蔵庫用コンプレッサーを製造するすべての工程を、リアルタイムで監視し、コントロールすることが可能となる。また、すべての製造工程のデータはビッグデータとして、統合プラットフォームに収集され、各工程におけるリードタイム、コスト、品質が常にカイゼンされる。シンガポールとIIoT、この二つの要素が、パナソニックの冷蔵庫コンプレッサー事業を、成長著しい冷蔵庫のグローバル市場に対応させていくこととなる。

シンガポールが持つグローバル市場における強みとは

 実は、パナソニックのシンガポールにおける活動は、既に半世紀近くにのぼる。ここでは、シンガポールが持つグローバル市場における本質的な強みと、優れたビジネス環境についてご紹介しよう。
 第一に、シンガポールは、ASEAN 地域をはじめ、中国、インドなどの周辺諸国、更には中東領域までもアクセスしやすい場所にある。また、この立地条件を活かして周辺諸国との間に自由貿易協定を結んでいることが大きい。パナソニックの冷蔵庫用コンプレッサーの顧客はおよそ50%近くがアジア、インド、中東地域であり、シンガポールにR&D を中心とした本社機能を置くことは、迅速な意思決定とリードタイムの短縮を実現し、より戦略的な展開が可能となるのである。他にはシンガポールの持つ優れたビジネス環境と豊富なIT 人材があげられる。先にご紹介したハブとしての役割には、シンガポールが培ってきた堅牢なビジネスインフラが大きく貢献している。また、優秀な人材を容易に確保できることも大きな特長である。特に、スマート工場への進化を遂げるためにはスマートファクトリーのためのソフトウェアニーズに対応するIT スペシャリストの確保と養成は欠かすことができない。

グローバルナンバーワンメーカーを目指した動き

 パナソニックは、今後5年間かけて、シンガポール工場をスマート工場に進化させていく。シンガポールの優れたビジネス環境と立地条件に加え、圧倒的にリードタイムが効率化されたスマート工場が稼働すれば、様々な国と地域の、進化する顧客ニーズに迅速に対応することが可能となる。多様化する各国のニーズに迅速に対応するためには、“工場のスマート化” と“シンガポールへの本社機能の集約” という二つの動きは、最も合理的な選択なのである。まさにグローバルナンバーワンを目指した戦略といえるだろう。

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