また2017年には新たな製品やサービスを生み出す「イノベーションセンター」をシンガポールに開設しさらなる事業拡大に取り組んでいる。今回はシンガポールで革新的な製品を生み出し、ASEANから南アジアまで市場を広げる島津製作所の取り組みをご紹介しよう。
島津製作所は創業から140年以上もの歴史を誇る総合精密機器メーカーだ。その事業領域は多岐にわたっており、分析・計測機器から医療機器、航空機器、産業機器などを中心に、全世界18の国と地域でビジネスを展開している。中でもシンガポールは東南アジアとインドなど南アジアにおける医療機器と分析機器の一大拠点だ。
また2017年には新たな製品やサービスを生み出す「イノベーションセンター」をシンガポールに開設しさらなる事業拡大に取り組んでいる。今回はシンガポールで革新的な製品を生み出し、ASEANから南アジアまで市場を広げる島津製作所の取り組みをご紹介しよう。
シンガポールからローカルビジネスを成長させる
島津製作所とシンガポールの関係は30年以上に及ぶ。1989年に設立されたShimadzu(Asia Pacific)Pteが始まりである。当時からシンガポールのビジネス環境は良好で、進出にあたり島津製作所は商業地域に駐在事務所を設けその後アジア地域の営業拠点を設立した。以来、シンガポールの優秀な人材や、政府を中心としたエコシステムからの強力なビジネスサポート、持続的な経済成長によって、シンガポール支社は単なる営業拠点としての枠を超え、マーケティングソリューションや技術サポート拠点、さらにはパートナーとの共同イノベーションを行うイノベーションセンターを持つまでに成長している。また東南アジアやインドの経済発展によりインド、マレーシア、フィリピンに子会社が設立され、シンガポールはその統括拠点としての役割も担っている。島津製作所における、東南アジアやインドにおけるビジネスの中心は医療機器と分析機器の事業が中心である。島津製作所の事業は主に3つの柱、「人の健康」、「安心・安全な社会」、「産業の発展」を中心に展開されているが、このエリアでは特に「人の健康」と「安心・安全な社会」の二つにフォーカスされてきた。例えば、東南アジアやインドでは食品安全や環境の問題が人々にとって重要な課題であり続けているが、島津製作所では、シンガポールとインドの子会社に分析アプリケーションラボを設置し、食品や飲料水、河川・海洋や大気の分析技術を提供し、アジア諸国の研究をサポートしている。また、「人の健康」の分野では、人口が多いこの地域の医療水準を上げるため、SHIMADZUの汎用X線画像診断装置や、高度なデジタルX線装置を大学・基幹病院に納入し、各国の医療水準の向上に貢献している。さらに医薬品の開発・製造に貢献する各種分析機器、アプリケーション、ソフトウェアの提供も行っている。また今後は産業の発展に関わる事業にも力を入れていく。
ロジスティクス環境と優れた人材が東南アジア市場を支える
島津製作所が東南アジア・インド市場に進出する際に課題となったのが、製品に関する技術的なサポートだ。同社がこの地域で手掛ける分析機器や医療機器は技術サービスなどのサポート業務と一体となるもので、広大な東南アジア諸国のエリアをいかにカバーし、品質の高いサービスを提供するかが課題であった。その対策として、各国に技術サービス拠点を設置し、シンガポールから技術者を派遣し地域の技術レベルの向上を行っている。また市場の拡大とともに求められるのが迅速な製品の提供である。この課題を解決するのにはシンガポールの物流拠点としての利便性が活かされている。シンガポールは東南アジア諸国と距離が近いうえにASEAN経済共同体の一部であり、この地域では98.64%の貿易関税が撤廃されている(出典:シンガポール貿易産業省)ことから、スピーディに周辺諸国に製品を供給することができる。島津製作所ではシンガポールを拠点とした在庫販売システムを構築することで市場拡大にもこたえている。現在シンガポール以外には、ベトナム、フィリピン、マレーシアに販売会社を設立し、各国で販売活動を拡大している。さらにマレーシアでは2016年に分析測定装置用に最新工場を設立。シンガポールを拠点としたビジネスが拡大しつつある。島津製作所の30年以上にも及ぶシンガポールを拠点としたASEAN市場での拡大は、シンガポールの優れた人材の力によるところが大きい。シンガポールでは、科学技術に携わる研究者は公共・民間ともに3万5千人(出典:NATIONAL SURVEY OF R&D IN SINGAPORE 2017)を超えており、特に販売やサポートにも高い技術力が求められる島津製作所の製品は、科学技術に優れたシンガポール現地の人材が多く採用されており、経営幹部も含め25年以上Shimadzu(Asia Pacific)Pteで働く社員も増えてきている。その貴重な経験とノウハウがビジネスの発展と、組織の強化に活かされている。
シンガポールはイノベーションの一大拠点に
島津製作所のシンガポール支社は、これまでの地域統括拠点としての役割だけではなく、新たにイノベーションの一大拠点としての機能を担っている。それが2017年に開設されたイノベーションセンターだ。このイノベーションセンターは、島津製作所が新たな革新的な製品を生み出すために始めた「島津イノベーションセンター構想」の一環として設けられたもので、シンガポールのイノベーションセンターは、米国、中国、欧州に次いで4番目にオープンしたものである。イノベーションセンターでは、世界各地域の顧客や最先端の研究者との外部協業により革新的な新製品を生み出すことを目的にしている。これは歴史的に島津製作所の製品が国内外の外部パートナーとの協業から生まれたものが多数あることに由来する。シンガポールのイノベーションセンターは国立シンガポール大学、南洋理工大学、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR's)などと連携しており、こうした外部機関の研究成果と島津製作所の技術を融合し、社会に役立つ新製品として世に送り出すことがミッションとなる。イノベーションセンターでのプロジェクトでは、日本の島津製作所の研究開発部門の技術者とも協力し、顧客のニーズ、期待に応える製品やアプリケーションシステムの開発を、スピード感をもって取り組んでいる。またこのような取り組みは、日本の開発者たちがグローバルな視点をもつきっかけ作りにもなっている。海外の顧客や社外研究者と協業することで刺激を受け、より柔軟な発想で画期的新製品を開発することも期待されている。
オープンイノベーションで革新的な製品を生む
シンガポールは世界各国のイノベーションの度合いを評価した「グローバル・イノベーション・インデックス 2019」(出典:米国コーネル大学、フランス経営大学院インシアードINSEAD、世界知的所有権機関WIPO)ではアジアでトップであり、また東南アジアで最もスタートアップへの投資が盛んな国である(出典:JETRO「東南アジアのスタートアップ投資件数の半分超がシンガポール」)。まさにイノベーションセンターを設けるには最適な場所といえるだろう。さらにシンガポールは30年以上にも及ぶASEANの活動の拠点でもあり、1989年以来、Shimadzu(Asia Pacific)Pteで培われた市場の知識、東南アジアにおけるパートナーとのネットワーク、リソースを活用することで、実際の製品を商業化する前にマーケティングや顧客によるプロトタイプ評価を行うなど、販売にあたっての障壁や課題を検証し解決するためのテストベッドの場所ともなる。現在イノベーションセンターではシンガポールの研究機関と、分析装置の画期的性能向上につながるデバイスや、食品安全や医療診断にかかわるアプリケーション開発など、いくつものプロジェクトが動き始めている。今後も、シンガポールの研究開発機関とのオープンイノベーションによって、医療や分析の分野を中心に、地域のニーズを満たして社会に貢献できる、より革新的なアプリケーションや製品の開発を行っていく。
シンガポールから新たな製品・アプリケーションを拡大
現在島津製作所における東南アジアやインドなど南アジアは医療機器と分析機器が中心だが、新たに開設されたイノベーションセンターによって、さまざまな業界への可能性が広がることになる。社内に蓄積されたさまざまな技術が、シンガポールの大学や研究機関とのオープンイノベーションによって、新たな製品が生み出しやすくなっているためだ。また、シンガポールはASEANの中心として、各国の法規制や文化などに適した製品・アプリケーションを試験し提供する場として利用することができる。これにより島津製作所の製品はより地域に根差したものとして発展し、さらに広がることだろう。