シンガポールの航空宇宙産業が飛躍―アジアの成長けん引で

シンガポールの航空宇宙産業が飛躍―アジアの成長けん引で

シンガポール・エアショー2026では、世界をリードする航空宇宙業界の主要企業が、MRO・製造・イノベーションでシンガポールの主導的立場を強化する新たな投資や提携を発表した。

Singapore Deputy Prime Minister and Minister for Trade and Industry Gan Kim Yong delivering the opening speech at the Singapore Airshow 2026, addressing industry leaders and stakeholders at the event’s opening ceremony.
シンガポール航空宇宙産業の規模

アジアの航空宇宙産業は、他のどの地域にも類を見ない速度で拡大している。

中間所得層の旅行需要の拡大を背景に、航空旅客数の伸びは世界平均を上回ると予想されている。今後20年間で、世界の新造航空機のほぼ半数がアジア太平洋地域に納入されると見込まれており、同地域は世界最大の航空市場となる見通しだ。

サプライチェーンの制約が続く中、航空各社が航空機の運用期間を長期化させていることから、整備・修理・オーバーホール(MRO)、アフターマーケットサービス、航空宇宙製造への需要が拡大している。

シンガポールは航空宇宙産業成長の中心となっている。全体で130社超の企業を擁する成熟した先端製造エコシステムを背景に、シンガポールの航空宇宙産業の生産高は2024年に180億シンガポールドルを超え、前年比19%の成長を記録した。

2万2000人規模という力強い人材基盤を背景に、シンガポールは世界のMRO市場の約10%、エンジンMRO市場では約20%近くを占めている。つまり、世界の航空機の10機に1機、エンジンの5基に1基がシンガポールで整備されている。

2月に開催された航空宇宙展示会、第10回シンガポール・エアショーの開幕式で、ガン・キムヨン副首相兼貿易産業相は、シンガポールが世界的に優れた接続性、需要の集中、そして高いビジネス利便性を備えている点を強調した。シンガポールは世界有数の航空ハブで、チャンギ空港は世界170以上の都市に連絡している。2030年代半ばにターミナル5が開業する頃には、その数は200都市へ拡大する見込みだ。

こうした状況を背景に、航空・宇宙分野は、シンガポール経済の成長を支える二つの原動力となる。ガン副首相は「企業が長期にわたり安心して事業運営や投資、事業拡大を行えるよう、シンガポールはビジネス環境と産業エコシステムの強化を進めていく」と述べた。
 


シンガポールのバリューチェーン競争力を強化

シンガポール・エアショー2026では、航空宇宙業界の主要企業や新たにシンガポールへ進出する企業が、自社の成長次段階を後押しし、世界の航空宇宙産業でのシンガポールの主導的地位を強化するため、16件の戦略的投資・提携を発表した。

シンガポール経済開発庁(EDB)が支援するこれらのプロジェクトは、先端製造、エンジン・部品MRO、研究開発・イノベーション、人材育成など幅広い分野を網羅している。GE Aerospaceは、シンガポールでのエンジン修理事業の拡大と変革に向け、複数年にわたる3億米ドル規模の投資計画を発表した。この投資では、MRO分野へのAI、予知保全、自動化、デジタル技術の導入を進め、エンジン修理のターンアラウンドタイム(TAT)短縮を図るとともに、安全性、耐久性、効率性、コスト効率の向上を目指す。これに伴い、AIセンター・オブ・エクセレンスが設立される。また、EDBとGE Aerospaceは、シンガポールでの高度修理能力の開発に向けた協議開始の意向を盛り込んだ覚書(MoU)を締結した。

フランス航空宇宙企業Safran Landing Systems Services Singaporeは、2200万シンガポールドル規模の着陸装置MRO施設拡張プロジェクトを着工した。今回の拡張で、東部ロヤンにある既存施設の延床面積が約7500平方メートル拡大し、施設全体のMRO処理能力は約40%増加する見込みだ。SIA Engineering Company(SIAEC)との合弁事業として運営される同施設は、アジア太平洋地域でのサフラン最大の着陸装置MRO拠点となる見込みだ。この拡張により、今後5年間で技術者・エンジニアを中心に約100人の雇用創出が見込まれている。

同航空ショーでは、WingsOverAsiaが北部セレター・エアロスペース・パークで新たなジェット機用格納庫の建設に着手するなど、ビジネス航空分野も大きな存在感を示した。シンガポール初のフルサービス型プライベート航空会社WingsOverAsiaと、タイのMJets Company Limitedとの戦略的提携で開発されるこの施設は、より大型で先進的な航空機への対応が可能となり、インド、ミャンマー、カンボジア、タイに広がるMJetsの地域ネットワークに統合される予定だ。また航空機管理、整備、修理、設計、エンジニアリング、管理業務などの分野で、50人超の高付加価値職の創出が見込まれている。
 

次世代技術とイノベーションへの注力

航空宇宙企業各社は、生産能力拡大にとどまらず、シンガポールで次世代技術開発に向けた提携を進めている。

米航空宇宙・防衛企業RTXとEDBは、複数の覚書(MoU)を通じて、RTX傘下のCollins Aerospaceとプラット・アンド・ホイットニーが、次世代民間航空機への支援や拡大する地域需要への対応に向け、シンガポールでの新たな事業能力を強化することで合意した。RTXは、シンガポールでの機能拡張に1億3900万シンガポールドル超を投資する予定で、高度人材向けの雇用創出が進むとともに、シンガポールは同グループのグローバル事業ネットワークへの統合をさらに深めることになる。

シンガポール民間航空庁(CAAS)、EDB、GE Aerospace、International Centre for Aviation Innovation(ICAI)は、「 Singapore Partnership for Aviation & Aerospace Research and Capability (SPAARC)」設立に向けた覚書(MoU)を締結した。このパートナーシップは、AI、空域近代化、空力技術など幅広い分野で次世代の航空・航空宇宙技術を共同開発し、航空の未来を切り拓くことを目的として、政府、産業界、研究機関の関係者を結集するものだ。シンガポールは世界展開可能なイノベーション創出の共同拠点としての役割を担うことになる。

ロールス・ロイスとEDBは、シンガポールでの長年の製造・エンジンMRO事業基盤を活かし、航空宇宙およびパワーシステム分野での新たな成長機会を模索することで合意した。この提携では、世界的な需要拡大に対応するため、先端製造、エンジニアリング、技術基盤の強化に注力する。また、パワーシステム分野におけるエージェント型AIの活用を含め、AI活用の可能性を引き出すAIセンター・オブ・エクセレンスの設立についても検討する。

デジタル化と先端製造の分野で、フランスのタレス(Thales)グループとEDBは、AI、サイバーセキュリティ、クラウドコンピューティング、スマート製造における協力を強化するため、3件の覚書(MoU)を交わした。シンガポールはタレスのクラウドネイティブ型機内エンターテインメント・プラットフォームの3つのグローバル研究開発拠点の一つとなり、2030年までにクラウドとデータエンジニアリングの分野で40人近くの専門家を育成する。また、タレスはシンガポールにある「Cybersecurity & Digital Identity Manufacturing Competence Centre」を強化し、高度な自動化技術を統合することで生産性向上を図るとともに、銀行カード、身分証、パスポート用データページの製造分野でのより高付加価値な職種への移行を支援する。

政府・産業界・研究機関による戦略的連携を通じ、研究開発およびイノベーション能力の強化が引き続き進められる。各企業は、先端航空モビリティ、電動化、自動化やAIソリューションの大規模活用など、新興技術・次世代プラットフォーム分野で差別化された競争力を構築できるようになる。
 

シンガポール – 航空宇宙業界における理想的パートナー

シンガポールは、先端製造能力、サプライヤー・エコシステム、現地人材パイプラインの強化を通じて、航空宇宙産業エコシステムの強化を進めている。

企業はシンガポール国内で基幹部品を生産し、ミッションクリティカルな航空機部品やシステム向けに高品質なMROサービスを提供できるようになる。シンガポールには約3000社の精密エンジニアリング企業があり、航空宇宙・航空分野をはじめとするさまざまな産業向けに、部品、自動化ソリューション、技術サービスを提供している。

こうした取り組みは、有意義な企業連携にもつながっている。エンジンメーカーのプラット・アンド・ホイットニーは、シンガポール企業Applied Total Control Treatmentsと提携した。重要なプロセスの現地化を実現し、リードタイムの短縮と海外サプライヤーへの依存度の低減が図られている。

OEMメーカーと現地サプライヤーは、サプライヤー育成や共同イノベーションなどの活動で提携する際、引き続き「Partnerships for Capability Transformation (PACT) scheme」による支援を引き続き活用できる。
 


シンガポールは、高い信頼性、精度、安全性を確保して航空需要に対応するため、長期的な視点に立ちエコシステム全体を網羅する世界水準のインフラ整備を進めている。航空気象能力の強化や、データ駆動型・次世代航空交通管理能力の向上を目指すプログラムが挙げられる。

新ターミナル5の開業で、チャンギ空港の年間旅客対応能力は最大1億4000万人に拡大する見込みだ1。また、チャンギ・イースト開発計画とあわせて、チャンギ空港の貨物取扱能力は年間540万トンに拡大し、MRO、アフターマーケットサービス、物流に特化した工業用地も整備される。

EDBはシンガポールの航空宇宙分野の人材基盤を強化するための取り組みも進めている。企業と提携して既存従業員の研修を実施するほか、教育機関と企業の連携を促進し、AI、拡張現実(AR)ツール、ロボット工学などの新興技術を活用可能な、熟練した人材の供給源を育成している。

Singapore Aero Engine Services(SAESL)は、人材が業界の成長を持続させる上で依然として極めて重要だとして2件の覚書(MoU)を交わした。1件はEDBとの間で研修アカデミーの設立に関するものであり、もう1件は高等専門学校シンガポール・ポリテクニックとの間で、業界のニーズと教育課程を整合させるためのものだ。人材需要やエンジンの高度化に対応するため、今後5年間で1000人以上の技術者が同アカデミーで研修を受ける見込みだ。研修プログラムは12~18カ月間を予定している。これらの覚書は、SAESLが推進する総額2億4,200万シンガポールドルの大規模な拡張・変革プログラムの一環として締結された。

EDBのジャーメイン・ロイ副長官はエアショーで「シンガポールは今後も航空宇宙企業がアジアの成長にアクセスし、長期的な事業運営の安定性を確保できる、信頼性と革新性を兼ね備えたハブであり続けるだろう」と述べた。

元記事:Singapore’s aerospace sector gains altitude as Asia leads global aviation growth | Singapore EDB

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