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シンガポールの自動運転技術の開発 バスから配車サービス、港湾物流まで世界に先駆ける秘訣

シンガポールの自動運転技術の開発 バスから配車サービス、港湾物流まで世界に先駆ける秘訣

スマートシティの要となり、新たな経済成長の柱の一つとなる自動運転技術。自律走行車技術(AV)の活用が最も期待される分野の一つであり、今や多くの国や、自動車メーカーが最も力を入れる成長分野だ。完全自動運転車が実現すれば、人と物の両方を、より効率的に、安全かつ確実に輸送することができる。


その一方で自動運転技術の実際の展開には、技術開発以上の課題が存在する。それが一般公道における実証実験や、無人化による法整備だ。シンガポールは、自動運転技術の実際の展開に向けて、AV技術の開発とテストをサポートする統合されたアプローチを採用している。

 

バスから配車サービス、港湾物流まで。多様なシンガポールの自動運転技術

シンガポールでは、さまざまな分野において、自動運転技術の開発が行われている。そこでは、一企業レベルにとどまらない、多様なパートナーシップが展開されている。公的研究機関から、大手自動車メーカー、モビリティ関連企業、ITベンチャーなど、あらゆる関係者が協力しあう開発のためのエコシステムが構築されていると言ってもいい。ここではその多様な取り組みについてご紹介しよう。 まず、都市部における自動運転の開発では、アメリカのマサチューセッツ工科大学から生まれた企業nuTonomyが、シンガポール経済開発庁(EDB)のサポートを受け、シンガポール陸上交通庁と提携し、フランスのプジョー・シトロエン・グループとの自動運転車両の派遣サービスを開発しようとしている。さらに、こうしたプロジェクトは、都市部における人の輸送だけに限定されるものではない。

 

シンガポールでは、企業、研究機関、政府機関とのパートナーシップの促進が盛んで、さまざまな分野における都市モビリティの発展に、官民一丸となって取り組んでいる。例えば、自動運転バスの開発では、シンガポール・テクノロジーズ(ST)キネティクスを中心に、科学技術庁(ASTAR)、シンガポール国立大学、南洋理工大学などが中心となってコンソーシアムを立ち上げ、2020年初頭の実用化を目指し開発が行われている。また、港湾物流でも開発が進んでいる。ベルギーの物流会社Katoen Natieは、ジュロン島で12台の無人運転車両の走行をテストする予定だ。第1段階では、島内の化学プラントで、長さ約6~8kmの2つの区間を走行することになる。
更に、シンガポール交通省と港湾運営会社PSAは、豊田通商と、スウェーデンのトラックメーカースカニアと共同で、シンガポールの公道に使用する自律型のトラック隊列走行システムの開発に着手している。この隊列走行システムでは、無人トラックの隊列を導くために人間が運転する先導車が必要となるが、試運転では、ある港湾ターミナルから別のターミナルまで輸送される。このようにシンガポールでは、多様な分野において幅広い自動運転の開発に取り組んでいる。シンガポール経済開発庁(EDB)の運輸エンジニアリング担当ディレクターTan Kong Hwee氏は次のように述べている。「このような官民連携のパートナーシップにより、企業は、公的研究機関や他の業界関係者の能力を活用して新しいモビリティ技術とソリューションを共同開発ができ、自動運転がもたらすスマートな都市型モビリティが実現しつつあります。」

自動化AIの核となる公道でのテストベッド。シンガポールの環境づくりとは

シンガポールでは“交通”と“物流”というビジネスの循環に欠かすことができない二つの血流を自動化することで、効率化を図り競争力を強化しようとしている。
既にシンガポール政府は、自律走行車技術(AV)の展開に必要な、新たなインフラの整備に積極的に取り組んでいる。具体的には、企業がテストベッドを実施し、迅速にフィードバックを得て高い精度で技術を市場に投入するための環境づくりである。自動運転技術の要は、言うまでもなくAIだが、AIが機能するためには様々な交通状況のデータが必要になる。その日の交通量や、運転のパターン、更には天候や人の流れなど、機械学習を行うためにはあらゆる交通状況のデータ収集を行わなければならない。つまり、自動運転技術の開発には、公道でのテストベッドを可能にするあらゆる環境整備が求められるのだ。実はシンガポールでは、公道でのテストベッドを可能にする道路交通法の改正も既に行っている。また、公道での実験には安全性も担保しなければならないが、あらゆる車両をモニタリングし、交通状況をリアルタイムに監視する巨大な通信システムの構築を、南洋理工大学と世界的な半導体メーカーNXPセミコンダクターズを中心に、パナソニックなど12社からなるコンソーシアムを立ち上げ取り組んでいる。

こうしたソフト面の整備以外にハード面の環境整備もシンガポールは進んでいる。シンガポールの工業、商業地区の開発を行う機関JTCコーポレーションは、オフロードでの走行テストのために、工業団地「クリーンテック・パーク」内に、テスト用サーキットを建設中だ。また、ワンノースエリアは、2015年1月以来、シンガポールで初となるAVテストベッドのエリアとして指定されている。ここでは応募者は、ライブトラフィックで公共道路での自社のナビゲーションコントロールをテストすることができる。更に、これらのハードとソフト両方のインフラを連携させる体制も整えられつつある。陸運局は、CCTVS、DSRCビーコンのようなインフラを実装し、AVテストから生成されたデータを収集して分析するためのバックエンドシステムも確立している。

 

官民一体で実用化に取り組む仕組み

シンガポールは、なぜこれほど多岐に渡る分野において、自動運転技術の実際的な展開を推し進めることができるのだろうか。それは、これまでご紹介してきた通り、公共部門と民間部門の緊密な連携に他ならない。シンガポールは自動運転技術を、限られた土地と人的資源を効率化させる輸送解決策の核ととらえ、官民一体となって取り組んでいるのである。近い将来、公共交通システムに自動運転技術が普及し、人々にも受け入れられるだろう。
世界の自動運転技術の実用化は、シンガポールから実現され世界へ広まっていくのかもしれない。

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