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ジョホール・シンガポール経済特区の重要性高まる
―強みを合わせたビジネス展開が可能に

ジョホール・シンガポール経済特区の重要性高まる
―強みを合わせたビジネス展開が可能に

世界経済は先行き不透明だが、ジョホール・シンガポール経済特区(JS-SEZ)は存在感を増している。すでに雪印メグミルクの合弁企業などが生産施設を開発中だ。

Heavy traffic congestion along the Johor–Singapore Causeway with trucks and vehicles entering Johor Bahru, against a backdrop of high-rise buildings and waterfront areas.
相互関税など経済が「冬の時代」に入る可能性 

シンガポールのアルビン・タン国務相(貿易産業担当)は、世界経済が不安定な状況にある中、シンガポールとマレーシアが共同で海外からの投資を誘致しやすくするというジョホール・シンガポール経済特区(JS-SEZ)の根底にある提案の重要性が増していると述べた。 

タン国務相は9月18日に行われたJS-SEZ関連イベントで「米国の相互関税発動前に企業が米国向け出荷を前倒ししたため世界経済は持ちこたえてきたが、今後数カ月で新規受注が減少し始めれば、最終的には打撃を受けるだろう」と話した。 

こうした状況は目前に迫っている可能性がある。タン国務相は、数カ月にわたり好調だったシンガポールの非石油国内輸出が8月に11.3%下落したことを挙げた。専門家によると、米国の相互関税発効前の駆け込み輸出が収束してきたため、出荷量が減少してきたと考えられる。 

KPMGシンガポールと、シンガポールとマレーシアの英国商工会議所が共催したイベントで講演したタン国務相は「極めて冷静でいる必要がある。経済状況は不安定で、冬の時代に入る可能性があると認識している」と述べた。 また、受注に影響を及ぼすのは、国ごとに課される関税だけでなく、医薬品や半導体など産業分野に対する関税の可能性もあると付け加えた。  
 

ジョホールとシンガポールの相互補完的強みを活用 

タン国務相は「このような状況から、国々が志を同じくし、企業も同じ志を持ち、そして共に競争することがより重要になる。これこそがJS-SEZを進めている本質だ」と述べた。「JS-SEZの核心は、シンガポールとジョホールの相互補完的な強みを活用することにある」と述べ、シンガポールは安定した政治環境、法の支配、強固な金融セクターに強みがある一方、国土や天然資源が不足していることを挙げた。

 さらに「ジョホールの土地と天然資源の活用が、シンガポールの強みを補完する。これにより、ジョホールとシンガポールは、海外からの投資を共により効果的に誘致できるようになる。これこそがJS-SEZの価値提案だ」と強調した。 

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成果が表れる企業も 

多くの企業がすでにJS-SEZで事業を連携させたり、事業を拡大したり、新たな能力を育成することで成果を上げ始めている。

タン国務相は例として、韓国のコングロマリットSPCグループ傘下のベーカリーチェーンParis Baguetteが、シンガポールに地域統括本部とイノベーションセンターを設立する一方、ジョホールをハラル対応の製造拠点に選んだことを挙げた。 

域内で事業を拡大中のシンガポールのAgrocorp Internationalが、2023年に雪印メグミルクと合弁会社Agro Snowを設立したことにも触れた。 

Agro Snowは大豆以外の豆類など、環境負荷の少ない植物からタンパク質やでんぷん製品を生産するため、ジョホールのタンジュン・ランサット工業地域に新たなタンパク質抽出施設を開発中だ。 

タン国務相によると、Agro Snowジョホール施設で使用予定のタンパク質抽出技術は、シンガポールのAgrocorpがシンガポール工科大(SIT)と共同開発した。 

タン氏は「ジョホールで製造し、シンガポールで研究開発(R&D)や知的財産権(IP)保護を行うという、相互補完的な役割分担の成果が出始めているのがわかる」と語った。 
 

多国籍企業と地元中小企業の提携促進 

KPMGシンガポール・資本市場グループのパートナー、ヤップ・ウィーキー氏は、JS-SEZが先進製造業やデータセンター、石油・ガス、スペシャリティケミカル、食品加工、環境配慮型ソリューションなどの分野での競争力を再構築する潜在性を持つ証拠があると述べ「現在目にしていることから、見通しは明るい。機会は豊富にある」と述べた。

JS-SEZ の成功の鍵となる可能性が高い、5つの重要な構成要素があるという。「人材の流動性と育成」「強化されたインフラ」「整合性のある規制枠組み」「合理化された税関や国境管理」「透明性の高いガバナンス(統治)と紛争解決」だ。 

ヤップ氏は「これらの要素のそれぞれが、大企業か中小企業かにかかわらず、JS-SEZの中でどのように事業を行い、成長するかに直接影響を与える」と述べた。多国籍企業のような大企業がJS-SEZで事業を立ち上げることで、中小企業をバリューチェーンに組み込むことができ、支援が可能になるという。 

例えば、中小企業は半導体基板などの部品製造や、精密加工サービスの提供、物流支援、多国籍企業向けサプライチェーン業務を行え、高額な直接投資の基準を満たさずとも、意義ある貢献ができる。

同氏は、KPMGはJS-SEZを二国間協力のモデルと地域統合の青写真として捉えていると付け加えた。 
 

元記事「Johor-Singapore SEZ assumes greater relevance as global economy becomes more challenging: Alvin Tan」(9月13日付ストレーツ・タイムズ紙)から翻訳し編集しました。誤りについては、すべて翻訳側の責任となります。   

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