海外からの企業誘致で優れたエコシステムを構築
ジュロン島にさまざまな国籍の企業が集まっているのは、海外投資の呼び込みに力を入れるシンガポールならではのことだ。世良さんも「シンガポールは東京23区ほどの面積と国土が小さく、人や資源に限りがあるため、企業や人材を海外から積極的に呼び込んで産業を発展させてきた国。その歴史を、ジュロン島でも肌で感じました」と語る。 一方、ジュロン島を持続可能な化学・エネルギー産業拠点に転換させるために、シンガポール経済開発庁(EDB)は現在、さまざまな取り組みを行っている。サステナビリティを考慮した新たな生産体制の構築や、資源最適化のためのインフラの整備などがその具体的な内容で、2021年にはCO2排出量の大幅な削減や、持続可能な製品の生産量の引き上げの目標を明記した計画「サステナブル・ジュロン島」も発表した。
ジュロン島に製造拠点を置く旭化成の現地法人・Asahi Kasei Synthetic Rubber Singaporeの髙森仁文取締役社長は、番組の取材に対しこんなコメントをしていた。
「エネルギーの消費を抑えるために今後もさまざまな設備投資を行っていく予定で、EDBと連携してプロジェクト化していきます」
世良さんはそうしたジュロン島のサステナブルな取り組みに関して、期待を込める。
「世界から最先端の技術も集まるシンガポールでは、東南アジア初となる水素対応の発電所の建設を計画していて、建設予定地はジュロン島だそうです。エネルギーは私たちの生活に欠かせないものです。『日経プラス9』で核融合発電や太陽電池などの日本の技術を取材して以来、環境やエネルギー産業に興味を持つようになったので、シンガポールの発電所についても今後が楽しみです」
多国籍かつ多様な企業が優れたエコシステムを形成しているのは、化学・エネルギー産業だけではない。バイオ医薬品、医療機器分野でもエコシステムの構築が進んでいる。世良さんはそのことについてこう語った。
「例えば、製薬大手・中外製薬がシンガポールに設立した研究子会社の中外ファーマボディ・リサーチへの取材でも、CEO兼リサーチヘッドの嶋田英輝さんが、『シンガポールには世界から人や技術、情報が集まり、一体となって発展している。コミュニティーに参加することでインフラが共有できる環境なので、ゼロから開発能力を構築しなくても薬剤開発が迅速に進む』とおっしゃっていました」
シンガポールではそのように、日本を含む海外からも積極的に企業を誘致し、エコシステムを構築して強化。環境行動計画「Green Plan 2030」を発表するなどシンガポール政府と進出企業とが連携して、持続可能な社会の実現を目指している。