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シンガポールのビジネス・エコシステム:東南アジアでの機会を創出

シンガポールのビジネス・エコシステム:東南アジアでの機会を創出


シンガポールは、その戦略的位置に加え、活発なエコシステムと豊富な提携先で、企業の製品研究開発や東南アジアでの業務拡大の拠点として選ばれている。

ここでは、進出企業が活用可能なシンガポールの主要な提携先の一部を紹介する。
 

A*STAR:最新鋭の研究開発と提携モデル

シンガポールの主要な公立研究開発機関である科学技術研究庁(A*STAR)は、先進製造(アドバンスト・マニュファクチャリング)、デジタル・テクノロジー、食品化学、スキンケア、生物医学(バイオメディカル)といった分野の17の研究所を統括している。

A*STAR内には、生物医学研究評議会 (BMRC: Biomedical Research Council)、科学・工学研究評議会(SERC: Science and Engineering Research Council)、およびイノベーション・企業化グループ(I&E: Innovation & Enterprise)があり、それぞれ生物医学、物理科学、工学科学の研究開発を調整・推進する。これらの組織は、科学的発見を推進するだけでなく、人材を育成し、産業界や学術界との協力を促進し、イノベーションを推進する役割を担っている。

研究機関例

名称 専門分野
説明

バイオプロセシング技術研究所(BTI: A*STAR Bioprocessing Technology Institute)

バイオプロセシング(生物の持つ機能を活用した生産技術)、バイオものづくり

バイオプロセス科学やバイオものづくり技術の研究開発を指揮し、生物医学の商用化を支援する。

通信情報研究所(I2R: A*STAR Institute for Infocomm Research)

人工知能(AI)、データ分析、サイバーセキュリティー

AIアプリケーション、安全な通信、データ分析など、次世代デジタル技術を開発する。 

マイクロエレクトロニクス研究所(IME: A*STAR Institute of Microelectronics)

半導体、先進製造業、フォトニクス

半導体技術やチップ設計、パッケージングなど、マイクロエレクトロニクス分野の研究開発を主導する。

化学・エネルギー・環境持続可能性研究所(ISCE2: A*STAR Institute of Sustainability for Chemicals, Energy and Environment)

先進化学・材料

化学、クリーンエネルギー、環境技術向けの持続可能なソリューションを開発し、循環型経済とグリーン製造業を支援する。  

シンガポール食品・バイオ技術革新研究所(SIFBI: A*STAR Singapore Institute of Food and Biotechnology Innovation)

食品、バイオ技術、未来型食品

アグリフードと健康イノベーション分野で、代替タンパク質、合成生物学、栄養科学研究を専門とする。

 

A*STAR ISCE2

A*STAR ISCE2

研究機関例

名称 専門分野 説明

業務委託(Fee-for-Service)

A*STAR傘下の研究専門知識、高度な設備、製品検証・試作品・テスト向けの研究室設備に的を絞った業務委託。

バイオプロセス科学やバイオものづくり技術の研究開発を指揮し、生物医学の商用化を支援する。

設備共有

国立半導体技術移転・革新センター(NSTIC: National Semiconductor Translation and Innovation Centre)のクリーンルームや、A*STAR SIFBIの食品イノベーション試作品製造施設など、世界級の設備を共有。

設備投資削減、製品の準備と生産拡大を加速する。  

合同プロジェクト・合同研究室

A*STARと研究開発事業に共同投資、またはA*STAR内の共同管理研究室に企業チームを配置。

緊密な連携が可能。日本の業界の強みとシンガポールの研究開発能力を統合。強力な知的財産効果を創出する。

コンソーシアム(企業連合)

再製造(リマニュファクチャリング)技術開発センター(A*STAR ARTC)など、A*STARが主催する多方面にわたる提携体制に加入。

研究開発リスクや費用の分担、広範な業界・学術界ネットワークへのアクセス、業界水準や展開可能な取り組みの共同策定。 

 


戦略的国家イニシアチブ:成長推進力

シンガポールは、実用可能な研究開発や試験事業可能性を提供する、セクター別のプラットフォームを設立している。

  • NSTIC:域内エレクトロニクス需要増加に伴い成長が見込まれるシンガポール主要重点分野、半導体業界の成長を支援する。
  • A*STAR SIFBI:代替タンパク質、栄養科学、合成生物学の研究をサポートする。シンガポールはアジアの「フードテック」ハブとして台頭を続けている。
  • NAIS 2.0:シンガポール国家AI戦略。シンガポールのAI人材の育成と、倫理的で責任のあるAI開発を促進する。
  • A*STAR ARTC:世界的な企業が新しい製造ソリューションを試験し規模を拡大する場。 。
  • PRECISE:シンガポール精密健康研究(Precision Health Research Singapore)は、アジアに重点を置いたゲノム学やヘルスケア用データサイエンスを活用している。
     
大学と産学連携機関

シンガポール国立大(NUS)や南洋理工大(NTU)などの名門大学は、積極的に商用化や業界提携を推進している。

技術移転・イノベーション(TTI):大きな影響力を持つ研究を市場に投入し、国際的な提携や外国企業向け免許取得を支援する。

  • NUSエンタープライズ:業界提携やスタートアップ(新興企業)育成を促進
  • NTU:エンジニアリング、持続可能性、スマートキャンパス・イノベーションの先駆者。提携研究開発やスタートアップ・スピンオフ向けローンチパッド
     
ベンチャーキャピタル(VC)とスタートアップのエコシステム

シンガポールの活発なエコシステムは、進出企業に多くの利点をもたらす。VCが持つネットワークや市場知識、域内で4000社を超えるスタートアップの革新的な技術に触れることで事業の発展を加速できる。

農林中央金庫は、シンガポール政府系投資会社テマセクと提携し、アジア太平洋地域のアグリフード・テックの新興企業投資に重点を置くファンドを組成した。共同投資とイノベーションのモデルの一例となる。

  • 主要VC:テマセク、Vertex Holdings、Monk's Hill Venturesなど
     
主要業界イベント

シンガポールはまた、企業や地元提携先とのつながりを深め、業界関係者やイノベーターとを結びつける。

主要イベント:

  • SWITCH:シンガポール最大のスタートアップや多国籍企業向けイノベーションイベント。新興企業や企業など、多様な参加者が一堂に会する。
  • SIEW:国際エネルギー週間。持続可能性を重視した製品やサービスの鍵となる。
  • SIAW:代替タンパク質やスマート・サプライチェーンに関連したアグリフード・イノベーションの地域展示会。
  • シンガポール航空ショー:アジア最大の航空関係博覧会。エレクトロニクス、エンジニアリング、航空業界をつなぐ。
  • GSTC:世界的な宇宙・技術会議。新興テクノロジー分野に焦点を合わせている。
     
テックビジネス向けセミナー交流イベント (SWITCHにて)

テックビジネス向けセミナー交流イベント (SWITCHにて)

成功事例

大手企業はシンガポールに様々なモデルの整った基盤を確立している。

  1. HOYA:シンガポール拠点で先端光学技術の研究開発を推進
    HOYAは、シンガポールを次世代半導体技術のグローバル拠点としている。研究開発と製造を一体化した「HOYA Electronics Singapore」は、世界初の第2世代EUVマスクブランクスを開発した。HOYAは、NTUとの共同研究など、シンガポールのエコシステムを活用することで技術革新を加速している。
  2. 中外製薬:抗体エンジニアリング技術で新たな医薬品を創出  中外製薬は、シンガポールを初の海外創薬拠点「Chugai Pharmabody Research(CPR)」と位置づけ、抗体医薬品の研究開発を推進している。CPRは日本の研究所と連携して発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬を開発し、シンガポール初のグローバル承認薬となった。また、A*STARと共同でデング熱治療薬の開発にも取り組んでいる。CPRは恒久的な研究拠点としてさらなる医薬品開発を目指している。 
  3. デル(DELL):シンガポール・デザイン・センターで国際的な製品イノベーションを実現
    デルとハードウェア子会社のエイリアンウェアのモニターや周辺機器は、世界販売開始前にシンガポール・デザイン・センター(SDC)で綿密な設計、テスト、開発を行っている。2022年には製品が国際的な賞を獲得するなどの成功を収めた。

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